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第九章 玉英王動く
第82話 からくり箱
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「イデオ、からくり箱をテーブルに持って来てくれないか」
玉英王の言葉で、みんながテーブルに移動した。
「この中には神親王の日記と聖杜国の国王からの親書、それから……見たことも無いような文字で書かれた手紙が入っていた」
そう言いながら、玉英王はカタカタと音をたてて、いとも簡単にからくり箱を開けた。
飛翔はその手元を覗いて、懐かしい気持ちで胸がいっぱいになった。
良かった!
飛王、見つけたぞ!
お前のからくり箱を!
目の前で玉英王が開けたからくり箱には、二輪のアマルの花が咲き誇っている。
実は、彰徳王がくれたからくり箱は二つ。
飛王と飛翔に、それぞれ一つずつくれたのだった。
表面の柄がアマルの花と言うところは一緒なのだが、絵柄は微妙に違う。
飛翔が選んだ方は、花と蕾が一輪ずつ。
飛王が選んだ方は花が二輪とも開いている柄。
つまり、今目の前にあるからくり箱こそが飛王の物で、流花が残してくれたからくり箱は、飛翔の物だったのだ。
ようやく、二つのからくり箱が揃った。
飛翔は心の中で飛王に語りかける。
流石、飛王!
お前はここまで分かっていたんだな。
自然と笑みが零れ落ちた。
時の輪の先へ来ているであろう飛翔が、きっと神親王本人、あるいは神親王の末裔に会いに行くと思っていたのだろう。
だから、このからくり箱を神親王へ送った。
飛翔宛てのエストレア語の手紙を隠して。
飛翔に届くように願いながら……
玉英王は中からたくさんの紙束を取り出した。
「神親王の日記には、『知恵の泉』は何でも願いをかなえてくれる魔法の泉のように書かれていた。そして、願いをかなえるためには『剣と指輪』が必要なのだと。でも、親書の方には……」
親書と呼んだ方の紙束を静かに、慎重に開いた。
「これらは聖杜国の国王から神親王へ宛てられた親書だ。とても熱心に送られて来ていたようで、何通もある。そこには、『知恵の泉』は魔法の泉では無いこと。近くその泉は宇宙の神に返す予定だから、侵攻してくるのを止めて欲しいこと。この先技術や人材の交流を通して、二つの国の親交を深めたいという事が書かれてあった」
そこには、見慣れた飛王の筆跡……
戦いを回避したくて、必死になってしたためた飛王の血を吐くような願い。祈り。
あの時、その思いは神親王に届かなかった。
だが、神親王は意図せずとも、飛王の願いを繋げる手伝いをしてくれていた。
予想通りなのか、意外なことなのかはわからないが、神親王はこのからくり箱を開けることができたらしい。
そして、自分の日記と飛王からの親書も一緒に保管してくれた。
お陰で大切な言葉が失われずにすんだ。
そして、千年の時を経て、神親王の末裔である、玉英王の手元に届けられたのだった。
その必然とも思える巡り合わせに、飛翔は心が震えた。
「余は、幼き頃から聖杜の都に憧れを抱いてきた。この親書を読んでから、ずっと聖杜の民になりたいと思っていたのだ」
玉英王はそう言うと、飛王の親書を大切そうに見つめた。
「この親書の言葉は優しさに溢れている。国王が自国の民を心から愛していることが伝わってきた。そして人々も、王を愛し助けようとしている。今のこの世の中の現実と比べると夢物語だ。でも、だからこそ、たまらなく憧れる」
こんな優しい世界で生きたいと……
「余はランボルトと出会うまで、ずっと一人で生きてきた。忘れられて、命まで狙われながら。だから、思いやりだの、支え合うだの言われてもどうすれば良いのかわからない。わからないけれど、この親書に綴られている温かい気持ちは、余の心も温めてくれたのだ」
飛翔だけでなく、みんなが玉英王の話に耳を傾けていた。
そこには、純粋に幸せを願う、一人の人間の本音が語られていたからだ。
「だから……ランボルトから青い髪の民の話を聞いた時驚いた。今の世にも生き残っているのかと思って本当は嬉しかったのだ。だが、そなた一人しか見つかっていない。と言うことは、そなたは一体どこから来たのか? 何をしに来たのか? ずっと後をつけさせてもらった」
ずっと感じていた視線は、オルカが動向を見届けていたためだったのだと納得する。
「そして、長い旅の果てに、ミザロに戻ってくるとの報告を聞いた時、居てもたってもいられなくなってしまった。それが、単なる憧れに会える喜びなのか。それとも知恵の民に知恵をもらいたくて待ちわびていたからなのか……多分両方の気持ちだろうな」
そう言って、玉英王は恥ずかしそうに笑った。
その笑顔に、先ほどまでの居丈高な雰囲気は欠片も無く、相手を穏やかにさせる魅力的な笑顔だった。
飛翔はそんな玉英王を見つめて胸が熱くなった。
飛翔が泉に行く前にやらなければならないと思っていたことは二つあった。
一つは飛王のからくり箱を見つけ出す事。
もう一つは玉英王に会って、飛王の願いを伝えること。
でも、どちらももうとっくに、玉英王の元に届いていたんだな……
飛王、ありがとう!
