BAR・ターミナル~ケモノ達の交わる場所~

Ring_chatot

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7.5話:先日、ホテルで、女同士で

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 七草粥も食べ終え、新年のバタバタも落ち着いたころのこと、リコとマリサは二人で遊びに出かける。それ自体は年頃の女友達同士、そう珍しいことではないのだけれど、遊びに出かけるというのはおまけ程度の目的だ。リコは一日、ドキドキしっぱなしであった。
マリサ「ねえリコ……今日楽しめてる?」
 植野で動物園に行き、安芸葉原では脱出ゲームを楽しみ、マリサは満喫しているのだが、リコは何だか集中できていない様子。動物園の時はあまり気にならなかったが、脱出ゲームの時は明らかに集中力が足りずに、謎解きはほとんどマリサの独壇場であった。
 今はスイーツを食べるために、安芸葉原駅前のカフェを目指して移動中だ。
リコ「ご、ごめん……正直楽しめていない……」
 ホリデーナイトパーティーの後、リコは勇気を出してマリサを自分の部屋に誘った。その日は、壁の薄い社員寮であったり、家でマイを待たせていることもあり、マリサは何もせずに帰っていったが、今日は続きをホテルでやると明言されたうえで遊びに誘われたのだ。
 前日はまともに眠れなかったことはもちろん、仕事中もいつものような調子が出なかった。男にすら捧げたこともない純潔をマリサに捧げる。恥ずかしいやら楽しみやら、色んな感情がぐちゃぐちゃになってまともな思考が阻まれてしまう。
 今だって、ただ歩いているだけなのに頭の中は沸騰しそうだし、心臓は普段よりずっと脈打っている。
マリサ「まったく、こうなるのがわかっていたから、デートなんてせずに、朝一でいきなりホテルに向かっちゃおうって言ったのに」
リコ「心の準備というものがですね……」
マリサ「必要ないよ。やってできないことじゃあないんだから。まぁ、男だと? 緊張してると勃たないとか、そういうこともあるみたいだけれど……でも、女の子なら最悪寝てれば何とかなると思うから。ふふ、私が可愛がってあげる」
リコ「あー……それがちょっと怖いんだよね」
マリサ「味わいはするけれど、食べたりはしないよー?」
 マリサはそう言ってリコの手を掴み、口をぐわっと開く。通行人がひっきりなしに行き交う場所なので、ふざけあっているその様子を誰に見られるかもわからない。幸い騒がしいので、会話の内容を聞かれることはなさそうだとは言え、話している内容も恥ずかしい。
 それを明け透けに話せるマリサの心臓はどうなっているんだと、リコは彼女の肝っ玉が恨めしい。
マリサ「大体さ、何をそんなに恥ずかしがるの。失敗したら死ぬわけでも、大金を失うわけでもあるまいに。っていうか、失敗って何? って話だし。怪我させたりトラウマを残したら失敗かもしれないけれど、それはたぶん大丈夫だから、どーんと構えてなさいな、リコちゃん」
リコ「かなわないなぁ、もう」
 強引に腕を組まれ、リコは耳を赤くさせながら下を向く。思えば、初めましてが強制入店だったように、大事な時はマリサに主導権を握られてしまう。こんなこと、肉食とか草食とか関係ないのに。身長も体重も自分の方が圧倒的に上なのに。でも、勝てない。
 接客歴23年という年月は伊達じゃないというわけだ。そうして、腕を組まれたまま連れていかれたスイーツ店。予約を入れていたのでスムーズに入店し、色とりどりのフルーツで飾られたふわふわのパンケーキを、面と向かい合いながら食べていく。
 複雑なフルーツの香りと甘味に舌鼓を打ちながら、BARでそうするようにマリサとリコは他愛もないことを話し合うのだが、やっぱりリコはどこか集中力が足りない様子。
マリサ「そういえば、さっき動物園に行ったとき、リコちゃん鹿の事じっと見てたじゃん? 鹿人にとってはなんか来るものがあったりするの?」
リコ「え、えー……まぁ、あるといえばあるけれど、その、角とか……」
マリサ「角ねぇ。まぁ、男にしかない部分だもんね、トナカイとかなら別だけれど。まぁ、正真正銘男にしかない部分は、よっぽどのローアングルにならないと見えないもんね」
リコ「そ、そ、そんな、そんな意地汚いことをしてまで見るものじゃないってば。一応、私だってこっそりアダルトビデオくらい見ているんだからね? 大体、鹿に見とれるほど特殊性癖じゃあないって、鹿よりも鹿人の方がいいし! もちろん、なるべくイケメンが」
マリサ「……それはどうなのかな? いや、確かに狼人が狼に欲情するのも特殊性癖かもしれないけれどさ。女同士で、しかも狼人と……ってなるのもだいぶ特殊性癖な気もするけれど?」
