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第4話 夕暮れ時の図書館
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今日はもうクタクタで、本当はこのまま部屋に帰りたかったのだけれど。
もしもアルドール様が図書館で寝ていらしたら……
そう思ったら、確かめずにはいられなかった。
ギイっと重い扉を開けて覗いてみる。
流石に今日は誰もいないわね。
でも、念のため。
いつもの席を覗いてみたら……
寝てる!
そうっと、そうっと。
腰を下ろして見守ろうとしたら、むくりと起き上がってしまったの。
「ごめんなさい、起こしてしまって」
「遅いっ」
「え、遅いって、あのっ」
「身体は大丈夫か」
思いがけない優しい気遣いに、ちょっとドキッとしちゃった。ふわっと心の中が温かくなって嬉しい気持ちでいっぱいになる。
「はい。アルドール様のお陰です。今日は助けてくださり本当にありがとうございました」
心からの感謝を込めて。
ありったけの笑顔でお礼を言ったんだけど。
「べ、別に。見張り役が怪我して来れなくなったら俺が困るからに決まっているだろ」
何故か眉間に皺寄せて、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。
あ、確かに、そうよね。
膨らんだ温かい気持ちが、急速に萎んでいく。
でも……わざわざ助けてくださったんだからやっぱり感謝はしておこう。
「それでも、助けていただいて嬉しかったので」
「フェリス」
「はい」
「お前、全然反撃しなかったな。妹相手だろうが茶番だろうが関係ない。お前はお前のために動くのが当然だろう」
「あの……私、魔力はあるけど、魔法は発動できなくて」
「えっ!?」
今度はアルドール様が目をまん丸にされた。
きっと、なんでこんな奴が入学できたんだろうって驚かれたわよね。
「でも、昼寝の見張り役は魔法関係ないので大丈夫です」
「……ま、守ってやる」
「えっ」
今、なんて仰ったのかしら?
語尾が小さくゴニョゴニョしていて、よく聞き取れなかったわ。
「あー、魔法使えなくて困ったらいつでも言ってこいって意味だ」
「ありがとうございます。でも……元々妹の魔力供給係として入学しただけなので、成績は別にいいかな~って」
「アホ! 成績の話じゃない」
「アホ……」
この王子、何気に口が悪いのよね。
でも、何故か嫌な気はしないんだけど。
瞳のせいかな。
宝石のルビーのようにきらきらして綺麗な赤。その奥底が、とっても真っ直ぐで優しく感じるのは、私の都合の良い妄想かもしれないけれど……
「ここは魔窟のようなところだってこと、ちゃんと頭に入れておけよ」
「魔窟ですか」
「だーっ、またぽやぽやと」
「ぽやぽや……」
「もういい。しっかり見張っとけ」
なんか拗ねたような顔してくるっと背を向けると、壁と同化してしまった。
何がいけなかったのかわからないけど、少しでもゆっくり寝て欲しいから。
「おやすみなさい」
「……おやすみ」
すやすやと穏やかな寝息が聞こえてきて、なんか私までのんびりゆったりほっこり気分。
夕暮れ時の図書館は、淡いオレンジに彩られていて。
いつも以上に、温かい気がしたの。
『ソフィア学園』 の学生用カフェテリアは、食材が豪華で品数も多いし美味しいの。
皆様、和気あいあいとお喋りしながら食べているけれど、私はいつも一人で黙々と食べている。
だって、誰からも声をかけられないし、自分から声をかけるのは気恥ずかしいから。
誰も声をかけてくれない理由は分かっているから、別に今更何とも思わない。
みんな、聖女の不興を買いたくないのよ。
だから、今日も私は一人でシーフードスパゲティを食べていたの。海の無いこのヴァンドール王国では、とっても貴重な海老や貝がふんだんに使われた絶品!
それなのに、スパゲティは食べづらいからと敬遠される淑女も多くて。
うふふ。ラッキー!
くるくるとフォークに巻きつけて、ぱくりと齧り付いた瞬間、頭の上から爽やかな声が降ってきた。
「フェリス嬢、こんにちは」
「んぐっ」
慌てて飲み込む。
「ご、ごきげんよう。レオン王子様」
「ここの席、いいかな」
えっ!?