お前の必死の祈りが、玉英王の心を動かしたんだ!
寂しい生い立ちの王が、温かい平和な世の中を願えるようになれたのは、飛王の言葉のお陰なのだと思った。
千年の時を超えて届いたメッセージ。
その保存を可能にした聖杜国の民の技術力。
飛翔は誇らしい気分になった。
飛翔は微笑みながら玉英王に言う。
「この親書と手紙、どちらも私の兄が書いたものなのです」
その言葉に、玉英王が驚きと共に、納得したような顔になった。
「私の双子の兄。そして、聖杜国の国王にして、『ティアル・ナ・エストレア』の片割れ。それが、これらを書いた人です。そして、飛王が星砕剣の持ち主。私が星光石の指輪の持ち主です」
「そうか。そなたは指輪の持ち主なのだな」
「はい。でもすみません。あなたに指輪を渡すことはできません。飛王の親書にも書いてあるように、もう『知恵の泉』は神に返そうと思っています。それは俺も同じ考えだからです」
「そうか……残念だが、そうした方が良いと思ったからこその結論なのだろう。それを余がとやかく言うのは筋違いと言うものだな」
「それからこちらの手紙は、聖杜の国の言葉、エストレア語で書かれた私宛の手紙です」
「これがエストレア語……やはりそなたは、この手紙の受取人だったのだな」
玉英王はそう言った後、吹っ切ったような顔になって飛翔をもう一度見た。
「すまぬ。余はそなたを試すような真似をした。そなたが本当に聖杜国の民なのか確認したかったからだ。それに、聖杜の存在を疑う気持ちが、全然無かったかと言えば嘘になる。あまりにも美し過ぎる人々の姿が作り物めいて見えてしまってな。聖杜の民が本心から王を愛し、平和な世を愛していたなどと言うのは、実は単なる空想の話で、本当はそんな国も民も存在していなかったのかもしれないと思ったり……だから、つい意地悪な物言いになってしまった」
そう言って素直に詫びた。
「いえ、私も試すようなことばかり言ってしまい、すみませんでした。私も焦っていたのです。あなたがどんな王なのか。もし人の命を軽んじているような王だったら、私がこれからお話しようと思っていることを伝えることができないと思っていたので」
「何か余に伝えることがあるのか?」
「古の碑文についてです」
その言葉に、玉英王だけでなく、みんなも顔を引き締めた。
玉英王の言葉で、みんながテーブルに移動した。
「この中には神親王の日記と聖杜国の国王からの親書、それから……見たことも無いような文字で書かれた手紙が入っていた」
そう言いながら、玉英王はカタカタと音をたてて、いとも簡単にからくり箱を開けた。
飛翔はその手元を覗いて、懐かしい気持ちで胸がいっぱいになった。
良かった!
飛王、見つけたぞ!
お前のからくり箱を!
目の前で玉英王が開けたからくり箱には、二輪のアマルの花が咲き誇っている。
実は、彰徳王がくれたからくり箱は二つ。
飛王と飛翔に、それぞれ一つずつくれたのだった。
表面の柄がアマルの花と言うところは一緒なのだが、絵柄は微妙に違う。
飛翔が選んだ方は、花と蕾が一輪ずつ。
飛王が選んだ方は花が二輪とも開いている柄。
つまり、今目の前にあるからくり箱こそが飛王の物で、流花が残してくれたからくり箱は、飛翔の物だったのだ。
ようやく、二つのからくり箱が揃った。
飛翔は心の中で飛王に語りかける。
流石、飛王!
