45 / 91
第四章 謎の糸口
第44話 イリス語と黒い石碑
しおりを挟む
俺は飛王が好きだ。
いつでも、どんな時も真っすぐで、明るくて、強くて。
いつもみんなの中心になって、まとめて率いてくれる。
そんな飛王の隣にいることは、双子の俺にとっては当たり前のことだった。
飛王の隣にいられることが誇りだったし、自慢の兄だった。
でも、それが一生続くことに、一片の息苦しさも感じなかったかと問われれば、直ぐに首を縦に振れない自分がいる。
俺は本当は一人になりたかったのだろうか。
いや、そんなことは思っていない。
今も、飛王の元に帰りたいし、飛王をそばで支えたいと思っている。
でも、今この彼方の地に居て、優しい人々に囲まれて、ほっとしている自分もいる。
このまま使命なんて忘れてしまって、みんなと穏やかに暮らしていきたい……そんな誘惑に負けそうになる。
俺はやっぱり情けない奴だな……
「おーい」
「飛翔!」
「あ! すまない。ハダル」
笑顔を含んだ声で何度も呼びかけられて、ようやく飛翔は我に返った。
今はイリス語の勉強中。ハダルはとても教え方が上手な先生で、飛翔はアッと言う間にイリス語を習得した。
と言うよりも、あることに気づいたと言う方が正しい。
発音と文法が、エストレア語に似ていたのである。
聖杜とは遠く離れた海上の島、イリス島。
そんなところでエストレア語が普通に使われているとは、どう言う事なのかと驚く。
だが、全てがエストレア語と言うわけでは無い。
あの花のようなエストレア文字は一切使われていない。
使われている文字は、キリエラ文字。もともとはキリトの文字なので、今のキルディア文字と近い。だからハダルが、キルディア語とイリス語は似ていると言っていたのだと納得した。
キリト語は、リフィアに教わっていたので、だいたいわかる。
後は、エストレア語の音を、どのキリエラ文字に変換させているのかを突き止めれば、イリス語は完成する。
それにしても、なぜ秘したはずのエストレア語が、こんなところで使われているのか?
ドルトムントにイリス島の歴史を聞いてみたが、あまり多くの文献は無かった。
考え方としては二通りだ。
イリス島には、聖杜国と同じ言葉を使う民が、古から住んでいたのかもしれない。
でも、できればもう一つの考え方であって欲しい。
千年前の災害の前に、聖杜の民がイリス島まで逃れていたと言う可能性。
飛翔の頭にハダルの言葉が蘇る。
イリス島は香りと医療の島……流花だ!
流花がイリス島へ渡っていたかもしれない!
想像は希望的観測に変わり、やがて確信に繋がった。
イリス島へ行かなければ! なるべく早い時点で。
そんなことを考えながら次の日も、指貫を仕上げるためにドルトムントの作業場へ行った。
今日はドルトムントは、発掘の資金提供をしてくれている地方省の役員のところへ報告に行っている。この役人からの資金援助に漕ぎつけられたのも、ハダルの手腕のお陰だった。
フィオナの言う通り、ハダル様様なのであった。
作業場の真ん中には、ドルトムントが熱心に磨いていた石碑が鎮座している。
懐かしいエストレア文字。
飛翔は近づくと、指でなぞりながら文字を読む。
この石碑は恐らく泉の淵をかたどっていた壁石たち。
『聖杜の民の誓』が彫りあげられている。
聖杜の民の、思いの深さを感じて胸が熱くなった。
ふと、黒く覆われた石碑が目に入った。
白い大理石で作られた石碑しか知らなかった飛翔は、訝し気な顔で近づいた。
泥汚れでもなく、砂の塊でもない。
一面に、細かな粒子のような感じでへばり付いている黒い汚れ。
苔? のような感じだな。
ドルトムントがまだ作業中のその石碑にもエストレア文字が刻まれていた。
あんな砂漠に埋もれていたのに、こんな色になっているなんて。
聖杜の碑文は神殿にある物だけのはず。だから苔に覆われる可能性はほぼない。
この石碑は一体どこにあったのだろうと思って眺めていた飛翔は、驚きの目になる。
第三章?