心の中で叫んで、慌てて辺りを見回したけれど、別に空いてる席がここしか無いから、と言う理由では無さそうね。
「はい、大丈夫です」
そう答えて席を立とうとしたら、驚いたような顔で腕を掴まれた。
「いやいや、追い出しているわけじゃ無くて、一緒に食べようって意味だから」
「ああ、そうだったんで、えっ!?」
驚いてまじまじとレオン王子の目を見つめてしまったわ。
綺麗な碧の瞳が、ニッコリと笑いかけてくださった。
「は、はい」
レオン王子の護衛兼御学友のヴィルヘルム公爵子息と、セドリス侯爵子息が共に席に付かれて、逃げ場が無くなってしまった。
仕方が無いので、一緒に座らせてもらう。
「ね、フェリス嬢って、アルドールと仲がいいの?」
ああ、ご質問が直球過ぎる。
でも、図書館での昼寝の見張り役なんて言ったら、アルドール様の放課後の居場所がバレてしまうし……
「いいえ。妹のリーズはご一緒させていただくことも多いようですが」
「そうなんだ。でも、昨日アルドールは、君を助けたよね。リーズ嬢とは喧嘩していたような」
「喧嘩するほど仲が良いという言葉もございますので」
必死で思いついたことを言ってみた。
誤魔化せた……かしら?
「ふうん、そうか」
それっきり、レオン王子様は何も仰らなかったけれど、じい~っとこちらを見てこられて。
た、食べた気がしません……
でも、それではなんだか悔しいので、なるべく味覚だけに意識を集中させて、なんとか食べ終えた。
「フェリス嬢の食べっぷりは、見ていて気持ちがいいな」
「あ、すみません。ぱくぱくと勢いよく口に入れてしまって」
「いや、寧ろほっとする」
「優しいお言葉、ありがとうございます」
ふはっと吹き出されたレオン王子が、
「明日も一緒に食べよう」
と仰って、去っていかれたの。
えっ!
どういうことかしら?
もしもアルドール様が図書館で寝ていらしたら……
そう思ったら、確かめずにはいられなかった。
ギイっと重い扉を開けて覗いてみる。
流石に今日は誰もいないわね。
でも、念のため。
いつもの席を覗いてみたら……
寝てる!
そうっと、そうっと。
腰を下ろして見守ろうとしたら、むくりと起き上がってしまったの。
「ごめんなさい、起こしてしまって」
「遅いっ」
「え、遅いって、あのっ」
「身体は大丈夫か」
思いがけない優しい気遣いに、ちょっとドキッとしちゃった。ふわっと心の中が温かくなって嬉しい気持ちでいっぱいになる。
「はい。アルドール様のお陰です。今日は助けてくださり本当にありがとうございました」
心からの感謝を込めて。
ありったけの笑顔でお礼を言ったんだけど。
「べ、別に。見張り役が怪我して来れなくなったら俺が困るからに決まっているだろ」
何故か眉間に皺寄せて、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。
あ、確かに、そうよね。
膨らんだ温かい気持ちが、急速に萎んでいく。
でも……わざわざ助けてくださったんだからやっぱり感謝はしておこう。
「それでも、助けていただいて嬉しかったので」
「フェリス」
「はい」
「お前、全然反撃しなかったな。妹相手だろうが茶番だろうが関係ない。お前はお前のために動くのが当然だろう」
「あの……私、魔力はあるけど、魔法は発動できなくて」
「えっ!?」
今度はアルドール様が目をまん丸にされた。
きっと、なんでこんな奴が入学できたんだろうって驚かれたわよね。
「でも、昼寝の見張り役は魔法関係ないので大丈夫です」
「……ま、守ってやる」
「えっ」
今、なんて仰ったのかしら?
