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第五章 シャクラ砂漠へ
第48話 砂の下
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次の日、飛翔はドルトムントに方位磁針を借りて、発掘現場を歩き回っていた。
飛王と瑠月と歩き回った時に、方位磁針が狂う場所は『知恵の泉』のところだけだった。
という事は、その真下に泉があると言うことであり、神殿があるという事になる。
でも、そこを掘っても、出てくるのは神殿の屋根になって、発掘しても神殿の中に入るには相当な広さを掘り進めなければならないだろう。
もっと簡単に建物の中に入るためには、入り口付近の道を掘り出すことが早道だと思われた。
飛翔は記憶を頼りに、知恵の泉から神殿の入り口付近へ歩いて行った。
方位磁針の針がだんだん落ち着いてきた地点で足を止める。
よし! ここだ!
飛翔はジオに声を掛けた。
「ジオ、掘ってみたいところがあるんだけれど、手伝ってもらえないかな?」
「お! 何かいい案があるのか! いいぜ、手伝ってやるよ!」
みんなが掘っているところより十五ペース(約五十メートル)ほど離れたところを、ジオと二人で掘り始めた。
「そこを掘ったほうがいいのか?」
ハダルも来て手伝い始めたので、三人で黙々と掘り続けた。
太陽が真上に照り付け、集中力が限界にきた頃、フィオナが昼ご飯の声を掛けてくれた。
一休みしようと、ハダルが最後の一振りを振り下ろした時だった。
ゴーっという地響きと共に、足元の地面が崩れ始めた。蟻地獄のように砂が下に滑り落ちて行き、三人はあっという間に飲み込まれてしまった。
「おい! 大丈夫か!」
頭上からの必死の呼びかけが聞こえて飛翔が上を見上げると、ドルトムント達が心配そうに覗き込んでいる。
ふと見回すと直径二十ペース(約六十メートル)、深さ十ペース(約三十メートル)ほどの穴が開いていて、すぐ横にジオとハダルも倒れていた。
「大丈夫です! 下は柔らかいから!」
飛翔が叫び返すと、上では安堵の声が広がる。
砂を払いながら、ハダルとジオも起き上がった。
二人も怪我はないようだ。
その時、ジオがびっくりしたように声を挙げた。
「なんだ? この灰! 砂の下にこんな灰だらけの地層があったなんて!」
茶褐色の砂の間から、黒い灰が降り積もったような地面が見えている。
これは……火事の跡か?
想像していたこととはいえ、実際に目の当たりにした飛翔は言葉を失った。
「ああ、こんなに灰が積もるという事は、火山の噴火かな?」
ハダルが暗い声で答える。
「火山?」
「ああ、宝燐山は時々噴火するからな。ありえない話じゃないはずだ」
宝燐山《ホウリンザン》が火山だと言うことを、飛翔は考えたことがなかった。
産まれてから一度も、宝燐山の山頂から煙が上がるところも、噴火するところも、見たことが無かったからだ。
そう言われてみれば、砂漠から見た宝燐山の山頂には、白い雲が束びいているように見えた。あれは、雲では無くて、煙だったのか……
「この辺りは火山灰と火砕流にやられたのかもしれないな」
ハダルの言葉に辺りを見回す。
砂の間に見え隠れする黒い灰と黒い塊。
エストレアの街は、アッと言う間に飲み込まれてしまった可能性が高い。
果たしてみんなは逃げ切れたのだろうか?
そう言われてみれば、青海国との境には、遠く天空国まで続く玄灰川(天花語では玄灰川)と言う川が流れていた。
この『玄灰《げんかい》』と言う名前には、火山の噴火の跡を感じさせる文字が残っているではないか。
俺はなぜそんな事にも気づかずにいたのか。
『ティアル・ナ・エストレア』の継承者として、多くの事を学んできたつもりだった。けれど、全然足りていない。
自分の視野が如何に狭く、注意力や思慮深さが足りていないのかを突き付けられた気がした。
だから、宇宙の神は、俺に試練を与えたんだ……
飛翔は呆然と立ち尽くしていた。
「これは、凄いことになっているな」
突然背後からドルトムントの声が聞こえた。
上からロープの梯子を降ろして下って来ていたようだ。
「飛翔君、ちょっと方位磁針を出してみてくれるかい」
飛翔が懐から取り出すと、また針が揺れている。
ドルトムントは受け取るとそのまま辺りを歩き廻っていたが、突然嬉しそうな声を挙げた。
「これだ! これに反応しているんだ!」
みんなも慌てて見に行く。
ドルトムントの足元に、星の形に掘られていたであろう黒い石の片割れが転がっていた。
片割れ……つまり、真っ二つに割れて壊れた片方だけが地面に転がっているのだ。
その上が、一番針が不安定に揺れ動いている場所でもあった。
あの片割れは、神殿の屋根に取り付けられていた星型の像!
あれが割れて転がっていると言うことは……
割れた像の周りの砂の隙間から、頽れた建物の残骸が見え隠れしているのも確認できた。
火砕流に飲み込まれたせいだろうか?
それとも噴石が当たったからだろうか?
