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★閑話10:マリルス商会
しおりを挟むある日、ファルゼン国に一つの商会が誕生した。
その商会の名は、マリルス商会。
新星のごとく現れ、次々と画期的な発明品を世に送り出し、後に王都一の商会となる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あなたっ、何しているのよっ!!」
この世界では珍しい艶やかな黒髪を揺らし、物凄い形相で一人の少年に詰め寄る少女。
「す、すまんマリ。彼女達が俺に話があると……」
「バッカじゃないのっ!? なに、ヘコヘコと娼婦なんかについて行こうとしているのよ!! 私という妻がおりながらっ!!」
「し、しかし、お話したいことがあると……」
少年は事情が話そうとするが、少女の眉間は深くなる一方である。
「言い訳なんて聞きたくありませんっ!!」
「ッ……」
少女は、少年の左頬にビンタをお見舞いした。少年は叩かれた左頬を押さえ、目をパチクリとする。
「これだから元王子はダメなのよっ! 先ず人を疑うことを知りなさい!! 商売はお互いの腹の内を探り合うのよ。今のハルスでは、身包みを全て剥がれて、ポイッよポイッ!! 分かるっ??」
バカ王子(ハルス)を怒鳴り散らす華麗な美少女こと麻里は、最近ファンゼル国の王都を中心に設立されたマリルス商会の代表取締役だ。
悠理には及ばないものの、頭脳明晰であった麻里は、父親が大企業の社長ということもあり、幼い頃から英才教育を受けていた。
その甲斐もあって、厳しい世界で生き残ってきた強者達をバッタバッタとねじ伏せ、無事にマリルス商会の代表取締役の座につくことができた。
「取締役殿、少々問題が起きましたっ!!」
夫を説教してる麻里の下に、若い少年が駆け寄ってくる。
「何かしら?」
「……彼女達が商売の邪魔をされた、と」
少年がドヤ顔でこちらを見てる娼婦達に視線を送る。
「へぇ……、叩き潰してやる」
女性の声とは思えない低い声で呟く麻里。そんな麻里に、ハルスの顔色は悪くなる一方である。
「ベンっ、マリを止めろんだっ!!」
「ハルス様、何をおっしゃいますか?? 戦いの女神のように気高く、美しいマリ様を止めるなど、恐れ多くもできません」
熱に魘されたような顔で呟く少年ベン。
現在マリルス商会で働く殆どの者が、麻里を影で『女王様』と呼び、崇めている。
「な、何を抜かしたことをっ……」
恋する乙女のようにうっとり麻里を眺める少年に、ドン引きするハルス。
そんなことなどお構いなしの麻里は、娼婦達にズンズンと近寄っていく。
「あら、すみません。私の夫があなた達の邪魔をしてしまったようで?」
「ふふ、いいのよ? あなたのような小娘では、彼を満足させてることはできないんですもの」
明らかに麻里をバカにしてくる娼婦達。
こういう職業のいる人達を馬鹿にするつもりなど、麻里にはない。
女の武器を使って、お金を稼いで何が悪い?
そんなのふしだらだ? そうすることでしか、稼げない女もいる。
そのことを分かっている麻里は、娼婦達を蔑んだりなどしない。
が、ここまで馬鹿にされてそう簡単に引き下がる麻里ではない。
麻里にも女としての誇りがあるのだ。
「ふふ、そうですわね。最近商会のことで頭がいっぱいで、愛する夫を蔑ろにしていたようですわ。ご忠告、ありがとうございます。ハルス、少し来てくれる?」
麻里はそう言って、ハルスを呼んだ。
「話し合いは終わっッ!?」
近寄ってきたハルスの腕を、麻里は自分の腕にスルリと絡めた。
「ハルス、約束してる?」
麻里は上目遣いで、ハルスを問いかける。
「な、なんだ??」
不意打ちを食らったハルスの頬が紅く染まる。
「私、これからもっと商会のことで忙しくなると思うの。それでもハルスは、私に愛想を尽かさないでくれる? 私、ハルスに捨てられたら……」
麻里の目元にジワっと涙が浮かぶ。
「っ!? 俺は麻里を一生大事にする。麻里は俺のお姫様だろ? だから、泣くなっ!!」
街中に響き渡るハルスの声。
「ありがとう、ハルス。私もハルスのことが大好きよ」
麻里はそう言ってハルスの頬にキスをする。
「……ということなので、夫は私にメロメロなので手を出さないでくださいね?」
口元に笑みを浮かべながら、ドヤ顔で娼婦達にいう麻里。
「っ!? 誰がこんなガキにっ!!」
娼婦達は悔しそうに顔を歪め、その場を立ち去った。
「ふん、私に勝とうなど甘いのよ。私を誰だと思ってるのかしら。耳の穴をかっぽじって聞きなさいっ!! 私は姫川麻里よっ!! この名をよく覚えておきなさいっ!!」
走り去っていく娼婦達に、声高々に言い放つ麻里。
「麻里様、素晴らしいですっ!! 一生ついていきますっ」
「「「よっ、我らの女王様!!」」」
号泣しながら麻里を褒め称えるベンとマリルス商会の従業員達。
「マリ、惚れ直したぜっ!!」
麻里を力強く抱きしめるハルス。
カオスだ。
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