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第4章:人の痛み
28話
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「夫「母さんが刺したことになっているんだから……あとで私の指紋は拭いて、自分の指紋をちゃんとつけといて」
血まみれになりながらナイフを構えて威嚇する真由美を見ても、両親はともに何も言えずに黙りこくるのみで、真由美が妹を迎えに子供部屋に入り込む様子を目で追うことしか出来なかった。
「あーあ……お前のせいで何もかも台無しじゃねえか」
真由美の吹っ切れたような態度を見て裕也は母親にそう吐き捨てる。それにしても出血がひどい。いくら太い血管は避けていたとしても、やはり大量の血液が循環する場所だ、長く放っておくのはまずいだろう。救急車はいつ来るのだろうか。
「お姉ちゃん? 大丈夫なの?」
子供部屋の電気をつけると、不安げな顔で妹が顔を出す。
「ひっ……!?」
一番最初に目に飛び込んできたのが血まみれの姉の姿で、由香利は背筋をこわばらせていた。
「ねえ……由香利! お姉ちゃんと一緒に家を出よう! 突然で悪いし、学校も遠くなっちゃうけれど……でも……なんなら、学校に行かなくてもいいからさ。逃げよ……小学校の勉強なんてどうにでもなるから。もう母さんはダメ……私があなたを守るから」
真由美は泣きそうな顔で妹に訴えた。真由美は瓶で殴られた場所が痣になっており、父親を刺した左手は血塗れなその状況にむしろ怯えて不安げな由香利だが、それに気づいた真由美は、心配するなと無理して笑みを作る。
「あのね、これは……殴られたのはもう大丈夫。この血も、父さんのことを刺しちゃったからで……大丈夫じゃないけれど、もう父さんは満足に歩くこともできないから怖くないよ。だから、今のうちに逃げよう? そうすればもう殴られないから……」
「刺したって?」
「あはは……ちょっと、ナイフで……父さんの脚を刺っちゃった。でも、大丈夫。あの程度じゃ死なないし……そのおかげで、もう私に手出しできないし。ね? 一緒に、逃げよ……ちょっと、手を洗ってくる……ナイフも」
今の自分の状況のまずさに気付いた真由美はそう言って子供部屋から出て、手を洗いに行く。血を洗い落とした真由美は、ベッドから下りてきた由香利を優しく抱きしめた。その間、裕也は部屋の外で救急車を呼んでいる母親のことを、何かやらかしやしないだろうかと監視していた。もちろん、母親はただ優柔不断なだけだし、父親は刺されて激痛に呻いており、痛みと出血のせいで意識も朦朧としている。見張っていなくとも、もはやこいつらが何かをできるはずもないのだが。
真由美がまだ濡れている手で由香利を抱きしめる。由香利は腕の中で不安げにおびえた表情をしていた。父親の悲鳴を何度も聞かされた後だけに、すぐに落ち着くのは無理であったが、真由美が辛抱強く抱きしめていると、由香利は真由美の胸にしがみつくように抱き返す。今まで母親が止めることが出来なかった父親の暴力を止められたのは真由美だけ。
由香利は、この家で一番頼りになるのは母親ではなく真由美だと理解し、彼女に命を預けることを決めたのであった。
血まみれになりながらナイフを構えて威嚇する真由美を見ても、両親はともに何も言えずに黙りこくるのみで、真由美が妹を迎えに子供部屋に入り込む様子を目で追うことしか出来なかった。
「あーあ……お前のせいで何もかも台無しじゃねえか」
真由美の吹っ切れたような態度を見て裕也は母親にそう吐き捨てる。それにしても出血がひどい。いくら太い血管は避けていたとしても、やはり大量の血液が循環する場所だ、長く放っておくのはまずいだろう。救急車はいつ来るのだろうか。
「お姉ちゃん? 大丈夫なの?」
子供部屋の電気をつけると、不安げな顔で妹が顔を出す。
「ひっ……!?」
一番最初に目に飛び込んできたのが血まみれの姉の姿で、由香利は背筋をこわばらせていた。
「ねえ……由香利! お姉ちゃんと一緒に家を出よう! 突然で悪いし、学校も遠くなっちゃうけれど……でも……なんなら、学校に行かなくてもいいからさ。逃げよ……小学校の勉強なんてどうにでもなるから。もう母さんはダメ……私があなたを守るから」
真由美は泣きそうな顔で妹に訴えた。真由美は瓶で殴られた場所が痣になっており、父親を刺した左手は血塗れなその状況にむしろ怯えて不安げな由香利だが、それに気づいた真由美は、心配するなと無理して笑みを作る。
「あのね、これは……殴られたのはもう大丈夫。この血も、父さんのことを刺しちゃったからで……大丈夫じゃないけれど、もう父さんは満足に歩くこともできないから怖くないよ。だから、今のうちに逃げよう? そうすればもう殴られないから……」
「刺したって?」
「あはは……ちょっと、ナイフで……父さんの脚を刺っちゃった。でも、大丈夫。あの程度じゃ死なないし……そのおかげで、もう私に手出しできないし。ね? 一緒に、逃げよ……ちょっと、手を洗ってくる……ナイフも」
今の自分の状況のまずさに気付いた真由美はそう言って子供部屋から出て、手を洗いに行く。血を洗い落とした真由美は、ベッドから下りてきた由香利を優しく抱きしめた。その間、裕也は部屋の外で救急車を呼んでいる母親のことを、何かやらかしやしないだろうかと監視していた。もちろん、母親はただ優柔不断なだけだし、父親は刺されて激痛に呻いており、痛みと出血のせいで意識も朦朧としている。見張っていなくとも、もはやこいつらが何かをできるはずもないのだが。
真由美がまだ濡れている手で由香利を抱きしめる。由香利は腕の中で不安げにおびえた表情をしていた。父親の悲鳴を何度も聞かされた後だけに、すぐに落ち着くのは無理であったが、真由美が辛抱強く抱きしめていると、由香利は真由美の胸にしがみつくように抱き返す。今まで母親が止めることが出来なかった父親の暴力を止められたのは真由美だけ。
由香利は、この家で一番頼りになるのは母親ではなく真由美だと理解し、彼女に命を預けることを決めたのであった。
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