神殿は無残に崩れ去っているようだ。
つまり、中の『知恵の泉』も塞がれてしまったと言うことか。
その上火砕流の熱に覆われたら……
『知恵の泉』は枯れてしまったかもしれない!
帰る道は閉ざされてしまっていた!
言いようのない虚無感が襲ってくる。
更に追い打ちをかける事実もあった。
方位磁針の針が反応していた物が、実は『知恵の泉』では無くて、神殿の屋根の星型の像だったと言うことだ。
三人で歩き回ったあの時も、単に神殿の屋根の像に反応していただけなのだろうか?
いや、そんなはずは無い。
あの時の針は、もっと激しく回って安定しなかった。この星の像以外の理由があったはずだ。
それは、『知恵の泉』の喪失を決定づける結論に思えた。
飛翔はがっくりと膝をついた。
その背中を、砂漠の太陽がじりじりと焼き続けていた。
「お宝はこの下に眠っているのかな?」
ドルトムントの陽気な声に、飛翔はハッと我に返った。
この真っ二つの星の片割れは、壊れてここまで流されてきたはずだ。
と言うことは、ここは『知恵の泉』の真上ではないと言うことになる。
一体王宮のどの辺りなのだろうか?
「あそこに入り口のようなものが見えるぜ!」
ジオの指さす先へ視線を移すと、建物の入り口の上の部分が、灰の中から頭を覗かせていた。
日干しレンガの建物。鉄の扉。
あれは、工房への入り口だ!
火砕流の熱にも負けず、日干しレンガで建てられた工房だけは、その原型を留めていたようだ。
飛翔は駆け寄ると藁にも縋る様な思いで、入口付近の砂と灰をかきわけ始めた。
この中に入れたら、何か見つかるかも知れない。
飛翔の必死な様子に、ハダルとジオは互いに顔を見合わせたが、黙って傍へ行くと、一緒に手伝い始めた。
結局、お昼も食べずにみんなで掘り続けて、入口付近の灰を除ける事が出来た。
流石に水分不足で脱水症状になる前に休憩を入れる事になる。
焦る飛翔の目に、奇妙な光景が映った。
工房の窓が塞がれている。
掘り出されたのは入口付近の数個だけだが、窓に日干しレンガが積まれているのだ。
内側からしっかりと。
これは敢えて積まれたとしか思えない。
当然ながら、飛翔が居た頃、工房の窓にこんな物は積まれていなかった。
つまり、敢えて塞いだと言うこと。
工房を守るために。
それは、この噴火を予測して、聖杜の民が避難していた可能性を示唆していた。
そして、あらかじめ工房を守る対策まで講じていたのだ。
やっぱり、みんなは生きている!
飛翔はほぅーっと大きく息を吐き出した。
飛王と瑠月と歩き回った時に、方位磁針が狂う場所は『知恵の泉』のところだけだった。
という事は、その真下に泉があると言うことであり、神殿があるという事になる。
でも、そこを掘っても、出てくるのは神殿の屋根になって、発掘しても神殿の中に入るには相当な広さを掘り進めなければならないだろう。
もっと簡単に建物の中に入るためには、入り口付近の道を掘り出すことが早道だと思われた。
飛翔は記憶を頼りに、知恵の泉から神殿の入り口付近へ歩いて行った。
方位磁針の針がだんだん落ち着いてきた地点で足を止める。
よし! ここだ!
飛翔はジオに声を掛けた。
「ジオ、掘ってみたいところがあるんだけれど、手伝ってもらえないかな?」
「お! 何かいい案があるのか! いいぜ、手伝ってやるよ!」
みんなが掘っているところより十五ペース(約五十メートル)ほど離れたところを、ジオと二人で掘り始めた。
「そこを掘ったほうがいいのか?」
ハダルも来て手伝い始めたので、三人で黙々と掘り続けた。
太陽が真上に照り付け、集中力が限界にきた頃、フィオナが昼ご飯の声を掛けてくれた。
一休みしようと、ハダルが最後の一振りを振り下ろした時だった。
ゴーっという地響きと共に、足元の地面が崩れ始めた。蟻地獄のように砂が下に滑り落ちて行き、三人はあっという間に飲み込まれてしまった。
「おい! 大丈夫か!」
頭上からの必死の呼びかけが聞こえて飛翔が上を見上げると、ドルトムント達が心配そうに覗き込んでいる。
ふと見回すと直径二十ペース(約六十メートル)、深さ十ペース(約三十メートル)ほどの穴が開いていて、すぐ横にジオとハダルも倒れていた。
「大丈夫です! 下は柔らかいから!」
飛翔が叫び返すと、上では安堵の声が広がる。
砂を払いながら、ハダルとジオも起き上がった。
二人も怪我はないようだ。
その時、ジオがびっくりしたように声を挙げた。
「なんだ? この灰! 砂の下にこんな灰だらけの地層があったなんて!」
茶褐色の砂の間から、黒い灰が降り積もったような地面が見えている。
これは……火事の跡か?