語尾が小さくゴニョゴニョしていて、よく聞き取れなかったわ。
「あー、魔法使えなくて困ったらいつでも言ってこいって意味だ」
「ありがとうございます。でも……元々妹の魔力供給係として入学しただけなので、成績は別にいいかな~って」
「アホ! 成績の話じゃない」
「アホ……」
この王子、何気に口が悪いのよね。
でも、何故か嫌な気はしないんだけど。
瞳のせいかな。
宝石のルビーのようにきらきらして綺麗な赤。その奥底が、とっても真っ直ぐで優しく感じるのは、私の都合の良い妄想かもしれないけれど……
「ここは魔窟のようなところだってこと、ちゃんと頭に入れておけよ」
「魔窟ですか」
「だーっ、またぽやぽやと」
「ぽやぽや……」
「もういい。しっかり見張っとけ」
なんか拗ねたような顔してくるっと背を向けると、壁と同化してしまった。
何がいけなかったのかわからないけど、少しでもゆっくり寝て欲しいから。
「おやすみなさい」
「……おやすみ」
すやすやと穏やかな寝息が聞こえてきて、なんか私までのんびりゆったりほっこり気分。
夕暮れ時の図書館は、淡いオレンジに彩られていて。
いつも以上に、温かい気がしたの。
『ソフィア学園』 の学生用カフェテリアは、食材が豪華で品数も多いし美味しいの。
皆様、和気あいあいとお喋りしながら食べているけれど、私はいつも一人で黙々と食べている。
だって、誰からも声をかけられないし、自分から声をかけるのは気恥ずかしいから。
誰も声をかけてくれない理由は分かっているから、別に今更何とも思わない。
みんな、聖女の不興を買いたくないのよ。
だから、今日も私は一人でシーフードスパゲティを食べていたの。海の無いこのヴァンドール王国では、とっても貴重な海老や貝がふんだんに使われた絶品!
それなのに、スパゲティは食べづらいからと敬遠される淑女も多くて。
うふふ。ラッキー!
くるくるとフォークに巻きつけて、ぱくりと齧り付いた瞬間、頭の上から爽やかな声が降ってきた。
「フェリス嬢、こんにちは」
「んぐっ」
慌てて飲み込む。
「ご、ごきげんよう。レオン王子様」
「ここの席、いいかな」
えっ!?
心の中で叫んで、慌てて辺りを見回したけれど、別に空いてる席がここしか無いから、と言う理由では無さそうね。
「はい、大丈夫です」
そう答えて席を立とうとしたら、驚いたような顔で腕を掴まれた。
「いやいや、追い出しているわけじゃ無くて、一緒に食べようって意味だから」
「ああ、そうだったんで、えっ!?」
驚いてまじまじとレオン王子の目を見つめてしまったわ。
綺麗な碧の瞳が、ニッコリと笑いかけてくださった。
「は、はい」
レオン王子の護衛兼御学友のヴィルヘルム公爵子息と、セドリス侯爵子息が共に席に付かれて、逃げ場が無くなってしまった。
仕方が無いので、一緒に座らせてもらう。
「ね、フェリス嬢って、アルドールと仲がいいの?」
ああ、ご質問が直球過ぎる。
でも、図書館での昼寝の見張り役なんて言ったら、アルドール様の放課後の居場所がバレてしまうし……
「いいえ。妹のリーズはご一緒させていただくことも多いようですが」
「そうなんだ。でも、昨日アルドールは、君を助けたよね。リーズ嬢とは喧嘩していたような」
「喧嘩するほど仲が良いという言葉もございますので」
必死で思いついたことを言ってみた。
誤魔化せた……かしら?
「ふうん、そうか」
それっきり、レオン王子様は何も仰らなかったけれど、じい~っとこちらを見てこられて。
た、食べた気がしません……
でも、それではなんだか悔しいので、なるべく味覚だけに意識を集中させて、なんとか食べ終えた。
「フェリス嬢の食べっぷりは、見ていて気持ちがいいな」
「あ、すみません。ぱくぱくと勢いよく口に入れてしまって」
「いや、寧ろほっとする」
「優しいお言葉、ありがとうございます」
ふはっと吹き出されたレオン王子が、
「明日も一緒に食べよう」
と仰って、去っていかれたの。
えっ!
どういうことかしら?
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