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~カノンの生活編~

~カノン誘拐事件(前編)~

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アイリス達とのお茶会から数日後。
砂糖とチョコレートの販売に関する書類が完成し、父のオリヴァーに確認を取ったところ問題ないと言われたので、あとはアザレアの市長であるハンプスに確認を取り、ハンコをもらうだけだ。
そうして出かける準備が整ったカノンは必要なものを持ち護衛を付けてアザレアへと向かう。
今日は正式な話を持ち込むためいつもの軽装ではなくフリルがいくつもついた令嬢らしい淡いピンク色のドレスを身にまとっている。

アザレアに着いたカノンは護衛に一度帰ってもらいまた夕方来るように伝え、ハンプスのもとを訪ねた。

最近は侯爵家や王宮と北の農園地やアザレアの街の復興に関する報告等をしている為農園の視察や書類作成で忙しい様子のハンプス。
ちょうど書類に目を通していたハンプスにカノンは声を掛ける。
「ごきげんようハンプスさん、お忙しい中失礼しますわ。お砂糖とチョコレートの販売に関する書類が出来ましたので確認したのちにハンコを頂けないでしょうか。」
「こんにちは、カノン様。職がない時に比べたらこのような忙しさは大変嬉しい限りです。侯爵家の方々や街の皆のおかげで少しずつですが『街』として機能し始めております。お持ち頂いた書類の方もすぐに確認させて頂きます。」
カノンから書類を受け取ったハンプスはすぐに目を通し始めた。
「申し分ないです。このような価格で設定していただきありがとうございます。益々街の皆に活気が戻る事でしょう。」
「今はまだお砂糖とチョコレートの需要と供給が割に合っていないのでこの価格ですが、安定した頃また価格の見直しを考えています。」
「はい、十分でございます。何から何まで本当にありがとうございます。」
ハンプスが書類の確認を終わり街の控え用と侯爵家の控え用にハンコを押した。

これから本格的に貴族優先で砂糖とチョコレートの販売をしていく事をハンプスと打ち合わせをする。
この打ち合わせの後にアザレアの人達何人かを集めお菓子指導の予定をたてている。
アザレアの大通りであるマラカイト通りにお菓子のお店を開くためだ。
「今日の打ち合わせはここまでにしましょう。大方決まりましたので侯爵家の方から各貴族へ通達を出しておきますわ。貴族の方々からきた予約の対応はお任せいたします。何か困った事や相談事がありましたら遠慮なく仰ってくださいね。」
「お疲れ様でございました。通達の方、よろしくお願い致します。対応の方等もお任せくださいませ。お気遣い頂きありがとうございます。」

「それからハンプスさん、お仕事とは関係ないのですが、新居やここの役場はどうですか?不便はないですか?」
「家も職場も快適でございますよ。これ以上贅沢を言うのは罰が当たるくらいの快適さでございます。カノン様は当初から本当に我々を気遣ってくださる。ですから我々も頑張って前を向いていけるのです。」
「不便がなくて何よりです。わたくしも頑張りますわね。」
復興の一環でハンプスの家も建て替えが終わり建築家のウッドの提案で役場も作ったのだ。
カノンの父であるオリヴァーの伝手で街の人達に文字の読み書きや計算ができるように指導をしてこの役場ですでに雇用が始まっている。今はまだ数十人と少ないがこれからも雇用人数を増やしていくつもりだ。
今は学校の建設も始まっており大人から子どもまで通えるようにしていく予定をたてている。

ハンプスと世間話を交えながら笑い合っていると、お菓子の指導の時間が来たのでハンプスに挨拶し場所を移すカノン。

――マラカイト通り。
お菓子のお店として予定している店舗に雇用希望者が数人集まりカノンがお菓子の指導を始める。
売り物にする簡単なお菓子を6種類ほど教え、お菓子の飾りつけやラッピング方法も教えた。

少しずつ、だが確実に街全体が機能していくように皆が各々動き始めている。

そうして指導していたらいつの間にか日が落ち始めており護衛達との待ち合わせ時間を過ぎてしまっている。
指導をキリの良いところで終え皆に挨拶し別れたカノンは、急いで護衛と待ち合わせしている場所まで行く。
来ているはずの護衛が見当たらないので少し待ったがいっこうに来る気配がない。
護衛はまだ来ておらず侯爵家に向かう道を歩いていれば合流できるだろうと思い、待ち合わせ場所から離れ歩き出すカノン。

その判断が間違っていた。

護衛はすでに来ていたが、カノンの姿が見えないので街の人達に聞き込みをして役場やマラカイト通りに行っており、待ち合わせ場所まで戻ってきたが入れ違いになった。


合流を考え歩いていたカノンだが、いつのまにか今後のアザレアの事を考えながら歩いていた為、気づかぬうちにアザレアの街境界まで来ていた。
ここは人通りが少ない。影の者からしたら格好の場だ。

ずっとカノンが一人になるのを狙っていた何者かが物陰から飛び出し、背後から強めの薬を含ませた布を鼻と口に当てられ眠らされたのち闇の中へ連れ去られた。
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