未来の魔王は図書館の片隅で愛を育む

涼月

文字の大きさ
3 / 10

第3話 魔法披露会

しおりを挟む
 今日は一日、演武場で魔法披露会が開かれることになっている。

 この学園、表向きは紳士淑女の魔法学園となっているけれど、目的は人族と魔族のお見合い。

 なので、互いの特技を披露して、交流しやすくするのが今日の授業の狙いらしい。

 と言っても、全員が披露するわけでは無くて、一部の、強力な魔力をお持ちの方々だけが指名されるはずだから、私は関係ないのだけれど。

「お姉様、今日はいっぱい魔力をくださいね」

 朝からご機嫌のリーズが押しかけてきた。

「リーズはどんな魔法を披露するの?」
「それはもちろん、癒しの魔法よ。男性方は対戦形式で攻撃魔法を披露される方も多いみたいなの。だから、怪我された方全員を治療して差し上げるわ」

「それは良いわね。じゃあ、今ある魔力を全部あげるわね」
「うふふ。やっぱりフェリスお姉様は優しい」

 こんな時ばかり、私を褒めてくるリーズはちょっと憎らしいけれど、今日は皆さんのために頑張ると言っているのだから、私も純粋に応援したいと思ったの。

 両手を合わせて、ありったけの魔力を送り込んだ。

「ありがとう。お姉様」


 演武場では、次々に色々な魔法が披露されていく。
 植物魔法で演武場の壁いっぱいに緑の蔦を絡ませたり、音の魔法で一人で五重奏を奏でたり、みんな素敵な魔法を持っていて羨ましい。

 アルドール様の妹姫のサーヤ様はちょっといたずらが過ぎて、土の魔法で出現させた砂の迷路に皆を閉じ込めて楽しんでいらしたけれど。

 でもやっぱり、本日一番の盛り上がりを見せたのは、人族の王子レオン様と、魔族の王子アルドール様の魔法対戦だった。

 火の魔法を操るレオン様が、アルドール様に強烈な火力砲を打たれた時は驚いたけれど、水魔法のアルドール様が分厚い水の盾で全て防がれて素晴らしかったわ。

 でも、何よりも素敵だったのは、水の盾が火力砲で熱せられて水蒸気となって霧散して、それに日の光が当たってきらきらと反射した光景。

 とても綺麗だったの!
 なんだか戦いというよりは、息の合ったショーを見ているみたいだった―――

 うふふ。
 レオン様とアルドール様って、実は仲が良いのじゃないかしら。
 だって、とっても息がぴったりなんですもの。

 魔法対戦が光の舞になって、当然お二人は怪我することなく、決着がつくこともなく。
 時間になって対戦は引き分けで終わりになった。

 良かったわ……

 と思ってないのがリーズだった。

 彼女の中では、お二人共に怪我をされて自分が颯爽と治療すると言うイメージが出来上がっていたのね、きっと。

 他の対戦の方々を治療して、鼻高々だったのに、今回は出番無し。

 しばらく爪を噛んでいたけれど、何やら良いことを思いついた顔で司会の先生のところへ駆けていったのが見えた。

「えー、次の魔法対戦は姉妹対決です。リーズ・ロエベール嬢とフェリス・ロエベール嬢。演武場の中へどうぞ」

 えっ!!?

 青天の霹靂とも言うべき事態。
 これ、絶対リーズが仕組んだわね。

 私は披露できるような魔法の能力は発現して無くて、ただそれなりに魔力量が多いだけの出来損ない。

 その上、今朝リーズに魔力を全部あげてしまったから、今はまだそれほど魔力量も溜まっていない状態。

 これで対戦って……
 私、一方的にやられちゃう。どうしよう!

 リーズは癒しの魔法の他にも、水魔法と風魔法が使えるから……やっぱり、棄権しよう。

 大急ぎで司会の先生のところへ行こうとしたら、リーズの友人に捕まった。
 伯爵令嬢のハリエット嬢とマリナ嬢。
 二人に両手を繋がれて演武場の入り口へ連行されてしまったの。

「リーズ、私はこのまま棄権するから」
「駄目よ、お姉様。私の魔法を受けてくださらないと」
「何故こんなことを」
「私は癒せるだけじゃ無くて、戦う強さもあるって証明したいの」
「そんなの必要な」

 言いかけた言葉はつむじ風に遮られた。

「きゃっ」

 演武場の砂を巻き上げながら、くるくると回る風に巻き込まれて、私はドレスを押さえるので必死。

 目が回っちゃう!

 慌てて閉じかけた目の隙間から、リーズが水魔法を発動させたのが見えた。

 同時に二つの魔法を発動させるのは、とても高度な技。

 そっか、リーズはこれが見せたかったんだ……そうして、最後に私を癒して完璧な姿をアピールしたいんだわ。

 そう気づいたら、もうどうでも良くなった。
 茶番に付き合わせることができるのは、私だけだってわかっているから。

 五、四、三……

 後少しで水魔法が着弾する―――

 と思っていたのに、じゅわっという水蒸気の音。
 続けて、ザザッっと鳴って砂嵐が停止した。

「きゃっ」

 地面に激突をギリギリのところで免れたのは、飛び込んで来た人影が振り向きざま私を受け止めてくれたから。

「あ、アルドール様っ」
「大丈夫か?」

 驚いたことに、アルドール様が演武場に乱入して、リーズの水魔法を火力砲で水蒸気に変えてくださったの。

 リーズの集中力が途切れて、風魔法も中断。お陰で砂嵐が止んだけど、私はそのまま落下して……今アルドール様の腕の中。

「アルドール様、何故こんなところに入っていらしたのですか?」
「……」

 黙ったままアルドール様がリーズを睨みつける。その鋭い眼差しに慄いた彼女は、慌てて弁明を始めた。

「あ、姉とは打ち合わせ済みです。最後に私の癒しの魔法で回復。そこまでの一連の流れをお見せしたくて」
「お前、馬鹿か」
「は、えっ!?」

 リーズが驚きで目を見開いた。

「癒すから傷つけてもいいなんて、二度と思うな!」
「あ……」

 リーズの目にみるみる涙が膨らんでいく。

「……ごめんなさい」
「わかればいい」

 それだけ言うと、アルドール様は私を地面に下ろしてくださったの。

「Healing!」

 そう唱えて私の小さな切り傷を一瞬で癒してくださり……私には何も言わずに歩き去られた。

「あ、あの、ありがとうございます!」

 遅れてしまったお礼の言葉には、右手を挙げただけで振り返らなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

一年だけの夫婦でも私は幸せでした。

クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。 フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。 フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。 更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

二度目の初恋は、穏やかな伯爵と

柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。 冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...