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第十章 使命遂行
第86話 スルスにて
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東の空が仄かに明るくなって来た頃、飛翔はそっと起き出すと階下へ降りて行った。
玉英王は久しぶりに安心することができたらしく、安らかな寝息をたてている。
昨日は遅くまで聖杜国の話で盛り上がった。
そして飛王のこと……玉英王は飛王の親書をかつて何度も何度も読み返していた。
読み返しているうちに他人とは思えなくなったと。
大切な遠くの友達にやっと会えたような気持ちだと声を震わせた。
それを聞いて、飛翔も嬉しかった。
「飛王のからくり箱は、そのままあなたが持っていてください」
喜びと責務を秘めた瞳で、玉英王は頷いたのだった。
予想通り、ドルトムントの作業場からは明かりが漏れていた。
そっと扉を開ける。
黙々と石碑を磨いているドルトムントの後姿があった。
あの時と同じだな……
初めてドルトムントと出会った日。
不安でいっぱいだった飛翔に、真実を追う大切さと楽しさを語ってくれた。
飛翔は懐かしい思いで胸がいっぱいになった。
「ドルトムント、おはようございます」
「ああ、おはよう。早いね」
「ドルトムントこそ」
「なんだか興奮してしまってね。早くこの文字を読みたくなってしまったのでね。やっぱりいいね。本物を読み解くのは」
飛翔は隣に並ぶと、一緒に石碑を見つめた。
白い大理石の石碑と、苔汚れの貼り付いた古の碑文。
この発掘品が無かったら、俺は『ティアル・ナ・エストレア』の真実に辿り着くのが、もっと遅れていたかもしれない。
いや、そもそもドルトムントが発掘作業をしていなかったら、俺はあのまま砂漠で干からびていたかもしれないのだ。
飛翔は、それが偶然か必然か分からないながらも、ドルトムントに深く感謝していた。それを伝えなければと口を開く。
「ドルトムント。お世話になりました。あなたのお陰で俺は生きる事ができたし、聖杜国に辿り着くこともできました。本当に、ありがとうございました!」
深く深く頭を下げた。
「いやいやいや、それは私のセリフだよ。飛翔君のお陰で古の遺跡! 聖杜国の謎に迫れたんだからね。いやあ、助かったよ」
ドルトムントはその人の良さそうな笑顔を満開にする。
「まあ、玉英王様の支援も引き続き受けられそうだしな。これからもジャンジャン発掘するぞ!」
またまたおーっと手を上げそうになって、口を閉じた。
素早く入り口に目を走らせてフィオナの姿が無い事を確認すると、小さな声でおーと囁いた。
「ドルトムント。俺、今日泉に行こうと思っています」
「そうか……飛翔君は、これから大切な役目を果たさなきゃならないからな。頑張れよ。でも、寂しいな」
ドルトムントは飛翔に優しい眼差しを向ける。
「寂しいけれど……泉で飛王君が待っているんだから、仕方ないな」
飛翔は我慢できず、泣き笑いの顔になった。
このままみんなと一緒に暮らせたら、どんなに楽しいだろう。
でも、飛王をこれ以上待たせたくない。
「はい! 頑張ります!」
飛翔はそう言って、もう一度頭を下げた。
「私は聖杜国の真実を書き残すからな。歴史学者として、しっかりとやらなければならないことをやるから、安心していてくれ」
「ドルトムント、これ、受け取ってもらえませんか?」
飛翔はそう言うと、流花の手紙入りのまま、自分のからくり箱をドルトムントに手渡した。
「こんな大切な物を私に?」
「ええ、大切な物だから、ドルトムントに持っていて欲しいんです。これを使って、どんどんまた真実に迫ってください」
ドルトムントは興奮したように頬を紅潮させながら受け取る。
「ありがとう。これは大切に保管して、調べて……いつかみんなが見れるように展示したいな」