想像していたこととはいえ、実際に目の当たりにした飛翔は言葉を失った。
「ああ、こんなに灰が積もるという事は、火山の噴火かな?」
ハダルが暗い声で答える。
「火山?」
「ああ、宝燐山は時々噴火するからな。ありえない話じゃないはずだ」
宝燐山《ホウリンザン》が火山だと言うことを、飛翔は考えたことがなかった。
産まれてから一度も、宝燐山の山頂から煙が上がるところも、噴火するところも、見たことが無かったからだ。
そう言われてみれば、砂漠から見た宝燐山の山頂には、白い雲が束びいているように見えた。あれは、雲では無くて、煙だったのか……
「この辺りは火山灰と火砕流にやられたのかもしれないな」
ハダルの言葉に辺りを見回す。
砂の間に見え隠れする黒い灰と黒い塊。
エストレアの街は、アッと言う間に飲み込まれてしまった可能性が高い。
果たしてみんなは逃げ切れたのだろうか?
そう言われてみれば、青海国との境には、遠く天空国まで続く玄灰川(天花語では玄灰川)と言う川が流れていた。
この『玄灰《げんかい》』と言う名前には、火山の噴火の跡を感じさせる文字が残っているではないか。
俺はなぜそんな事にも気づかずにいたのか。
『ティアル・ナ・エストレア』の継承者として、多くの事を学んできたつもりだった。けれど、全然足りていない。
自分の視野が如何に狭く、注意力や思慮深さが足りていないのかを突き付けられた気がした。
だから、宇宙の神は、俺に試練を与えたんだ……
飛翔は呆然と立ち尽くしていた。
「これは、凄いことになっているな」
突然背後からドルトムントの声が聞こえた。
上からロープの梯子を降ろして下って来ていたようだ。
「飛翔君、ちょっと方位磁針を出してみてくれるかい」
飛翔が懐から取り出すと、また針が揺れている。
ドルトムントは受け取るとそのまま辺りを歩き廻っていたが、突然嬉しそうな声を挙げた。
「これだ! これに反応しているんだ!」
みんなも慌てて見に行く。
ドルトムントの足元に、星の形に掘られていたであろう黒い石の片割れが転がっていた。
片割れ……つまり、真っ二つに割れて壊れた片方だけが地面に転がっているのだ。
その上が、一番針が不安定に揺れ動いている場所でもあった。
あの片割れは、神殿の屋根に取り付けられていた星型の像!
あれが割れて転がっていると言うことは……
割れた像の周りの砂の隙間から、頽れた建物の残骸が見え隠れしているのも確認できた。
火砕流に飲み込まれたせいだろうか?
それとも噴石が当たったからだろうか?
神殿は無残に崩れ去っているようだ。
つまり、中の『知恵の泉』も塞がれてしまったと言うことか。
その上火砕流の熱に覆われたら……
『知恵の泉』は枯れてしまったかもしれない!
帰る道は閉ざされてしまっていた!
言いようのない虚無感が襲ってくる。
更に追い打ちをかける事実もあった。
方位磁針の針が反応していた物が、実は『知恵の泉』では無くて、神殿の屋根の星型の像だったと言うことだ。
三人で歩き回ったあの時も、単に神殿の屋根の像に反応していただけなのだろうか?
いや、そんなはずは無い。
あの時の針は、もっと激しく回って安定しなかった。この星の像以外の理由があったはずだ。
それは、『知恵の泉』の喪失を決定づける結論に思えた。
飛翔はがっくりと膝をついた。
その背中を、砂漠の太陽がじりじりと焼き続けていた。
「お宝はこの下に眠っているのかな?」
ドルトムントの陽気な声に、飛翔はハッと我に返った。
この真っ二つの星の片割れは、壊れてここまで流されてきたはずだ。
と言うことは、ここは『知恵の泉』の真上ではないと言うことになる。
一体王宮のどの辺りなのだろうか?
「あそこに入り口のようなものが見えるぜ!」
ジオの指さす先へ視線を移すと、建物の入り口の上の部分が、灰の中から頭を覗かせていた。
日干しレンガの建物。鉄の扉。
あれは、工房への入り口だ!
火砕流の熱にも負けず、日干しレンガで建てられた工房だけは、その原型を留めていたようだ。
飛翔は駆け寄ると藁にも縋る様な思いで、入口付近の砂と灰をかきわけ始めた。
この中に入れたら、何か見つかるかも知れない。
飛翔の必死な様子に、ハダルとジオは互いに顔を見合わせたが、黙って傍へ行くと、一緒に手伝い始めた。
結局、お昼も食べずにみんなで掘り続けて、入口付近の灰を除ける事が出来た。
流石に水分不足で脱水症状になる前に休憩を入れる事になる。
焦る飛翔の目に、奇妙な光景が映った。
工房の窓が塞がれている。
掘り出されたのは入口付近の数個だけだが、窓に日干しレンガが積まれているのだ。
内側からしっかりと。
これは敢えて積まれたとしか思えない。
当然ながら、飛翔が居た頃、工房の窓にこんな物は積まれていなかった。
つまり、敢えて塞いだと言うこと。
工房を守るために。
それは、この噴火を予測して、聖杜の民が避難していた可能性を示唆していた。
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