お前はここまで分かっていたんだな。
自然と笑みが零れ落ちた。
時の輪の先へ来ているであろう飛翔が、きっと神親王本人、あるいは神親王の末裔に会いに行くと思っていたのだろう。
だから、このからくり箱を神親王へ送った。
飛翔宛てのエストレア語の手紙を隠して。
飛翔に届くように願いながら……
玉英王は中からたくさんの紙束を取り出した。
「神親王の日記には、『知恵の泉』は何でも願いをかなえてくれる魔法の泉のように書かれていた。そして、願いをかなえるためには『剣と指輪』が必要なのだと。でも、親書の方には……」
親書と呼んだ方の紙束を静かに、慎重に開いた。
「これらは聖杜国の国王から神親王へ宛てられた親書だ。とても熱心に送られて来ていたようで、何通もある。そこには、『知恵の泉』は魔法の泉では無いこと。近くその泉は宇宙の神に返す予定だから、侵攻してくるのを止めて欲しいこと。この先技術や人材の交流を通して、二つの国の親交を深めたいという事が書かれてあった」
そこには、見慣れた飛王の筆跡……
戦いを回避したくて、必死になってしたためた飛王の血を吐くような願い。祈り。
あの時、その思いは神親王に届かなかった。
だが、神親王は意図せずとも、飛王の願いを繋げる手伝いをしてくれていた。
予想通りなのか、意外なことなのかはわからないが、神親王はこのからくり箱を開けることができたらしい。
そして、自分の日記と飛王からの親書も一緒に保管してくれた。
お陰で大切な言葉が失われずにすんだ。
そして、千年の時を経て、神親王の末裔である、玉英王の手元に届けられたのだった。
その必然とも思える巡り合わせに、飛翔は心が震えた。
「余は、幼き頃から聖杜の都に憧れを抱いてきた。この親書を読んでから、ずっと聖杜の民になりたいと思っていたのだ」
玉英王はそう言うと、飛王の親書を大切そうに見つめた。
「この親書の言葉は優しさに溢れている。国王が自国の民を心から愛していることが伝わってきた。そして人々も、王を愛し助けようとしている。今のこの世の中の現実と比べると夢物語だ。でも、だからこそ、たまらなく憧れる」
こんな優しい世界で生きたいと……
「余はランボルトと出会うまで、ずっと一人で生きてきた。忘れられて、命まで狙われながら。だから、思いやりだの、支え合うだの言われてもどうすれば良いのかわからない。わからないけれど、この親書に綴られている温かい気持ちは、余の心も温めてくれたのだ」
飛翔だけでなく、みんなが玉英王の話に耳を傾けていた。
そこには、純粋に幸せを願う、一人の人間の本音が語られていたからだ。
「だから……ランボルトから青い髪の民の話を聞いた時驚いた。今の世にも生き残っているのかと思って本当は嬉しかったのだ。だが、そなた一人しか見つかっていない。と言うことは、そなたは一体どこから来たのか? 何をしに来たのか? ずっと後をつけさせてもらった」
ずっと感じていた視線は、オルカが動向を見届けていたためだったのだと納得する。
「そして、長い旅の果てに、ミザロに戻ってくるとの報告を聞いた時、居てもたってもいられなくなってしまった。それが、単なる憧れに会える喜びなのか。それとも知恵の民に知恵をもらいたくて待ちわびていたからなのか……多分両方の気持ちだろうな」
そう言って、玉英王は恥ずかしそうに笑った。
その笑顔に、先ほどまでの居丈高な雰囲気は欠片も無く、相手を穏やかにさせる魅力的な笑顔だった。
飛翔はそんな玉英王を見つめて胸が熱くなった。
飛翔が泉に行く前にやらなければならないと思っていたことは二つあった。
一つは飛王のからくり箱を見つけ出す事。
もう一つは玉英王に会って、飛王の願いを伝えること。
でも、どちらももうとっくに、玉英王の元に届いていたんだな……
飛王、ありがとう!
お前の必死の祈りが、玉英王の心を動かしたんだ!
寂しい生い立ちの王が、温かい平和な世の中を願えるようになれたのは、飛王の言葉のお陰なのだと思った。
千年の時を超えて届いたメッセージ。
その保存を可能にした聖杜国の民の技術力。
飛翔は誇らしい気分になった。
飛翔は微笑みながら玉英王に言う。
「この親書と手紙、どちらも私の兄が書いたものなのです」
その言葉に、玉英王が驚きと共に、納得したような顔になった。
「私の双子の兄。そして、聖杜国の国王にして、『ティアル・ナ・エストレア』の片割れ。それが、これらを書いた人です。そして、飛王が星砕剣の持ち主。私が星光石の指輪の持ち主です」
「そうか。そなたは指輪の持ち主なのだな」
「はい。でもすみません。あなたに指輪を渡すことはできません。飛王の親書にも書いてあるように、もう『知恵の泉』は神に返そうと思っています。それは俺も同じ考えだからです」
「そうか……残念だが、そうした方が良いと思ったからこその結論なのだろう。それを余がとやかく言うのは筋違いと言うものだな」
「それからこちらの手紙は、聖杜の国の言葉、エストレア語で書かれた私宛の手紙です」
「これがエストレア語……やはりそなたは、この手紙の受取人だったのだな」
玉英王はそう言った後、吹っ切ったような顔になって飛翔をもう一度見た。
「すまぬ。余はそなたを試すような真似をした。そなたが本当に聖杜国の民なのか確認したかったからだ。それに、聖杜の存在を疑う気持ちが、全然無かったかと言えば嘘になる。あまりにも美し過ぎる人々の姿が作り物めいて見えてしまってな。聖杜の民が本心から王を愛し、平和な世を愛していたなどと言うのは、実は単なる空想の話で、本当はそんな国も民も存在していなかったのかもしれないと思ったり……だから、つい意地悪な物言いになってしまった」
そう言って素直に詫びた。
「いえ、私も試すようなことばかり言ってしまい、すみませんでした。私も焦っていたのです。あなたがどんな王なのか。もし人の命を軽んじているような王だったら、私がこれからお話しようと思っていることを伝えることができないと思っていたので」
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