そう言うとニッコリと笑った。
「これは聖杜国の真実の証であり、世界の宝だからね。ちゃんと人類の宝として保存して置きたいんだよ。だから、私の夢は王都に、歴史博物館を建てることなんだよ。ははは!」
その言葉に、飛翔も瞳を輝かせる。
いつか、王都に歴史博物館を! それはとても素敵だ。
「歴史博物館にからくり箱を飾ってくれるんですか。見て見たいですね」
「待っているよ」
ドルトムントはそう言って、飛翔の肩を叩いた。
ドルトムントと一緒に石碑を読み解いてから、飛翔は指貫の仕上がりを確認する。
それをそっと懐に入れると、一足先に朝日の中へ出てきた。
作業場の扉の先には、水の綺麗な井戸。
その横で、ジオが釣瓶を動かしている。
顔を洗ってさっぱりしたところのようで、飛翔のために水を汲み上げてくれていたのだ。
「お前も顔洗うだろ」
二人でお互いのターバン頭を眺める。
「まだまだ、簡単には外せないな」
「まあな」
「でも、ジオ。いつか外せる日が来るよ。きっと」
「ああ、そう遠くない日に来るようにするぜ」
ジオが決意を込めた笑顔を見せた。
「飛翔もやること終わったら、またここに帰って来れたらいいんだけどな」
「ありがとう、ジオ。俺も帰って来たい。でも、どうなるのかわからないんだ」
「いつ帰って来てもいいようにターバン残しておくとは言わないぜ。ターバンはいらない世の中になっているはずだからな。あ、でも隣のルシア国では、こっちの方がかっこいいよな」
ジオがおどけたようにウィンクした。
その時、フカフカのパンの香が漂ってきた。
飛翔は急に空腹に気づく。
ジオの汲んでくれた水で顔を洗い、一緒に食堂へ向かった。
ハダルも起きていて、三人で支度を手伝う。
「寝坊助王を起こしてこいよ」
ジオが笑いながら言った。
そうして、朝日がすっかり顔を出し切る頃には、懐かしい朝食風景が広がっていた。
テーブルの上にはフカフカのパンと、ヨーグルトやチーズ、果物。
飛翔は噛み締めるように食べた。
あの時感動したフカフカのパン。
結局、作り方を教わるの忘れたなとちょっと後悔した。
玉英王にとっても、ミザロの食卓は珍しいようで、フィオナお手製のフカフカパンを気に入って二つ目に手を伸ばしていた。
食事の後、飛翔はフィオナに出来上がった指貫をプレゼントした。
ロサリアの花が咲き誇る美しい指貫。
「すまない。一つしか作れなかった。これはフィオナの分。お店で売れるほどは作れなくってすまない」
「凄い! 綺麗ー」
フィオナはしばし見とれていたが、飛翔の次の言葉に可愛く口を尖らせた。
「でも、俺くらいの技術者はこの世界にもいるはずだから。その人たちを見つけて、いっぱい作ってもらって、売ってくれ」
「飛翔、相変わらず私が金儲け第一主義の人みたいに思っているのね~。違うからね。これはあくまで技術者の養成と継承に役立つから作ってもらえる人探すんだからね」
そう言いながらも、飛翔の言葉の意味を正しく理解している。
聖杜国の技術者の子孫が世界に散らばっているはず。
その人たちを探して、技術を保護して欲しいと言っていることを。
「フィオナ、いつも励ましてくれてありがとう。君の元気にいつも助けられたよ」
「ほんと! そう言ってもらえて嬉しいわ。飛翔と過ごせて私もとっても楽しかったわ。指貫もありがとう。大切にするね」
飛翔は続けてキリトの腕輪を外すと、中から星光石の指輪を取り出した。
指にはめてみせる。
みんながおおーと声を上げた。
宇宙を閉じ込めたような深く果てしない藍色の石。
みんなの視線が集まった後、静かなため息が漏れた。
そんな神聖な空気を断ち切るように、フィオナの声。
「この腕輪、そんな隠し扉があったんだ!」
飛翔はキルディア国の古の姿、キリト国の婚礼のしきたりを話す。
腕輪の隠し扉の中に自分の誕生石を入れて、新郎新婦が互いを思いやって交換するお守りなのだと。
