未来の魔王は図書館の片隅で愛を育む

涼月

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第2話 共犯だな

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 次の日の放課後。

 私はこれまで通り、図書館の一番奥の壁際の席を陣取って、新しい本を読みふけっていた。
 丁度大きな本棚の陰になっているので、入り口から見えづらいから気に入ってるの。

 誰にも邪魔されずにゆっくりと本の世界を楽しめる。

 と思っていたのに、疾風のように駆け込んできたローブの人。
 頭まですっぽり被っていて、誰だかわからないようにしているけど……

 懇願するような赤い瞳。
 口の動きだけで『後はよろしく』

 するりと机の向こう側へ横たわると壁と同化してしまった。

 後はよろしくって言われてもねぇ。

 すると、いつもは厳かな雰囲気の図書館に、華やかな声が乱入してきた。

 澄んだ可愛らしい声が、口々に「アルドール様」と呼びかけ回っている。
 とうとう探索は私の席までやってきた。

 平常心よ、フェリス!

 心の中で必死に唱える。

「あら、お姉様」

 びくんとして、思わず立ち上がってしまったわ。

「リ、リーズ! どうしたの」

 さり気なく、椅子に寝転ぶアルドール様を彼女の視界から隠すように立ち位置を調整する。

「ねぇ、お姉様、こちらにアルドール様がいらっしゃらなかったかしら?」
「あ、アルドール様なんて見ていないわ」
「本当に? 確かに図書館の方へ向かわれたはずなのに」
「通り過ぎて別のところへ向かわれたんじゃないの?」
「そうねぇ」

 リーズが親指の爪を噛んだ。

 あー、相当機嫌が悪そうね。

「リーズ、図書館は静かにしないと。司書の先生に怒られてしまうわよ」
「んもう、一番最初に見つけて、あの子たちに思い知らせてやろうと思ったのに」

 リーズは彼方のライバル達を睨みつける。

 放課後も追っかけ隊に囲まれて、アルドール様も大変なのね。

 思わず同情してしまった。
 これじゃ、逃げ出したくなるわよね。

「あの、リーズ。ここにはいらっしゃらないから、早く他を探しに行った方がいいんじゃない」
「わかってるわよ。お姉様に言われなくてもそのくらい」

 ふんっと不機嫌に頬を膨らませたけれど、それ以上居座ることなく帰ってくれたので助かった。

 ふうぅ~

 見つからなくて良かった。

 嵐のような令嬢方の捜索も一段落したようで、図書館にいつもの静けさが戻った。

「ふうぅ、焦ったわ」
「ありがとう」

 ため息と共に独りごちると、くぐもった声で労いの言葉が聞こえてきた。

「いえ……見つかったらどうしようって、ドキドキしちゃいました」

 私の言葉に、ひょいと身を起こしたアルドール様。形の良い唇を綺麗な三日月に変えて微笑まれたの。

「ふっ、これでお前も共犯だな」

 き、共犯!?

 なんて罪深い響き!

 いやいや、そんな呑気なこと言っている場合では無かったわ。

「わ、私は巻き込まれただけで」
「よ、相棒。これからも、よろしくな」

 あわあわしている私に綺麗なウィンクを飛ばして、アルドール様は再びお昼寝モード。壁と同化してしまった。

 ううう……今、私、この学園の女子生徒の半分を敵に回してしまったんじゃないかしら!

 せっかく穏やかな読書学園生活を夢見ていたのに……

 でも、先程の鬼気迫る女性陣の様子を見て、アルドール様が可哀想に思ったのも確かなのよね。

 だって、少しは自分の時間も欲しいよね。
 ずーっと、格好良く完璧に見せ続けることは、きっともの凄くストレスが多いと思うから。

「わかりました。ここにいる間は私が見張っていますので、ゆっくりお休みになってください」

 丸まった背にそう答えたら、再び顔を上げて微笑まれたの。

 か、可愛い~

 思わず見惚れていたら、釘を刺された。

「フェリス、本に夢中になって見張りを忘れるなよ」

 やっぱり、可愛くない!

 それに、痛いところをつかれてしまった。
 うん、確かに本に夢中になると周りのことどうでも良くなっちゃう体質だから……絶対大丈夫とは言えないわね。

「ぜ、善処します……」
「ああ? 善処だと。生ぬるいこと言ってないで、本気で俺の安眠を守れ」

 なんて俺様タイプ!

 みんな、のどこがそんなにいいのかわからないけど、安眠を妨害される辛さは良くわかるから……

「わかりました」
「んじゃ、おやすみ」
「お、おやすみなさい」

 あ~あ。

 私の快適読書生活が消えちゃった……



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