ティアル・ナ・エストレア ―青髪の双子の王子―

涼月

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第五章 シャクラ砂漠へ

第47話 方位磁針

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 飛翔はそのまま眠ってしまったらしく、目を覚ますと天幕の中に寝かされていた。
 もうみんなは起きて、朝の食事の準備をしているところだった。

「ドルトムント、昨日はそのまま寝てしまったようで、すみませんでした」
「おはよう! よく眠れたかい? 今日も一日歩くからね。覚悟しておいてくれよ!」
 ドルトムントは何事も無かったかのように答えて、陽気に笑った。

 
 それから一行は、十日間同じリズムで歩き続けた。
 十分な水分を確保している彼らにとっても、厳しい道のり。番兵のような砂丘だと言ったドルトムントの言葉がヒシヒシと感じられた。

 そして、十日間歩き続けた先に、ようやく目印の旗がはためく場所に到着した。

「おお! 着いた着いた! ここが飛翔君が倒れていた場所だ!」
 ドルトムントがウィンクしながら言う。
「あの石碑が見つかったのもここだぞ! だから、この下には、あの石碑の続きが残っていると思うんだよ。さあ、みんな一休みしたら、早速道具を下ろして掘り始めよう!」

 さっきまでの疲れも吹っ飛んだような顔で、うきうきと準備を始めるドルトムントに合わせて、みんなも手慣れたように発掘の準備を始めた。
 飛翔は初めての事に、右往左往しながらも、ラクダから荷物を下ろすのを手伝った。

「もう、お父さんは相変わらず人使いが荒いんだから!」
 フィオナがぶつぶつと文句を言いながらも、手際よく準備をしている。

 けれど、実際の発掘作業を見て、飛翔は唖然とした。
 砂漠の灼熱の太陽の下、大きな作業道具も無く、数人で斧や鍬を片手に黙々と砂を掻く作業をしているのを見ると、滑稽を通り越して、狂気の沙汰にしか見えない。
 よくこんな作業を彼らは続けられると、飛翔は感心すらしてしまった。

 結局その日は何の収穫も無いまま夜を迎えた。
 就寝の準備をしながら、飛翔はドルトムントに尋ねてみる。

「ドルトムント、どうしてここを掘ってみようと思ったんですか?」
「それはだな~実はこの間見せた五百年前の地図があっただろう。あれをくれた船乗りの友人の家に代々伝わる 方位磁針マグネースがこれでな」

 何気なくドルトムントが取り出した 方位磁針マグネースを見て、飛翔は衝撃を受けた。

 これはもしかして、グリフィス先生がくれた 方位磁針マグネースでは無いのか!
 ドルトムントの手にあったなんて!
 こんな自分の近くにあったなんて!


 キリト国で良く見られる シプレスの木を使った枠は、太陽と星をかたどった模様が彫られている。こんな 方位磁針マグネースが、この世にいくつも存在するとは思えなかった。

 ドルトムントは飛翔の驚愕に関係無く、言葉を続ける。

「これと一緒に言い伝えられてきた言葉があってね」
 いたずらっ子のような表情になった。

「 宝燐山ホウリンザンの麓に行って宝を探せ。まず、方位磁針を持って北西方向へ真っ直ぐに進め。掘り返すべき地点は、この方位磁針が教えてくれる……というものだったんだよ。私の親友はそんなお宝信じてはいなかったんだが、歴史学者としては、興味沸くだろう! それで、実際にこれ片手に来て見れば、確かにここだけ、針がくるくる回って方向が分からなくなってしまうんだよ。きっと、何かあるに違いないと思って掘り返していたところで、君に会ったという訳さ。おや? お宝は飛翔君の事だったのかな?」
 ドルトムントは冗談めかして最後の言葉を加えた。

「方位磁針がくるくる回ってしまうんですか?」
「ああ、見てごらん。」

 ドルトムントは石碑が発見された場所まで飛翔を引っ張っていくと、方位磁石の針の動きを確認させてくれた。
 確かに針は動き続けて、北を指して止まる事が無かった。

 飛翔の心に光が宿った。

 これは瑠月の生存の証!
 もしかしたら、バルディア国に逃れた瑠月が、子孫にこんな言い伝えを残したのかも知れない……


 飛翔達三人が森で道に迷った後、師匠のグリフィスは怒ることも無く、 方位磁針マグネースをくれたのだった。
 好奇心旺盛な三人は、喜んでそれを持ち歩いては、王宮中で針を確認して歩いた。
 その時、一か所だけ、くるくると針が回って方向が分からなくなる場所があったのだ。

 神殿の中の『知恵の泉』

 三人は、この場所が方位磁針が狂う場所と知って驚いた。
 針はかなり激しく回り続け、留まることが無い。
 この泉からは不思議な力が溢れているのだと、納得したのだった。

 もちろん、大人の研究者たちは、そんなこととっくに知っていたのかもしない。
 でも三人にとってこの不思議な発見は大発見であり、ワクワクするものだった。
 そして三人だけの秘密にしようと約束したのだった。

 その後この 方位磁針マグネースは、瑠月が保管していたはずだ。

 瑠月の奴、どこに消えたかもわからない俺のために、こんな伝言を残してくれたのかも知れない。

 何事にも万全を期する瑠月なら、きっとそうすると思えた。

「ドルトムント、その船乗りの方の髪は、俺のような青では無いんですよね」
「そうなんだよね~目の色は金色だけど、髪の毛は黒いな。ちょうどハダルとおんなじだな。役にたたなくてすまないね」
「そんな。ドルトムントが謝らないでください。すみません」
 飛翔は申し訳無くなって、ドルトムントに頭を下げた。

 瑠月がバルディア国へ逃れたとして、青い髪の民はどうなってしまったのだろうか?
 結局は聖杜の民の子孫は生きていないと言うことなのだろうか?

 僅かに見えてきた希望の光。だが、そう簡単に全ては見渡せない。
 もう一つ、飛翔の思惑と違う事があった。

 飛翔が抱いていた淡い期待。

 もう一度この地に来れば、自然とタイムトラベルが起こって、 エストレア聖杜国に帰れるかもしれない……そう思っていたのだが……

 何も起こらなかった。
 目の前の砂漠は沈黙したまま。

 どうすれば帰れるのか?
 自分は何をすべきなのか?

 考えなければならないことが山積みだったが、砂漠での発掘にすっかり体力を奪われてしまった。
 疲れ切った飛翔は、そのまま深い眠りに落ちていった。
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