私の推しは雑草男子

涼月

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Step4 胡蝶蘭男子と同居することになりました

ネジバナ

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 そろそろ家に帰っても大丈夫なんじゃないかしら。
 そんな風に思い始めた週末の夜。

 ふと目が覚めて水を求めた。

 リビングに灯るダウンライトの下。ソファに横になっている人影を見つけて、思わずそっと近づく。

 こんなところで寝てる……疲れているんだろうな。

 眉間に皺を寄せた苦しそうな寝顔。きめの細かい白い肌が青ざめて見えるのは、ライトのせいじゃないはず。だって、このライトの色味は黄味が強いもの。

 私ではベッドまで運んであげられないから、せめて布団だけでもと近くの部屋から取ってきた。

 そうっと、起こさないように。布団をかけてもう一度寝顔を見つめる。

 やっぱり。室長って綺麗な顔しているんだわ。
 濃い影を落とす睫毛、真っ直ぐに伸びた鼻筋、引き締まった口元、高い頬。
 苦し気な表情がまたセクシーな色気を放っている。
 普段はドキドキしてまともに見つめることなんてできないけれど、今夜は見つめたい放題。その美しさを一人堪能して悦に入った。

 ふふふ。室長、こんな風に私に見つめられているなんて夢にも思っていないわよね。
 いつも振り回されている仕返しをちょっとだけした気分になった。

 ようやくちゃんと見れたわ。嬉しい。
 と同時に、引き返せない扉を開けてしまったような不安な気持ちが沸き上がってきた。
 混ぜこぜのこの気持ちを何と名付ければいいのか戸惑う。
 
 いやいや、深く考える必要なんて無いわ。
 私と室長はただの上司と部下。胡蝶蘭男子と雑草女子。
 絶対に並ぶことは無いんだから。

 満足して立ち去ろうとしたら、いきなり手首を掴まれた。

 え! 
 
 グイッと引っ張られて、後頭部を温かい手に包まれた。
 
 そして……

 高梨室長の唇は、思ったよりも柔らかくて、吸い付くように弾力があって、蕩けるように甘かった―――


 求めるように何度も覆われて。
 味わうように撫でる舌先が優しかった。


 そうして、満足したように寝息をたてる室長の顔からは、いつの間にか眉間の皺が消えていて、穏やかな、優しい表情に変わっていた。


 誰を思っていたの?

 喜びと共に沸き上がる落胆。

 また、気持ちがぐちゃぐちゃ。

 
 ふいに涙が溢れ出た。


 慌てて部屋へ戻る。

 どうしよう―――私、室長のこと、好きになっちゃった。


 どうしてこんなことが。

 違う。これは私の勘違い。私が好きなのは『ひなたぼっこ』さんだけ。
 室長のことは好きでもなんでもなくて、ただ雰囲気に酔っただけ。

 だって、こんなことされたら、誰だって勘違いしちゃうでしょ。
 これは単なる挨拶のはず。外国の人みたいにね。

 それなのに……心が痛いよ。
 
 なんで、キスなんかしたの?
 なんで、私を家に入れたの?

 自分の気持ちを認めたくなくて、慌てて『ひなたぼっこ』さんの写真に縋る。

―――『ネジバナ』。花言葉は『思慕』
 会いたい。でも、会いたくない。会ったらもっと好きになってしまいそうで。でも、好きになってはいけないから。
 恋に悶えるように捻じれながら花咲くネジバナ。その姿に俺の気持ちが重なった――― 
 
 ああ……本当に。どうして出会ってしまったんだろう。
 好きになってはいけないのに、好きにならずにいられない。

 こんな気持ちになってしまうなんて。
 
 涙が止まらない。
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