未来の魔王は図書館の片隅で愛を育む

涼月

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第5話 落とし穴

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 今日の昼食は緊張して疲れたわ……

 そんな事を思いながら学園の廊下を歩いていたら、何故か迷ってしまったの。

 おかしいわ。一本道のはずなのに。
 いつもなら学生がいっぱいなのに、気づけば人通りのない来たことのない廊下の突き当たり。

 慌てて引き返そうとしたら、いきなり足元にぽっかり穴が開いてしまったの。

 いやぁ~~~

 足掻いてもどうしようも無くて、私は落とし穴にすっぽりと落ち込んでしまった。

 どうしよう。

 周りの壁はツルツルで登れないし、微妙な広さで突っ張って登るのも無理。
 ここが一体どこなのかもわからないし、このまま誰も通らなかったら……
 
 その時、甲高い女性の笑い声が聞こえた。
 良かった! 助けてもらおうと思ったら。

「こんなに簡単にいくなんて」

 ひょいと覗き込んできたのは浅黒い肌に赤い瞳の美女。

 あ、アルドール様の妹君、サーヤ姫だわ。

「ねぇ、さっき学食で私の愛しの君と一緒にお食事していたでしょ」

 サーヤ姫の愛しの君と食事!?
 ああ、もしかして、レオン王子のことかしら?

 このソフィア学園は人族と魔族のお見合いの場。当然政治的な思惑が絡み合っていて、魔族の姫であるサーヤ姫は、人族のレオン王子との結婚を周囲から期待されている。

 それなのに、私がレオン王子と親しくしているように見えたから怒っていらっしゃるのね。

 はあ~、どうしたら誤解を解けるのかしら。レオン王子は明日も一緒にと仰ったから、ますます誤解を深めてしまいそう。
 
「今日はたまたまご一緒しただけです。レオン王子様が学園生活について、特に困っていることが無いかとヒアリングしてくださっていただけです」

「ヒアリング!?」

「はい」

「それでも……愛しの君と隣同士に座れるなんて、羨ましすぎるわ」

 ああ、サーヤ姫はそんなにレオン王子がお好きだったのね。

「あの、決して私は」
「悔しいっ」

 美しい顔が歪んで、あれ!?
 水が降ってきた。
 泣いていらっしゃるのかしら。

「自力では出られないのね。当然よね。周囲の壁には無効化魔法も付与してあるから」

 無効化魔法なんか無くても、私は出られないわ。

「お願いです。助けていただけないでしょうか」
「幸運を祈るのね」

 そう言い捨てると、サーヤ姫は靴音高く行ってしまった。

 困ったわ。このまま誰にも見つけてもらえなかったら……最後の晩餐がシーフードスパゲティ。
 美味しかったけど、ちょっと寂しい。

 足掻いて無駄に体力を消耗するのも良くないから、一先ず腰を下ろして足を抱えた。

 今更気づく痛み。
 落ちた時、左足首を挫いたみたい。

 誰かに気づいてもらうには、できるだけ声をあげてチャンスをつかむしかないよね。
 でも、大声をあげるのって、勇気がいる。
 
 時計を見ると、もう授業の時間だし。
 休み時間まで待つ?
 いや、静かな今こそ、声を上げるべき?

 決断できないまま、食後の睡魔が襲ってきた。

 周りの壁を見回すと、廊下と同じ文様。
 サーヤ姫の土魔法って凄い。
 廊下をこんな風に好きに変形できちゃうなんて。

 私が迷子になったのも、魔法披露大会の時と同じ迷路の仕組みなのかも。

『ここは魔窟だと思え!』

 突然、アルドール様の声が蘇ってきた。

 ああ、そうか!
 アルドール様が仰っていたのはこう言うことだったのね。
 みんな魔法が得意で、いろんな仕掛けを施せる。悪意を持って仕掛けたら、殺人だって簡単なんだわ……

 図書館に籠もって本読み放題。
 私の望みはそれだけなのにな。
 なんでこんなことになっちゃったんだろう。

 なんか悲しくなって、いつの間にか眠ってしまった。


「おいっ、息してるか?」

 あれ、アルドール様の声が聞こえる。
 居眠りしてたら見張り役失格だわ!

 さあっと肝が冷えて目が覚めて、周りを見回して思い出した。
 あ、私まだ落とし穴の中だ。

「おーい」

 あれ!?
 やっぱりアルドール様の声が聞こえる。
 慌てて見上げたらやっぱり。

 アルドール様が呆れたような顔で見下ろしていた。

「落とし穴にハマるのも大概だが、中で呑気に寝てるなんざ、どういう神経してんだ、お前は」
「ごめんなさい」
「はあっ、これだからぽやぽやした奴は」

 そう言ってため息一つ。

「今出してやるからそのまま座っていろ」
「あ、でも無効化魔法が施されているって」

 言い終わらないうちに、床がぐぐっと盛り上がって、あっという間に廊下が復元されてしまった。

 私は廊下に膝抱えて座ってる図に。

「凄いっ」
「フェリス、掴まれ」

 立ち上がる私を引っ張りあげてくれたの。

「すまない、サーヤが酷いことをして」

 あ、そうか。
 サーヤ姫から聞いたから、助けに来てくれたのね。

「いえ、大丈夫です。サーヤ姫とは、ちょっと誤解があっただけで」
「怪我は?」

 上から下まで順に見られて、今度はくるりと回されて。

「あっ、い」

 痛いと言う言葉を必死で飲み込んだけど遅かった。

「足か」

 躊躇なくしゃがんで、私の足に手をかけるアルドール様。
 えっ、それは流石に!?

 慌てて引っ込めようとして、ぐらり。

「危ないっ」

 ふわりと身体が宙に浮いた。

 あれ、これ二回目だわ。
 この間の魔法披露大会でも。

 私を軽々とお姫様抱っこされたアルドール様はそのまま沈んで、膝の上に座らせてくださった。

「healing!」

 挫いた捻挫を直ぐに治してくださったの。

「ありがとうございます」

「いや、礼には及ばぬ。元はと言えば妹のせいだからな」
「あ、でもお気遣い無くです。別に大したことには」
「いや、大事になる可能性も」
「でも、なっていませんから」
「!」

 心の底から驚いたようなアルドール様の表情。

 うふふ。やっぱり優しい方なのね。

「サーヤ姫に誤解を生むような事をしてしまったのも事実ですし」
「それだって、フェリスのせいではないだろう」

 ん!?

 もしかして、私がレオン王子と一緒にお昼を食べたもご存知なのかしら?
 見ていたってこと!?

「まったく、お前はどうしようもないお人好しだな」
「ごめんなさい」
「謝る必要は無い」

 ぷいっと顔を背けるとついっと手を差し出してくださったの。

「また迷うと面倒だからな。安全なところまで連れて行ってやる」

 躊躇していたら「早くしろ」と手を繋がれて。

 大きくて力強くて温かくて。

 なんか、とってもほっとしたの。
 

 
 

 
 
 
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