ティアル・ナ・エストレア ―青髪の双子の王子―

涼月

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第二章 使命を探す旅

第32話 ハダルの過去

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 朝食後、ジオは水瓶を担いで馬の出産の手伝いへと出かけて行った。

 自分にも何かできることは無いかと思いながら、街へ仕事に行くハダルに声をかけると、今日は通訳の仕事だから一緒に行こうと気軽に誘ってくれた。
 飛翔は嬉しくなって頷く。

「フィオナ、何かついでに買ってくる物はあるか?」
 ハダルの言葉に、フィオナは部屋から大きな袋を持って来た。

「買い物はないんだけど、ミアたちに洋服を持って行ってもらえるかしら?」
「おお、ありがとう。帰りに寄ってくるよ。きっと喜ぶぜ。いつも悪いな」
「何言っているのよ。私だってミアたちみんな大好きだから楽しんで作っているんだから、ハダルが気にする必要なんてないんだからね」

 フィオナはそう言って、ハダルの肩をトントンと叩いている。
 二人の仲睦まじい様子を見ながら、まるで新婚さんみたいだなと飛翔は思っていた。


 昨日フィオナと歩いた近道を二人で肩を並べて歩く。
 男二人ではちょっと道幅が狭いのだが、なんとなく話しながら歩きたかった。

「飛翔は何か国語話せるんだ? バルト語は話せているけど、他には?」
「うーん、天花語は分かる」
「へー、凄いじゃないか。他には?」
「どうだろう、キルディア語も少しならわかるかも」
「おお、それだけ分かれば、今度お前も通訳の仕事やってみるといいぜ。割がいい仕事だからな」

 端正な顔をほころばせた。
 ハダルを見ていると、なぜか飛王を思い出すと思った。

 武術ができるからだろうか?
 快活でいつも希望に満ちた表情をしているからだろうか?

 不思議に思いながら見つめていると、視線に気づいたハダルがちょっと戸惑ったような顔になる。

「俺の顔に何かついているか?」
「いや、すまない」
 飛翔は気恥ずかしくなって視線をそらした。

「ハダルはいつからドルトムント達と一緒に住んでいるんだ?」
「うーん、そうだな。もう六年くらいになるかな。街で喧嘩してぶっ倒れていたところを拾われた。このミザロに来て、二、三年たったころかな」
 ハダルは懐かしむような顔で続けた。

「俺は気づいたら船に乗って暮らしていたんだよ。親の顔は知らないから、生まれてすぐ両親が死んだか、捨てられていたかはわからん。毎日毎日船の上。船の奴隷として働いていた。嵐にあって死にそうな目にもあったし、鎖に繋がれて帆船を漕いだり、食事の支度をしたり……でも、ある港で停泊中に嵐が来たんだ。俺は神に感謝したよ。海の真ん中じゃ逃げられない。でも港なら、逃げられる。嵐のどさくさに紛れて海に飛び込んだのさ。荒波にもみくちゃにされて……死ぬかと思った時に、運よく浜に打ち上げられた。それからはずっと逃亡生活さ。逃れ逃れて、ミザロまでやってきた。と言っても、なんの取り得もないガキが一人で生きていくためには、人殺し以外何でもやったさ」

 ハダルは壮絶な身の上を語りながらも、爽やかに笑っている。
 飛翔は圧倒された。

「ドルトムントに出会って、俺は始めて人間らしさを感じる事ができたんだ。ドルトムントとフィオナは俺にとって命の恩人であり、家族の温もりをくれた人達なんだよ。だから、二人のことを大切にしたいと思ってさ」
 そう言ったハダルの穏やかな笑顔に、飛翔も笑顔になる。

「飛翔、お前いい笑顔になったな。お前も安心しているといいぜ。あの二人は優しいからさ」
「ああ、ありがとう。二人だけで無くて、ハダルもジオも優しいよ」
「そうか! 嬉しいことを言ってくれる。じゃあ、優しいお兄さんが、お仕事を斡旋してやるから覚悟しとけよ」
 そう言って、また笑った。


 ハダルはそのままミザロの町の中央を流れる川の船着き場に向かった。後に続く飛翔はその川べりの様子を見て、聖杜の川にとてもよく似ていると驚いた。

 商人たちの間に入って、ハダルは次から次へと商談の通訳をこなしていく。入れ替わり立ち代わりやって来る商人たちの操る言語は各国様々だった。

 どんな言葉で話しかけられても、ハダルは臆することなく話していく。飛翔は驚いて尊敬の念が沸き上がった。

 ハダルは一体何か国語しゃべれるのだろうか?

 なんの取り得もないどころか、努力の塊のような男だと思った。
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