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第五章 シャクラ砂漠へ

第45話 発掘調査へ出発

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 ドルトムントがご機嫌で帰ってきた。

 そして、開口一番、
「みんな聞いてくれ。来週、また発掘に行くぞー」
「それじゃあ」
 ハダルの顔が明るくなる。

「ああ、ハダル。ロドリゴ様からは激励されたぞ。もちろん資金も出してくれるって言ってたし。良かった良かった~。石碑はいらないと言ってくれたから、ゆっくり調べられるし、いいことづくめだったぞ!」
「資金提供続けてくれるんですね! それは本当に良かった」

 心の底から安心した様子のハダル。
 今回の資金提供の約束は、もともとハダルがロドリゴに掛け合って取り付けたものだった。
 ロドリゴは地方省ディーファンシァンの役人であり、隊商組合の元締めでもある。ハダルの話を聞いて、恐らく古い遺跡の発掘に興味を持ったわけでは無く、砂漠に眠っているかもしれない資源の発見を期待しての資金援助だったと思われた。
 だが、今まで何の進捗も無かったので、いつ援助を断ち切られるかと内心心配していたのだ。

「発掘! 発掘!」
 浮かれて喜ぶドルトムントの顔を見ると、ハダルも嬉しくなる。
 やれやれと言う顔のフィオナが、スープを配りに来た。

「お父さん! ハダルに感謝してよね!」
「もちろん! ハダルありがとう!」
 無邪気なドルトムントの笑顔に、フィオナがげんなりする。

「いや、俺も何が出てくるか楽しみだからさ!」
「もう、ハダルはいっつもそう言ってくれるのよね。本当に、いつもいつもありがとう」
 フィオナの表情が柔らかくなる。
 感謝を込めた瞳に見つめられて、ハダルの笑顔が一層輝いた。


 ありがたい!
 これで砂漠に行かれる。

 二人のやり取りを聞いていた飛翔は、喜びで熱くなった。
 一刻も早く砂漠に行きたかった飛翔にとって、発掘調査に同行できるのは絶好の機会だった。

 あの砂の下に、聖杜国が埋もれているのは間違いないはず。
 一体何が起こったのか分かると思うし、上手くすれば聖杜に帰れるかも知れない。

 ふと、みんなと別れるのは辛いな……と言う気持ちが沸き上がってきたが、慌てて心の奥底に閉じ込める。
 飛王と聖杜の民の事を思えば、ぐずぐずしている余裕は無いのだからと、使命と向き合う覚悟を決めた。

 
 大量の食料品や水を積んだ荷車を馬に牽かせて、シャクラ砂漠へ向かって出発したのは、それから五日後の事だった。
 前回は、ハダルの背中で眠ったまま通った道。
 飛翔は今回初めて道々の景色を見ることが出来た。

 家からは、長いだらだら道をゆっくり降りて行く。両側の木々はだんだん低木に代わり、乾いた草原に代わり、やがてごつごつとした岩肌がむき出しになった。
 周りに家は無く、ところどころに岩山が点在する合間を縫うように進んだ。

「フィオナ、発掘の道具はどうするつもりなんだ?荷車には食料と水しか積まれてないようなんだが」
飛翔が尋ねると、
「大丈夫! ランじいのところに置いてあるから」
「ランじい?」


 陽が傾きかけた頃、岩山の陰に小さな家が数件、砂風を避けるように建っているのが見えてきた。
「やっと着いた!」
 フィオナが嬉しそうに声を挙げると、ちょうど入り口の戸が開いて、強面な大男が出てきて手を挙げた。
「よお! フィオナ! 待ってたぜ!」
「ランじい! また来たよ!」