リコ「それはそう……でも、ある日目覚めたわけじゃなく、その……マリサに徐々に扉を開かれたような気がするよ。だって、イケメンや美人はどんな種でもやっぱりイケメンで美女なんだよね……ハシルさんとか、マリサとか。そんな美人に迫られたら、ねぇ……歪められちゃうよ」
マリサ「あら、美人だなんて嬉しい。で、リコは美人はお好き?」
リコ「好き、だけれど……でも、あの、エッチする対象だとは思えなかった。だから、今日はそういう対象で見られるかどうか……見れるように、頑張る、けれど」
マリサ「新しい扉を開くのは、そんなに難しいことじゃあないよ? やってみれば案外楽しいもんだし……そうだねぇ、何事にも楽しもうっていう気概が一番大事」
リコ「思えば私は、マリサちゃんが新しい扉を開くことで出会って……そして、またもや新しい扉を開かれちゃうのか……」
マリサ「物理でも性癖でも、扉を開いちゃったかぁ。じゃあ逆に、今度は私がリコちゃんに何か新しい扉を開いてもらおうかなぁ? 何かいい扉、ある?」
 マリサはリコの事をじっとりと見つめながらにやにやと問いかける。
リコ「家でサンドバッグを叩くとか」
マリサ「それ……? 確かにリコちゃんの家にはサンドバッグがあったね……ストレス解消と運動のためって聞いたけれど、何がきっかけであんなの購入したの?」
リコ「いやぁ……高校の時はバイトで飲食店で働いていたけれど、クソみたいな客が多いときは、割とぶん殴りたくて仕方がなかったから。ターミナルはいいよね、クソみたいな客がいないじゃない? 私が働いていたのはチェーン店だから、クソみたいな客が来ても追い払うわけにいかないし」
マリサ「ウチはお客様同士で会話するのがメインのお店だからね。しかも、常連同士の結びつきも強いから、自分勝手なことをしてたら、自分勝手な客自身が居心地悪くなるだろうし……何ならお父さんが出禁にした客もそれなりにいるらしいよ? 今も昔も子供が店内をうろついていたからね、子供の教育に悪い奴は出禁になるの」
リコ「可愛い子供がね……歩いてたり、勉強してたりするからね」
 昔はマリサとハルトが。今はマイちゃんがBARの中をうろついている。酒を飲む場所だというのに不思議な話である。
マリサ「ふふ、可愛いだなんてありがと。だからね、子供を嫌うような器の小さい客は来ないのよ。だからかな、クソ客がいないの」
リコ「私もターミナルで働いていたらサンドバッグも必要なかったかも。でも、サンドバッグを知っちゃった今、もう戻れないなぁ……もうストレスとか関係なく毎日叩いてる」
マリサ「……そういわれると、サンドバッグという扉を開いてみたくなったかも。リコちゃんがそんなに楽しいって言うんなら、ちょっと面白そう」
リコ「叩いてみる? 楽しいよ?」
 最初こそ下のお話で、緊張が勝っていたリコだが、話題が移り変わると少しずつ緊張もほぐれておいしく料理に向き合う事が出来そうだ。パンケーキをほおばる表情にさっきまでの固さはない。
マリサ「美味しい?」
リコ「うん、たまにはスイーツも悪くないね」
マリサ「そう、リコちゃんも美味しくなるかな」
リコ「太らせてから食べるのはやめてくれない!?」
 ずらりと並んだ牙を見せつけるようにしてマリサは笑う。リコも怒っているわけではなく、笑いながら抗議している。結局、変に気負ったりせず、いつも通りに過ごすのが一番楽しいのである。
 そうして、スイーツを食べ終えて、時刻は15時。今日残されたイベントは、マリサとホテルに行くことだ。ボリュームのあるスイーツで上がった血糖値を下げるため二人は植野まで徒歩で移動すること30分。せっかく心の準備をしたつもりなのに、結局こうして歩いている間に心拍数は信じられないほどに増えている。
 そして、植野のホテルにて、マスクとサングラス着用でたどり着いた時には、心拍数が上がりすぎて逆に脚が震える始末であった。
マリサ「心の準備、出来た?」
リコ「出来てたつもりだけれど、台無しになった」
マリサ「それは残念。でも、私がリードしてあげるから……あなたはまな板の上の鯉になってれば大丈夫。美味しく味わってあげる」
リコ「……優しくしてね」
マリサ「ケガはさせないように頑張るよ」
 そう言って、マリサはリコの腕をがっちりとホールドして離さない。もう逃げ場はない。マリサは発行されたカードキーを手に、タッチパネルで選んだ部屋へ向かって、リコを存分に味わえると舌なめずりをする。
 ホテルに入るところを見ていた通行人。女同士、しかも肉食と草食という組み合わせでホテルに入っていく二人を見て、自分はどんなふうに映っていただろうか? そしてこれから自分はどんなことをされるのだろうか? そんなことが気になって、いよいよ頭も心臓も沸騰しそうなリコであった。


https://www.alphapolis.co.jp/novel/999289720/606980788/episode/9946035
(こちらにR-18の続きがあります)
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