ティアル・ナ・エストレア ―青髪の双子の王子―

涼月

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第五章 シャクラ砂漠へ

第51話 バンドスへ

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 飛王も一緒に逃げられたのだろうか?

 ふと、まどろみの中で問いかける。

 飛翔の心の中の飛王は、今も無事と語りかけてくれている。
 だから、心の奥底では、飛王が生きているとわかってはいるのだ。

 そうは言っても、今飛翔がいるのは、千年後の世界だ。
 いずれどこかで、千年前の飛王の死と、向き合う時が来るのではないか……

 飛翔はそれを恐れていた。

『知恵の泉』が彼の地に既に存在しない事は、正直に言えばショックが大きかった。
 でも今回の発掘で、エストレア聖杜国の民の生存が確認できた。
 そして飛王の死の確認はせずに済んだのだから、ひとまずほっと胸を撫でおろした。

 ドルトムントとみんなに心から感謝する。

 とは言え、逃れた聖杜の民は一体どこに行ってしまったのか?
 世界中に技術を伝えたとして、その子孫はどこに暮らしているのか?

 自室で一眠りした飛翔は、なるべく早くイリス島へ行ってみたいと考えながら、ドルトムントの作業場へと降りて行った。

 
 ドルトムントは既に起きて調べ物の真っ最中だった。 
 周りには、たくさんの本が放り投げられている。
 その横でハダルとジオも一緒に、本を読み漁っているようだった。

「遅くなってすみません!」
「おお、目が覚めたかい? てきとーに机の上の果物でも食べてくれ。フィオナはまだ眠っているしな」

 作業場の机の上には、無造作に庭から取ってきた果物が置かれていた。ハダルとジオもそれを食べただけで、調べ物に没頭しているらしい。

「ドルトムント、何か見つかりましたか?」
「全然だよ。私の持っている本を片っ端から読んでいるんだが、あの発掘された都についての記述がどこにも無いんだよ」
 ドルトムントは心の底から残念そうに言った。

「この国の書物には、一言も書かれていない気がする。多分、意図的に消されたんだ!」
「消された? なぜそう思うんですか?」
「単なる勘さ!」
「まったく、ドルトムントはいい加減だな~」
 ジオが横でがっくりしたように呻いた。

「別にいい加減じゃないさ。私の長年の歴史学者としての勘がそう言っているのさ!」
 ドルトムントは悪びれる様子もなく続けた。

「考えてもみたまえ。あれだけの都が眠っていながら何の記載もないなんて、おかしいだろう! 絶対何か隠しているんだよ。でも、一つだけ手掛かりを見つけたぞ!」
 ドルトムントの自慢げな表情に、みんなが集まって手元の本を覗き込む。

「『天空始成紀チェンコンシチンジ』!」
「それのどこに手掛かりがあるんですか?」
 ジオとハダルが不思議そうに尋ねる。

「『天空始成紀チェンコンシチンジ』には天空の祖、神親王シェンチンワンは、最後にシエの制圧に向かって、その地で遂に神となられて永遠にこの国を守っておられるって記載されている。でも、このシエと言う国がどこにあるのかは記載が無いんだ。他の国は、なんとなくわかるような地理に関する記述があるのに、この国は何も無い。つまり、謎の都、謎の国って訳さ」

「なるほど。神親王を神格化する為に、わざと分からないように記述をしなかった可能性があると言う事ですね」
 ハダルが頷いた。

「あの都がシエだとすれば、今から千年前の都って事になるな。ああ、だったらあの観音像も納得できるな。劉安寺リォウアンスゥの建立時期も千年くらい前だからな」
 ドルトムントがそう言うと、ジオが驚きの声を漏らす。

「古い都だとは思っていたけど、千年前かー」
「と言う事は、千年前はあの地に高度な技術を持った国があった事になりますね。でも、宝燐山ホウリンザンの噴火によって一瞬で全滅してしまった。そして砂の下に埋もれてしまった」
 ハダルの言葉にみんなシーンとなった。