その話に、フィオナはキラキラと目を輝かせる。
「なるほど、ガラクタじゃなかったんだ」
そして満足そうにニッコリした。
「素敵! その習慣、復活させたら素敵だわ。きっとこの腕輪売れるわよ!」
オルカの伝書鳥の伝言を受けて、イデオ扮する偽物王は、緊張の面持ちでランボルトとやって来た。
今回は輿のようなものに乗せられて、後ろには相変わらず警備兵がぞろぞろ。
輿から転がり降りると、
「もう身代わりは二度と嫌だ」
と小さな声で弱音を吐いていた。
着替え終わると玉英王がいつもの威厳を取り戻した。
そして、飛翔もずっとしまって置いた禊祭の服装に着替えた。
リフィアが作ってくれた青い肌着。
その上に祭服を重ねる。
祭服はフィオナが剣によって裂かれた部分を丁寧に繕ってくれていたお陰で、新品のように綺麗になっていた。
ターバンを外し、丁寧に青髪を結い上げる。
最後にもう一度部屋を見回して、丁寧に頭を下げた。
そして、みんなの待つ階下へと降りて行った。
飛翔の正装に、みんなが感嘆の声を上げた。
「やっぱり、飛翔は王子様だったのね」
フィオナの言葉に、思わず苦笑い。
「ああ、本物の王子だよ」
「皆さん、お世話になりました。ありがとうございました!」
もう一度、深く頭を下げた。
みんな寂しそうな顔になったが、後の事は任せろよ! と口々に飛翔に答えたのだった。
ミザロの西の端、泉の祈願所には、ミランダが子ども達を連れて先に来ていた。みんな飛翔を見送りたいと思っていたからだ。
飛翔も嬉しそうに一人一人を抱きしめた。
子ども達は飛翔の青い髪の毛にびっくりして触りたがる。
飛翔も笑いながら子ども達に触れさせて、古の民の話をした。
みんな真剣な面持ちで聞いていたが、マリナが静かに宣言する。
「私たちがちゃんと覚えておくからね」
「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」
「忘れないからな。絶対!」
カイもハヤトも口々に応えたのだった。
ドルトムントの持って来た方位磁針。
泉に近づくとクルクルと動きが止まらなくなった。
「ここが今の『知恵の泉』で間違いなさそうだな」
そのドルトムントの言葉に、玉英王が驚いたような顔をする。
「今、ここが『知恵の泉』と言ったな? では、この地で考え事をすれば良い考えが浮かぶのだな」
「まあ、そうかもしれませんが、特に噂になったことは無いですね。この祈祷所は旅の安全を祈るためにしか使って無かったから分からなかっただけかもしれませんが」
玉英王は少し残念そうな顔になったが、心を無にして泉に向き合った。
「わかった。これから余は、泉より人を頼ることにする。だから、飛翔、そなたとの別れは寂しいが、泉を無事神に返してくれ。後の事は任せろ!」
飛翔は玉英王に微笑むと、「お願いします」と頭を下げた。
「みんな、お世話になりました。千年も前からタイムトラベルして来て、知り合いのいないこの地で途方にくれていた俺を助け、導いてくれて、本当にありがとうございました。短い間でしたが、俺は凄く幸せでした。みんな大好きだし、本当はずっと一緒にいたい。でも、俺は『ティアル・ナ・エストレア』の片割れだから、泉を神に返して、本当の意味での人の世を始めないといけない。後のことよろしくお願いします。みなさんの努力が実を結びますように、祈っています」
一人一人に語り掛けるように、みんなの顔を見つめる。
みんなもそれぞれの思いを込めて飛翔を見つめ返した。
最後ににっこり笑うと、軽やかに泉に向かって駆けて行き……
飛び込んだ。
それは一瞬の出来事だった。
泉の水が膨れ上がり、たちまち飛翔を包み込む。
まるで飛翔を待ちわびていたかのように……
飛翔を飲み込んだ水が水面に滴り落ちる。
水紋が広がり、静かに岸へ押し寄せてきた。
でも、それっきり。
飛翔の体は二度と現れることは無かった……
みんな水面を見つめ続けていた。
