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最後の異世界生活~カノン編~

~きっかけで、憧れで~

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原さんの言葉を聞いたカノンは、見せないようにしていたはずの気持ちを言われ、困ったような笑顔を浮かべ、涙をこぼしている原さんにハンカチを差し出した。
原さんは、カノンからハンカチを受け取り、涙をぬぐった。

峰岸君は俯き、少し考え、顔を上げ空を見ながら、遠い記憶を思い出すように、ポツリポツリと話し出した。

「……原さんの…言う通りかもしれない…。
僕は…一年生の時に美桜ちゃんの事を知って、二年生の時に同じクラスになって嬉しくて…でも、全然接点がなくて、どう話していいかもわからなくて…。

容姿の事もあって…少しだけ人見知りなとこもあって…いつも何かとおどおどして…。

そんな僕が、二年生の時のバレンタインで片思いしてた子に告白出来て、お互いの気持ちが通じて、付き合う事が出来て…。

やっと近くにいられると思っていたのに、近くにいられた時間はあっという間で…。

話しを聞いていたとはいえ、姿や声は美桜ちゃんなのに、性格も、考え方も、口調も…違う人物で…入れ替わってるから当たり前だけど、ずっと好きだった子が、急に知らない誰かに入れ替わっているのは…とても…とても寂しい事だよ。

美桜ちゃんの面影を探そうとしてる自分がいて、それは自分でも嫌悪感を抱いて…。
どう接したらいいか悩んでいたら、この間の…特別授業の変身メイク…。

あの姿を見て、改めて別人だと実感して…そうしたら余計に接し方がわからなくなって…。
いつの間にか関わらないようにしてた…。」

峰岸君は、空を見上げていた顔をカノンに向け、その表情は、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

「ごめんね……少なからず…嫌な思い、させていた事…。

カノンさんは…美桜ちゃんとの恋のきっかけで…自分の性格を変えなきゃと思えるくらい憧れで…友達で……。

考えたら…カノンさんにも恋人がいて…その人もきっと僕と同じ思いを抱いていて、きっと、カノンさんもいろんな想い抱いて…半端な覚悟で入れ替わってないって…考えたら…わかる事なのに…

それなのに…僕は…ごめん…本当に…ごめん…。」

峰岸君はカノンに自分の気持ちを伝えていくうちに、気持ちが込み上げ、表情が歪み、次第に涙が溢れてきた。

峰岸君の言葉を聞いたカノンは、困った表情で慌ててハンカチとは別で持っていたポケットティッシュを峰岸君に差し出した。

「……わたくしも…壁を作っていました…それに…変身メイク…行き過ぎた行動でしたわ…申し訳ありません…。」

「…ううん…いいんだ…。あの、カノンさん…一つ、お願いがあるんだけど…。」

峰岸君は、カノンからポケットティッシュを受け取った峰岸君は、涙をぬぐいながら、カノンの目を見た。

「?…お願い?わたくしにできる事なら…。」

「僕の名前…下の名前で呼んでくれないかな?」

「……ですが…馴れ馴れしい事は…。」

「うん、カノンさんの気持ちは嬉しいけど…でも、原さんの言う通り、カノンさんは気を遣い過ぎなんだから、名前くらい遠慮はいらないよ。」

カノンは名前呼びの提案に躊躇ちゅうちょした様子を見せ、峰岸君は、涙が引いた顔に強気な表情を浮かべた。

「……わかりましたわ…。本当に、雰囲気変わりましたわね…。
以前の可愛いさがなくなり、強くてかっこいいですわ。」

「強くてかっこいい…は、憧れの人の…カノンさんのおかげだよ。」

峰岸君の言葉にカノンは驚いた表情を見せ、峰岸君は、誇らしげな笑顔を見せた。
カノンも峰岸君の笑顔に釣られて笑顔を見せた。

「ふふっ、やっと前の二人の雰囲気に戻った。よかった!!あ、カノンちゃんが峰岸君を下の名前で呼ぶなら、私も呼んでいい?!」

和やかな雰囲気に戻り、二人のやり取りを見守っていた原さんが安心したようにいつもの調子で二人の会話に混ざった。

「原さんはもう少し遠慮して。」

「え~…ケチィ!!」

原さんの調子いい言葉を峰岸君はピシッと制止し、峰岸君の言葉に原さんは口を尖らせ、そっぽを向いて少しだけ拗ねた表情を見せた。

「大好きな彼女と、憧れの女の子にしか名前を呼ばせたくないんでしょ、いーもん!ふーんだ!!わかってますよ~だ。」

原さんの拗ねた様子に、カノンと峰岸君はお互いに顔を見合わせ、笑いがこぼれた。

「二人とも笑い過ぎ!!」

「「ごめんなさい…でも、ありがとう(ございます)」」

二人はほぼ同時に、笑っていたのを少し抑え、原さんに向かって笑顔を向け、言葉を伝えた。

突然の二人からの言葉に拗ねていた原さんは動揺した様子を見せた。

「え、な、何…急に…お礼とか…、私、何もしてないよ。」

「いのりちゃんがいなければ、溝があったままで、雅君とこうしてお友達に戻れなかったですわ。ですから…ありがとうございます。」

「うん、カノンさんの言う通りだよ。ありがとう。」

「そ、そこまで言うなら…くるしゅうない。」

二人が改めてお礼を言った事で、原さんはさらに動揺し、恥ずかしくもなったが、開き直り、顔を赤くしながら仁王立ちに戻り、ドヤ顔を決めた。

「「だから、遠慮して(くださいまし)。」」

二人の言葉が冗談だと原さんには伝わり、さらに言葉が重なった事も相まって、吹き出し、仁王立ちしていたのをお腹を抱えて笑った。

その原さんの笑いに釣られたカノンや峰岸君も笑顔になった。
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