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初出勤
しおりを挟む「もしかして、ここがその仕事場……?」
翌日、来羅は目の前にそびえたつ超高層オフィスビルを見上げていた。
全面ガラス張りの建物で、華美過ぎず、品のいい雰囲気がひしひしと伝わってくる。
「場違いな所に来た気分だわ」
来羅はそう呟き、ビルの中に入っていく。
先ず向かったのは、建物のエントランス(案内所)である。
「すみません。本日をもちまして、ここの会社の社長秘書として働く桐生来羅というものなのですが……」
“社長秘書”という言葉を言った瞬間、目の前の案内嬢に睨まれる。
──あれ? 私、この子に何かした?
「社長のファンの方でしたら、お引き取りください。社長は忙しいんです」
案内嬢から放たれる言葉に、来羅の眉間に皺が寄る。
──この女、何を言っているのかしら? 私があの社長のファンですって? 冗談も大概にしなさいよ。
「すみません。昨日、私は御社の社長に雇われた者なんです。一度社長にご確認いただいてもよろしいでしょうか?」
今にも噴火してしまいそうな頭を必死に落ち着かせ、来羅は大人の対応をとる。
「ときどき、そう言って社長に媚びを売る人がいるんですよね。ハッキリ言って迷惑なんですけど」
迷惑そうに言う案内嬢には申し訳ないが、来羅の方が大迷惑である。
もう頭にきたから帰ってやろうかと真剣に検討し始めたとき、後方から声をかけられる。
「あれ? 君って、昨日面接を受けた子だよね? こんな所で何しているの?」
振り返ると、そこには昨日のチャラ男が立っていた。
「……中に通してもらえそうにないので、帰ろうかと思ってました」
「はあ? 何それ?」
来羅の発言に、チャラ男は片眉を上げた。
「この方が、私を中に通してくれないので」
来羅はそう言って先ほどの案内嬢を指差す。「人を指差してはいけません」とよく言われるが、そんなことがどうでもよくなるぐらい、来羅は頭にきていた。
「へぇ、それって本当?」
「え、あ…だってこの人が……」
チャラ男の責め口調に案内嬢の顔が真っ青になる。
──ふん、ざまぁみろ。
「彼女はね、社長自らが選んだ秘書だよ? もしこれで彼女が帰ってしまったとしら、君はどう責任取るつもりだったの?」
──そうだそうだ。上に確認もしないので、社長のファンだと思われるこっちの身になりなさい。正直言って屈辱です! 私は仕事をしに来ているんです。
「す、すみません!!」
「まあ、いいよ。今回は許してあげる。次はないから」
チャラ男がふっと眉間の皺をなくすと、受付嬢の顔色が少し回復する。
「は、はい。ありがとうございます。本当にすみませんでした!!」
先ほどの態度とはうって変わって、案内嬢は来羅に深々と頭を下げて謝った。
「いえ、大丈夫です(頭にはきたけど……)」
「それじゃあ、社長の所に行こうか? 中々君が来てくれないから、社長がイライラしてたんだよ。おかげで僕が君のお迎えに来たってわけ」
「そうですか、ありがとうございます」
チャラ男の手に引かれ、来羅はエレベーターに乗り込んだ。
「……すみません。手、離してくれませんか?」
「あ、ごめん。痛かった?」
チャラ男は慌てて、来羅から手を離した。
「いえ、歩きにくかっただけです。あ、でも少し痛かったかも」
「……君ってかなり正直者だよね?」
「…ダメですか?」
来羅は不思議そうに首を傾げ、チャラ男に尋ねた。
「いや、いいことだと思うよ。物事を正直に言う人って珍しいし、貴重だから」
「そう、ですか……。ちなみにこのエレベーターはどこに向かっているんですか?」
「最上階に向かう一歩手前まで」
来羅達を乗せたエレベーターは、どんどん上へ上へと上がっていく。
「……一歩手前ですか?」
「そう、システム上の問題でね。最上階に一般人は立ち入りできないようになっているんだよ」
「へえ、なるほど。ちなみに今日から私が働く場所はどこにあるんですか?」
「もちろん最上階~~♪」
チャラ男は笑みを浮かべてそう言った。
──社長秘書だから、普通はそうだよね……。
チャラ男の軽い雰囲気に思わず溜め息を吐きたくなりながらも、来羅はなんとか堪え忍ぶ。
「最上階の一歩手前にご到着~~。最上階に行くために、この魔法のカードが必要になるんだよ」
チャラ男はそう言って、懐からゴールドのカードを取り出した。
──うわ、なんか趣味悪。
「あ、今趣味悪いって思ったでしょう?」
「……いえ」
「今の間は何かな? まあ、いいけど……」
チャラ男はカードキーを差し込み、最上階のボタンを押した。扉は閉じられ、エレベーターは最上階を目指す。
「ここが今日から君の仕事場になる所だよ。あ、ちなみに俺の名は柊隼人。これからちょくちょくお世話になるかも」
「分かりました。社長室はこの通りを真っ直ぐ行ったところですか?」
「そう、じゃあ頑張ってね」
チャラ男──隼人はそう言って、再びエレベーターに乗り込んでいった。
「…あの人、少し苦手かも……」
来羅はそう呟き、廊下を真っ直ぐと進んだ。
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不定期更新です参ります!
応援ありがとうございます!
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