なんだ? これは?
碑文は第二章までしかなかったはず。
第三章が存在したのか?
一体どこに?
心臓が早鐘のように鳴り響く。
これは神が言っていた、失われた意味が書かれた物なのだろうか?
苔むした部分をなぞりながら、必死で文字を追う。
黒い石碑はそれなりの大きさを有していて、『第三章』全ての文字がちょうどすっぽり納まっていた。
第三章
宇宙の神は、やがて人々が成長し、宇宙の民であることよりも
自分が神となることを望むようになると分かっていた
宇宙の神の存在がいらなくなった時、扉もその役割を終える
だから、扉を閉じる方法も授けた
それは鍵を壊すための剣、星砕剣と呼ばれた
扉を閉じる方法だと?
扉の鍵とはなんだ?
そんなものがどこにあるのだろう?
そして何より衝撃的だった一文。
星砕剣は鍵を壊すための剣!
独占を欲する敵から守る盾の剣では無かったのか?
飛翔の頭に不安が押し寄せる。
飛王は大丈夫だったのだろうか?
これでは飛王は何の力も持っていない状態で、神親王と対峙することになったはず。
神親王の圧倒的な武力の前で、飛王は一体どうやって戦ったのだろうか?
どうやって『泉』を守ったのか?
守れなかったから、飛王もろとも砂漠と化してしまったのか……
それでも、心の中で叫ぶ。
飛王! 無事でいてくれ!
飛翔は焦りで居てもたってもいられない気持ちになった。
一日も早く発掘現場へ行かなくては。
手がかりが欲しい。
第三章があると言うことは、第一章、第二章も別の内容が書かれているはずだ!
早く謎を解かなければ!
そして、一日も早く飛王の元へ帰らなければ!
いつでも、どんな時も真っすぐで、明るくて、強くて。
いつもみんなの中心になって、まとめて率いてくれる。
そんな飛王の隣にいることは、双子の俺にとっては当たり前のことだった。
飛王の隣にいられることが誇りだったし、自慢の兄だった。
でも、それが一生続くことに、一片の息苦しさも感じなかったかと問われれば、直ぐに首を縦に振れない自分がいる。
俺は本当は一人になりたかったのだろうか。
いや、そんなことは思っていない。
今も、飛王の元に帰りたいし、飛王をそばで支えたいと思っている。
でも、今この彼方の地に居て、優しい人々に囲まれて、ほっとしている自分もいる。
このまま使命なんて忘れてしまって、みんなと穏やかに暮らしていきたい……そんな誘惑に負けそうになる。
俺はやっぱり情けない奴だな……
「おーい」
「飛翔!」
「あ! すまない。ハダル」
笑顔を含んだ声で何度も呼びかけられて、ようやく飛翔は我に返った。
今はイリス語の勉強中。ハダルはとても教え方が上手な先生で、飛翔はアッと言う間にイリス語を習得した。
と言うよりも、あることに気づいたと言う方が正しい。
発音と文法が、エストレア語に似ていたのである。
聖杜とは遠く離れた海上の島、イリス島。
そんなところでエストレア語が普通に使われているとは、どう言う事なのかと驚く。
だが、全てがエストレア語と言うわけでは無い。
あの花のようなエストレア文字は一切使われていない。
使われている文字は、キリエラ文字。もともとはキリトの文字なので、今のキルディア文字と近い。だからハダルが、キルディア語とイリス語は似ていると言っていたのだと納得した。
キリト語は、リフィアに教わっていたので、だいたいわかる。
後は、エストレア語の音を、どのキリエラ文字に変換させているのかを突き止めれば、イリス語は完成する。
それにしても、なぜ秘したはずのエストレア語が、こんなところで使われているのか?