 みんなが失われた国の悲劇に思いを馳せる間、飛翔は別の事を考えていた。

神親王シェンチンワンが最後に向かったのが、シエなんですよね。そして、神となった……神親王はあそこへ攻めて行って、あの火砕流に巻き込まれてしまったんじゃないでしょうか?」
 飛翔の言葉に、みんなが一瞬固まる。

「そうか! 永遠の命を持っているはずの神である神親王シェンチンワンの死を決定づける証拠が、あの灰に埋もれた都と言うわけか! だから、謎のままにして、記載を避けたんだ」
 ドルトムントが声を大きくする。

「そんな証拠が出てきちゃまずいよな」
 ジオが肩を竦めると、
「だから、隠しておきたいのかもしれないな。玉英王にとってはまずい話だからな」
 ハダルも相槌を打つ。

「と言うことは、玉英王の目的はあの都の破壊と言うことなのかな」
 ドルトムントが考え込んだ。

「でも火砕流によって壊滅状態になったことを知らなかったとしたら、今も生きているはずの神親王に会いにいきたいと思っているだけかも」
 ドルトムントのその言葉に、ジオが「ないない」と手を振る。

「ドルトムント、いくら神親王の熱狂的信者だって、本当は永遠の命なんてことは信じてないぜ」
「ははは、そうだよね」
 
 ドルトムントが表情を改めて言う。
「この発掘に玉英王がわざわざ首を突っ込んできたところを見ると、破壊以外の目的があると思うんだよね」

 玉英王の思惑がどこにあるのか……それは本人に聞かないとやはりわからないことだろうと飛翔は考えた。
 だが、分からないのであれば、やたらにみんなに自分の秘密を打ち明けるのも、危険な話なのかもしれないと思う。

 彼らが知らなければ、俺一人が抱えていればよい秘密だ。
 彼らに同じ重荷を背負わせたくはない。
 危険な目にも合わせたくない。


「でも、あれだけの噴火であれば、王都からも見えたはずですよね。その災害の記録を何も残さなかったなんて残念ですよね」
「災害の記録って残す価値あるよな。絶対残すべき!」
 ハダルの言葉に、ジオがちょっと怒ったように付け加える。

「大切な災害の記録を消してまで、神親王シェンチンワンの死を隠した。為政者のやることは、時になんて利己的なんだろうな」
 ドルトムントがため息交じりに呟いた。

「この国の本に載っていなくても、他の国の本とかに載っているということはないのかな?」
 飛翔が何気なく呟くと、
「それだ!」
 ドルトムントが手を打った。
「今私の持っている他国の本の中にも無いけれど、でも、バンドスにいる地図をくれた友人の家には古い物が屋根裏に眠っているから、何か見つかるかもしれないな! 明日にでも、行ってみるか」

 バンドスへ!

 その言葉に、飛翔の胸が高鳴った。

 バンドス……それはかつてのバルディア国。

 方位磁針マグネースを残した瑠月の足跡を辿ることができるかもしれない!

 そして、ドルトムントの友人はその方位磁針の持ち主だったのだから。

「確かに! それは名案ですね!」
 ハダルも頷いた。
「ただ……胸騒ぎがします。ここはみんなで行きましょう。ここに残るのは危険な気がします」
 ハダルは思慮深い表情でそう言うと続けた。
「船の手配はこれからやってきますので、みんな明日の朝早くに出発できるようにしておいてください」
「いつもすまんな」
「いえ、なんとなく急いだほうが良い気がしているだけです」

 みんな少し緊張の面持ちで頷き合う。そしてハダルは足早に、街へ手配をしに出掛けて行った。

 飛翔は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 俺はみんなを危険な目に合わせたくはない。
 でも、俺と関った時点で、既にみんなを危険な旅の道連れにしてしまっていたんだな……
 ならば精一杯、みんなを守らなければ!
 飛王は神親王シェンチンワンから聖杜の民を守った。
 せめて俺は、玉英王ユーインワンからみんなを守らなくては。
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