飛翔がまた笑顔で戻ってくるのを願う。
でも、水面は飛翔を連れ戻してはくれなかった。
玉英王は久しぶりに安心することができたらしく、安らかな寝息をたてている。
昨日は遅くまで聖杜国の話で盛り上がった。
そして飛王のこと……玉英王は飛王の親書をかつて何度も何度も読み返していた。
読み返しているうちに他人とは思えなくなったと。
大切な遠くの友達にやっと会えたような気持ちだと声を震わせた。
それを聞いて、飛翔も嬉しかった。
「飛王のからくり箱は、そのままあなたが持っていてください」
喜びと責務を秘めた瞳で、玉英王は頷いたのだった。
予想通り、ドルトムントの作業場からは明かりが漏れていた。
そっと扉を開ける。
黙々と石碑を磨いているドルトムントの後姿があった。
あの時と同じだな……
初めてドルトムントと出会った日。
不安でいっぱいだった飛翔に、真実を追う大切さと楽しさを語ってくれた。
飛翔は懐かしい思いで胸がいっぱいになった。
「ドルトムント、おはようございます」
「ああ、おはよう。早いね」
「ドルトムントこそ」
「なんだか興奮してしまってね。早くこの文字を読みたくなってしまったのでね。やっぱりいいね。本物を読み解くのは」
飛翔は隣に並ぶと、一緒に石碑を見つめた。
白い大理石の石碑と、苔汚れの貼り付いた古の碑文。
この発掘品が無かったら、俺は『ティアル・ナ・エストレア』の真実に辿り着くのが、もっと遅れていたかもしれない。
いや、そもそもドルトムントが発掘作業をしていなかったら、俺はあのまま砂漠で干からびていたかもしれないのだ。
飛翔は、それが偶然か必然か分からないながらも、ドルトムントに深く感謝していた。それを伝えなければと口を開く。
「ドルトムント。お世話になりました。あなたのお陰で俺は生きる事ができたし、聖杜国に辿り着くこともできました。本当に、ありがとうございました!」
深く深く頭を下げた。
「いやいやいや、それは私のセリフだよ。飛翔君のお陰で古の遺跡! 聖杜国の謎に迫れたんだからね。いやあ、助かったよ」
ドルトムントはその人の良さそうな笑顔を満開にする。
「まあ、玉英王様の支援も引き続き受けられそうだしな。これからもジャンジャン発掘するぞ!」
またまたおーっと手を上げそうになって、口を閉じた。
素早く入り口に目を走らせてフィオナの姿が無い事を確認すると、小さな声でおーと囁いた。
「ドルトムント。俺、今日泉に行こうと思っています」
「そうか……飛翔君は、これから大切な役目を果たさなきゃならないからな。頑張れよ。でも、寂しいな」
ドルトムントは飛翔に優しい眼差しを向ける。
「寂しいけれど……泉で飛王君が待っているんだから、仕方ないな」
飛翔は我慢できず、泣き笑いの顔になった。
このままみんなと一緒に暮らせたら、どんなに楽しいだろう。
でも、飛王をこれ以上待たせたくない。
「はい! 頑張ります!」
飛翔はそう言って、もう一度頭を下げた。
「私は聖杜国の真実を書き残すからな。歴史学者として、しっかりとやらなければならないことをやるから、安心していてくれ」
「ドルトムント、これ、受け取ってもらえませんか?」
飛翔はそう言うと、流花の手紙入りのまま、自分のからくり箱をドルトムントに手渡した。
「こんな大切な物を私に?」
「ええ、大切な物だから、ドルトムントに持っていて欲しいんです。これを使って、どんどんまた真実に迫ってください」
ドルトムントは興奮したように頬を紅潮させながら受け取る。
「ありがとう。これは大切に保管して、調べて……いつかみんなが見れるように展示したいな」
そう言うとニッコリと笑った。
「これは聖杜国の真実の証であり、世界の宝だからね。ちゃんと人類の宝として保存して置きたいんだよ。だから、私の夢は王都に、歴史博物館を建てることなんだよ。ははは!」
その言葉に、飛翔も瞳を輝かせる。