 フィオナが駆けていくと、ランじいと呼ばれた男は嬉しそうに相好を崩した。歳の頃はドルトムントと変わらないくらいだが、鍛え上げられた体のあちこちに傷が見える。

 多分元戦士だな。

 飛翔がそう思った時、ランじいが飛翔に目を止めた。
「おお! あの時の死にぞこないの小僧、生き返ったのか!」
「あの時も帰りに泊めてもらったからね。ランじいには世話になったんだよ。さ、飛翔ご挨拶」
 フィオナに促されて、飛翔は頭を下げた。
「飛翔と言います。その節はお世話になってありがとうございました」
「いいってことよ。俺の名前はランボルト。お前が思った通り、元兵士さ!」
 ランボルトの眼が鋭く光った。
 考えていることを見透かされて飛翔がドギマギしていると、
「フィオナの友達は歓迎するぜ! だがな、俺は世の中では死んだことになってんだ。死んだから除隊できたってことさ。だから、俺の居場所をペラペラしゃべるようなら、首と体が離れること覚悟しておけよ!」
 凄むようなまなざしを向けてきたが、飛翔が真っすぐに見返したのを見て、ふっと表情を緩めた。

「もう! ランじいったら、怖い顔しないの! 本当はスッゴく優しいんだよー!」
「はっはっは! 俺の事を優しいなんて言うのは、フィオナとドルトムントくらいさ!」
 ランボルトは豪快に笑いながら、他の数人の若者を呼ぶと、荷物を下ろすのを手伝ってくれた。

「フィオナ! ありがとな。これでしばらく町に行かなくてすむな」
「ランじい! これはお礼だから。今回もお世話になります!」
 フィオナがぴょこんとお辞儀をすると、ランボルトはますます顔をほころばせた。

 荷車に積んでいた食料の半分は、ランボルト達へのお礼の品だった。その代わりに、ランボルトからラクダと発掘道具とお手伝いの人を借りて、発掘調査へ出かけることになるのだった。

「とりあえず、食いもん用意してあるから、食べてから明日の準備をすればいい」
 ランボルトはドルトムント達を小屋へ誘った。
 食堂には、羊肉モントーネトマトラトゥマキュウリペトリオーロなどの野菜が豊富に用意されていた。

「いやあ、ランボルト、いつもすまない。助かるよ!」
 ドルトムントが礼を言うと、
「なあに、俺もみんなに会えるのを楽しみにしているんだぜ。それに、お宝発掘もワクワクするしな。ほら、ククミスもあるぞ! 水分補給にいいからしっかり食っておけよ」
 ランボルトは手慣れたしぐさでククミスを切り分けると、みんなに配ってくれた。
「わーい、ククミス!」
 フィオナの嬉しそうな声を聞きながら、ドルトムントが飛翔に囁く。
「ククミス、ようやく食べられるな」
 飛翔が思わず吹き出すと、フィオナが悪口言ったわねと言う視線を向けてきた。


 みんなでワイワイ食べながら、明日からの発掘について話をしていると、ハダルが飛翔に、お手伝いの青年二人を紹介してくれた。
 オルカとイデオという二人の青年は、いつも参加しているらしく、発掘に慣れているからとハダルが付け加えた。
 二人もがっしりした体格で、やはり元兵士だろうと思われた。

「このラトゥマとククミス瑞々しくておいしい!」
 フィオナの言葉に、ランボルトが嬉しそうに頷いた。
「そうだろう! 採れたてだからな」
「野菜の栽培をしているんですか! こんな砂漠で!」
 飛翔が驚いて尋ねると、
「まあな。俺たちはこの集落でほんの十人ほどで住んでいるからな。ま、色々訳ありな奴らが多いからね。町へ買い物に行くよりも、自給自足で食べたほうが都合がいいのさ。なあに、砂漠でもこの辺りは作物栽培が全然できないわけじゃ無いぜ。山陰に水場があってな。たくさんは栽培できないけど、少しなら大丈夫なんだ。蓄えはできないけれど、その日暮らしはできる。俺たちの性に合ってるって訳さ!」

「その日暮らし……」
「ああ、寝るところがあって、今日食べるご飯があって、仲間がいる。これ以上の幸せがあるかな? 十分だな。あ、酒が入って無かった。酒も外せないな」

 ガハハハッと笑いながら、ランボルトは盃を飲み干した。
「残念! これは、水だった。まだ一仕事あるからな。よし、終わったら、飲みまくるぞ!」
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