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日常
喫茶店
しおりを挟む翌日、松木と待ち合わせをしている喫茶店へ向かった。
今日も秋風が気持ちよくて空を見上げると空は高くて抜けるような青空が広がっていたけれど、わたしの心はこの空に似合わない憂鬱な気分になっている。
だって、オレンジ色のに提灯に松木は乗り気になっているしそれに小説はまったく進まず他のアイデアも書きたいことも見つけることが出来なかったのだから。
「あ~あ、嫌になるな」と呟きながらわたしは駅へと続く道を歩いた。
町田駅に着くと今日も多くの人で賑わっていた。わたしは、人にぶつかりそうになりながら歩いた。街を歩く人々はどこに向かっているのだろうかとふと思った。
幸せそうな顔をした人やどこか憂鬱そうな表情で歩いている人など様々だ。
わたしもきっと、その中で憂鬱そうな顔をした一人なんだろう。そんなことを考えながら歩き続けた。
わたしは赤い看板とコーヒーカップのイラストが目印のカフェの前に辿り着いた。
店内の扉を開けるとコーヒーの香ばしい香りがふわりと漂っている。
店員さんの「いらっしゃいませ~」と言う元気な挨拶に迎え入れられ奥の席に進むと、松木が片手を上げた。
わたしは、松木が座っているソファ席へと向かった。
「待ったぞ、亜沙美先生」
「でも時間ぴったりだよ」と答えわたしはソファに腰を下ろした。
「まあ、時間ぴったりだから許してやろう」
松木は直接会っても憎たらしい。そしてムダにイケメンなのだ。肌は雪のように透き通っていて目はぱっちりとしたアーモンドアイの二重まぶたで綺麗で顎はシュッとしているのだから。
ああ、黙っていれば格好いいのになと思いながら松木の顔をじっと見てしまった。
「おい、俺の顔に何か付いているのか?」
「ううん、別に……」
「ふ~ん、なんだか怪しげだけどまあいっか」
その時、店員さんがお冷やを持ってきた。
「俺は注文したから亜沙美も早く注文しなよ」
見ると、松木の目の前にはブレンドコーヒが置かれていた。わたしは、慌ててメニュー表を捲りイチゴのショートケーキと紅茶を注文した。
「ケーキも注文するのかよ」と松木はブツブツ文句を言っている。
店員さんは注文内容を復唱してパタパタとキッチンに戻った。
「さてと、早速だけどオレンジ色の提灯ってなんか良さげじゃないか」
松木は言ってにやりと笑った。
「……だからオレンジ色の提灯はちょっと」
オレンジ色の提灯と言葉に出しただけで心臓がドキドキしてきた。
「オレンジ色の提灯良いと思うんだけどなんで嫌なんだよ」
松木は目の前のブレンドコーヒーを一口飲みふぅーと溜め息をついた。
「……それはだって」
「だって、何なんだよ?」と松木が言ったところで店員さんが「お待たせしました~」とイチゴのショートケーキと紅茶をわたしの目の前に置き去っていった。
「わぁ~美味しそう。いただきま~す」
わたしはにっこりと笑みを浮かべフォークを手に取った。そして、三角形の部分にフォークを刺し口に運んだ。
ふわふわしたスポンジと甘さが控えめな生クリームが口の中に広がりとても美味しかった。ふふっ幸せだ。
「うん、美味しい」
「……あのね、ケーキを食べに来たんじゃないんだよ。ぽんこつ」
顔を上げると松木が眉間に皺を寄せわたしの顔をじっと見ていた。
「あはは、そうだったね……ってぽんこつって言った~」
「ぽんこつだから言ったまでだ。まったく困った奴だな。亜沙美の小説の話をしているんだぞ」
「……すみません」
「俺思ったんだけど赤色の提灯が吊るされている店は多いけどオレンジ色の提灯って珍しくていいんじゃないかってね」
松木は満足げな表情で笑っている。まだ、オレンジ色の提灯に拘っているようだ。
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