私の推しは雑草男子

涼月

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Step4 胡蝶蘭男子と同居することになりました

ヒメコバンソウ④

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「室長! 乾杯しましょう。早く食べないと冷めてしまいます」
「……ああ、そうだな」

 落ち込む室長の顔なんて、見たくないから、気分を変えようと敢えて明るい声をあげる。

「お料理作ってくださってありがとうございます。乾杯」
「乾杯」

 カチンと軽やかな音が響く。弾け続けるグラスを口に含めば、爽やかな香りが鼻腔をすり抜けた。

 ああ……生き返る。

 トマトとモッツアレラのパスタは、濃厚なのにさっぱり。アルデンテで噛み応えもしっかり残っている。
 舌触り滑らかなコーンスープにシャキシャキのサラダ。
 どれもプロが作ったのかと思うほど美味しい。

「室長、美味しいです! プロが作ったみたい」
「だろ。こう見えて結構器用なんだよ」
「納得しました」

 夢中になって食べていたら室長が呆れたように笑いながら言ってきた。

「花乃ちゃん、本当に幸せそうに食べるね。美味しそうに食べている姿っていいな。俺も幸せな気持ちになる」
 
 は! として、慌ててフォークの手を止める。
 ガッツいて食べているみたいで、はしたなかったかしら。

 その時、スラリとした白い指が伸びてきた。

 えっと、なんだろう?

 思わず固まって動けない。見つめてくる室長の瞳があまりにも優しくて、美しくて。
 ボーっと見つめていたら、口の端のソースをすっと拭われた。

 私ったら! 恥ずかしさに真っ赤になった視線の先で、室長はその手をペロリと舐めた……


 え? 今のは一体……それって、か、間接キスみたいです。

 驚いてアワアワしている私をチラリと見て、高梨室長は今度は艶めかしい表情を浮かべてくる。


「今日は味見。あんまり君が美味しそうに食べるものだから、俺も君を食べたくなっちゃったよ。でも、今日は我慢して味見だけにする」

 な、なななな……

 今度は酸欠の金魚のように口をパクパクするしかない私。

 やっぱり、一刻も早くここから脱出しよう。
 でないと、イケメンプレイボーイの戯言に振り回されて、私の心が持ちません!


 夕食を終えて、御礼にお皿を洗って。
 ようやくほっとする。

「お疲れ様。今日はゆっくり眠れるといいね」

 室長はそう言うと、「おやすみ」と自室へと去っていった。

 長い一日だったな……疲れた。

 
 一日の最後は、やっぱり『ひなたぼっこ』さんの写真に癒されたい。
 そう思って開いたページ。新しいお花は……


―――『ヒメコバンソウ』。イネ科の植物で、穂の形が小判の形に似ていることからお金という名前が付いているらしい。
 でもお金で買えないのが心だよな。花言葉は『私の心に気づいて』。
 心は目に見えない。読めないし、読み違える―――

 高梨室長。本当は寂しい人のような気がする。なんとなくそう思ったの。

 思わせぶりなことばかり言って、私のことからかっているようにしか見えないんだけれど。
 でも、本当は心の中で泣いている気がするの。
 
 逃れたくても逃れられない世界で、やりたくないこといっぱい押し付けられて。
 本当の気持ちは飲み込んで、誰にも弱みを見せられなくて。

 助けてくれって、聞こえた気がした―――
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