いつか、王都に歴史博物館を! それはとても素敵だ。
「歴史博物館にからくり箱を飾ってくれるんですか。見て見たいですね」
「待っているよ」
ドルトムントはそう言って、飛翔の肩を叩いた。
ドルトムントと一緒に石碑を読み解いてから、飛翔は指貫の仕上がりを確認する。
それをそっと懐に入れると、一足先に朝日の中へ出てきた。
作業場の扉の先には、水の綺麗な井戸。
その横で、ジオが釣瓶を動かしている。
顔を洗ってさっぱりしたところのようで、飛翔のために水を汲み上げてくれていたのだ。
「お前も顔洗うだろ」
二人でお互いのターバン頭を眺める。
「まだまだ、簡単には外せないな」
「まあな」
「でも、ジオ。いつか外せる日が来るよ。きっと」
「ああ、そう遠くない日に来るようにするぜ」
ジオが決意を込めた笑顔を見せた。
「飛翔もやること終わったら、またここに帰って来れたらいいんだけどな」
「ありがとう、ジオ。俺も帰って来たい。でも、どうなるのかわからないんだ」
「いつ帰って来てもいいようにターバン残しておくとは言わないぜ。ターバンはいらない世の中になっているはずだからな。あ、でも隣のルシア国では、こっちの方がかっこいいよな」
ジオがおどけたようにウィンクした。
その時、フカフカのパンの香が漂ってきた。
飛翔は急に空腹に気づく。
ジオの汲んでくれた水で顔を洗い、一緒に食堂へ向かった。
ハダルも起きていて、三人で支度を手伝う。
「寝坊助王を起こしてこいよ」
ジオが笑いながら言った。
そうして、朝日がすっかり顔を出し切る頃には、懐かしい朝食風景が広がっていた。
テーブルの上にはフカフカのパンと、ヨーグルトやチーズ、果物。
飛翔は噛み締めるように食べた。
あの時感動したフカフカのパン。
結局、作り方を教わるの忘れたなとちょっと後悔した。
玉英王にとっても、ミザロの食卓は珍しいようで、フィオナお手製のフカフカパンを気に入って二つ目に手を伸ばしていた。
食事の後、飛翔はフィオナに出来上がった指貫をプレゼントした。
ロサリアの花が咲き誇る美しい指貫。
「すまない。一つしか作れなかった。これはフィオナの分。お店で売れるほどは作れなくってすまない」
「凄い! 綺麗ー」
フィオナはしばし見とれていたが、飛翔の次の言葉に可愛く口を尖らせた。
「でも、俺くらいの技術者はこの世界にもいるはずだから。その人たちを見つけて、いっぱい作ってもらって、売ってくれ」
「飛翔、相変わらず私が金儲け第一主義の人みたいに思っているのね~。違うからね。これはあくまで技術者の養成と継承に役立つから作ってもらえる人探すんだからね」
そう言いながらも、飛翔の言葉の意味を正しく理解している。
聖杜国の技術者の子孫が世界に散らばっているはず。
その人たちを探して、技術を保護して欲しいと言っていることを。
「フィオナ、いつも励ましてくれてありがとう。君の元気にいつも助けられたよ」
「ほんと! そう言ってもらえて嬉しいわ。飛翔と過ごせて私もとっても楽しかったわ。指貫もありがとう。大切にするね」
飛翔は続けてキリトの腕輪を外すと、中から星光石の指輪を取り出した。
指にはめてみせる。
みんながおおーと声を上げた。
宇宙を閉じ込めたような深く果てしない藍色の石。
みんなの視線が集まった後、静かなため息が漏れた。
そんな神聖な空気を断ち切るように、フィオナの声。
「この腕輪、そんな隠し扉があったんだ!」
飛翔はキルディア国の古の姿、キリト国の婚礼のしきたりを話す。
腕輪の隠し扉の中に自分の誕生石を入れて、新郎新婦が互いを思いやって交換するお守りなのだと。
その話に、フィオナはキラキラと目を輝かせる。
「なるほど、ガラクタじゃなかったんだ」
そして満足そうにニッコリした。
「素敵! その習慣、復活させたら素敵だわ。きっとこの腕輪売れるわよ!」
オルカの伝書鳥の伝言を受けて、イデオ扮する偽物王は、緊張の面持ちでランボルトとやって来た。
今回は輿のようなものに乗せられて、後ろには相変わらず警備兵がぞろぞろ。
輿から転がり降りると、
「もう身代わりは二度と嫌だ」
と小さな声で弱音を吐いていた。
着替え終わると玉英王がいつもの威厳を取り戻した。
そして、飛翔もずっとしまって置いた禊祭の服装に着替えた。
リフィアが作ってくれた青い肌着。
その上に祭服を重ねる。
祭服はフィオナが剣によって裂かれた部分を丁寧に繕ってくれていたお陰で、新品のように綺麗になっていた。
ターバンを外し、丁寧に青髪を結い上げる。
最後にもう一度部屋を見回して、丁寧に頭を下げた。
そして、みんなの待つ階下へと降りて行った。
飛翔の正装に、みんなが感嘆の声を上げた。
「やっぱり、飛翔は王子様だったのね」
フィオナの言葉に、思わず苦笑い。
「ああ、本物の王子だよ」
「皆さん、お世話になりました。ありがとうございました!」
もう一度、深く頭を下げた。
みんな寂しそうな顔になったが、後の事は任せろよ! と口々に飛翔に答えたのだった。
ミザロの西の端、泉の祈願所には、ミランダが子ども達を連れて先に来ていた。みんな飛翔を見送りたいと思っていたからだ。
飛翔も嬉しそうに一人一人を抱きしめた。
子ども達は飛翔の青い髪の毛にびっくりして触りたがる。
飛翔も笑いながら子ども達に触れさせて、古の民の話をした。
みんな真剣な面持ちで聞いていたが、マリナが静かに宣言する。
「私たちがちゃんと覚えておくからね」
「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」
「忘れないからな。絶対!」
カイもハヤトも口々に応えたのだった。
ドルトムントの持って来た方位磁針。
泉に近づくとクルクルと動きが止まらなくなった。
「ここが今の『知恵の泉』で間違いなさそうだな」
そのドルトムントの言葉に、玉英王が驚いたような顔をする。
「今、ここが『知恵の泉』と言ったな? では、この地で考え事をすれば良い考えが浮かぶのだな」
「まあ、そうかもしれませんが、特に噂になったことは無いですね。この祈祷所は旅の安全を祈るためにしか使って無かったから分からなかっただけかもしれませんが」
玉英王は少し残念そうな顔になったが、心を無にして泉に向き合った。
「わかった。これから余は、泉より人を頼ることにする。だから、飛翔、そなたとの別れは寂しいが、泉を無事神に返してくれ。後の事は任せろ!」
飛翔は玉英王に微笑むと、「お願いします」と頭を下げた。
「みんな、お世話になりました。千年も前からタイムトラベルして来て、知り合いのいないこの地で途方にくれていた俺を助け、導いてくれて、本当にありがとうございました。短い間でしたが、俺は凄く幸せでした。みんな大好きだし、本当はずっと一緒にいたい。でも、俺は『ティアル・ナ・エストレア』の片割れだから、泉を神に返して、本当の意味での人の世を始めないといけない。後のことよろしくお願いします。みなさんの努力が実を結びますように、祈っています」
一人一人に語り掛けるように、みんなの顔を見つめる。
みんなもそれぞれの思いを込めて飛翔を見つめ返した。
最後ににっこり笑うと、軽やかに泉に向かって駆けて行き……
飛び込んだ。
それは一瞬の出来事だった。
泉の水が膨れ上がり、たちまち飛翔を包み込む。
まるで飛翔を待ちわびていたかのように……
飛翔を飲み込んだ水が水面に滴り落ちる。
水紋が広がり、静かに岸へ押し寄せてきた。
でも、それっきり。
飛翔の体は二度と現れることは無かった……
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でも、水面は飛翔を連れ戻してはくれなかった。
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