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しおりを挟む猫屋敷先輩に支えられながら、よたよたした足取りで、なんとか帰りのバスに乗ることができた。
いつの間にか空はどんより曇っていて、今が何時なのかもよく分からない。
猫屋敷先輩はいつも以上に無言で、今日はさらに言葉が少ない。
時折、何かに気を取られたように空を見上げては、眉間にしわを寄せる。
その姿を見るたび、不安がじわじわと押し寄せてくる。
バスを降りる頃には、少し意識がはっきりしてきた。
現場から距離が離れたせいか、心が落ち着いてきたような気がした。
駅から歩くのはちょっと厳しいかも、と思っていると、
猫屋敷先輩が誰かに電話をかけ、迎えを頼んでいたらしい。
そのあと、先輩は僕の顔をじっと見て、何も言わずに、僕の背中と肩にそっと手を置いた。
――そのとき、気がついた。
僕、震えてたんだ。
先輩の手から、じんわりと温かい“気”が伝わってくる。
肩の痛みが少しずつ和らいでいき、震えもおさまってきた。
大通りを過ぎたところで、女子高生のグループとぶつかりそうになったが、
猫屋敷先輩がさっと僕の腕を引いてフォローしてくれた。
なんだかんだで、やっぱり助けられてばかりだ。
駅に迎えに来てくれたのは、西山さんだった。
いつもならやかましいくらいに陽気なのに、今日は険しい顔のまま無言で車を出した。
てっきり猫屋敷先輩の家に向かうのかと思ったが、
車はまっすぐまんぷく寺へ向かっていた。
寺に着いた頃、待っていたかのように雨が降り出し、雷が空を裂いた。
寄島のおじいちゃんはすでに待機していたようで、
僕たちをすぐに離れのお堂へと案内した。
お堂の外も中も、端から端まで二重の結界が貼られていたらしく、
塩と清め水で隙間なく清められていた。
いつもと違って、全員が真剣な顔つきだった。
皆、汗をかきながら、黙々と真言を唱えている。
夜が更けてくると、だんだんとめまいや吐き気が出てきた。
意識がぼんやりとし、目の前の炎がゆらゆらと揺れるのを、ただ見つめるだけになる。
窓の外は、空が荒れ狂っていた。
落雷の音が轟き、まるで世界が割れるような感覚。
寄島さんの弟子らしき人たちも、お堂の前で護摩を焚いているのが見えた気がした。
そのとき――
お堂の窓から、ゆっくりと黒い煙が立ちのぼってきた。
視界の端に映るその煙は、まるで意志を持っているかのように、僕へまとわりついてくる。
意識をじわじわと削り取られていく感覚。
頭が重く、足元がぐらつく。
そして、強烈な眠気。
目を閉じたら、深い闇に引きずり込まれる気がして、無理に目を見開いた。
その中から、かすかに女の子のすすり泣く声が聞こえた。
水の音も。
……まるで、水の中に沈んでいるようだ。
水が冷たく、息ができない。
必死に水面へ手を伸ばすけれど、黒く粘つく水が体を絡め取って、上がれない。
体の芯から冷えていき、震えが止まらない。
そのとき――
暗闇の中で、赤いマニキュアの白い手が僕の足首を掴んだ。
そして、ぐいっと、暗闇の中へ引きずり込もうとする。
もがいてももがいても、抜け出せない。
目を開けると、現実の世界にも黒い煙が這い寄ってきていた。
「……ああ……もう、楽になりたい」
苦しみから解放されたいという衝動が、頭を支配し始める。
このまま身を委ねてしまえば、楽になるかもしれない。
……でも。
片方の目には暗闇が、
もう片方の目には――
お堂の中、寄島さん、西山さん、猫屋敷先輩、吉田くん、そしてクロの姿が映っていた。
目を閉じれば闇。
目を開ければ光。
遠くから、確かに聞こえた。
――諦めるな。手を伸ばせ。
そんな声に、僕は最後の力で、手を伸ばした。
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