ドルトムントにイリス島の歴史を聞いてみたが、あまり多くの文献は無かった。
考え方としては二通りだ。
イリス島には、聖杜国と同じ言葉を使う民が、古から住んでいたのかもしれない。
でも、できればもう一つの考え方であって欲しい。
千年前の災害の前に、聖杜の民がイリス島まで逃れていたと言う可能性。
飛翔の頭にハダルの言葉が蘇る。
イリス島は香りと医療の島……流花だ!
流花がイリス島へ渡っていたかもしれない!
想像は希望的観測に変わり、やがて確信に繋がった。
イリス島へ行かなければ! なるべく早い時点で。
そんなことを考えながら次の日も、指貫を仕上げるためにドルトムントの作業場へ行った。
今日はドルトムントは、発掘の資金提供をしてくれている地方省の役員のところへ報告に行っている。この役人からの資金援助に漕ぎつけられたのも、ハダルの手腕のお陰だった。
フィオナの言う通り、ハダル様様なのであった。
作業場の真ん中には、ドルトムントが熱心に磨いていた石碑が鎮座している。
懐かしいエストレア文字。
飛翔は近づくと、指でなぞりながら文字を読む。
この石碑は恐らく泉の淵をかたどっていた壁石たち。
『聖杜の民の誓』が彫りあげられている。
聖杜の民の、思いの深さを感じて胸が熱くなった。
ふと、黒く覆われた石碑が目に入った。
白い大理石で作られた石碑しか知らなかった飛翔は、訝し気な顔で近づいた。
泥汚れでもなく、砂の塊でもない。
一面に、細かな粒子のような感じでへばり付いている黒い汚れ。
苔? のような感じだな。
ドルトムントがまだ作業中のその石碑にもエストレア文字が刻まれていた。
あんな砂漠に埋もれていたのに、こんな色になっているなんて。
聖杜の碑文は神殿にある物だけのはず。だから苔に覆われる可能性はほぼない。
この石碑は一体どこにあったのだろうと思って眺めていた飛翔は、驚きの目になる。
第三章?
なんだ? これは?
碑文は第二章までしかなかったはず。
第三章が存在したのか?
一体どこに?
心臓が早鐘のように鳴り響く。
これは神が言っていた、失われた意味が書かれた物なのだろうか?
苔むした部分をなぞりながら、必死で文字を追う。
黒い石碑はそれなりの大きさを有していて、『第三章』全ての文字がちょうどすっぽり納まっていた。
第三章
宇宙の神は、やがて人々が成長し、宇宙の民であることよりも
自分が神となることを望むようになると分かっていた
宇宙の神の存在がいらなくなった時、扉もその役割を終える
だから、扉を閉じる方法も授けた
それは鍵を壊すための剣、星砕剣と呼ばれた
扉を閉じる方法だと?
扉の鍵とはなんだ?
そんなものがどこにあるのだろう?
そして何より衝撃的だった一文。
星砕剣は鍵を壊すための剣!
独占を欲する敵から守る盾の剣では無かったのか?
飛翔の頭に不安が押し寄せる。
飛王は大丈夫だったのだろうか?
これでは飛王は何の力も持っていない状態で、神親王と対峙することになったはず。
神親王の圧倒的な武力の前で、飛王は一体どうやって戦ったのだろうか?
どうやって『泉』を守ったのか?
守れなかったから、飛王もろとも砂漠と化してしまったのか……
それでも、心の中で叫ぶ。
飛王! 無事でいてくれ!
飛翔は焦りで居てもたってもいられない気持ちになった。
一日も早く発掘現場へ行かなくては。
手がかりが欲しい。
第三章があると言うことは、第一章、第二章も別の内容が書かれているはずだ!
早く謎を解かなければ!
そして、一日も早く飛王の元へ帰らなければ!
0
あなたにおすすめの小説
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる