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同窓会参加者の近況報告
近況報告
しおりを挟む近況報告は席順でしようということになり久野君からになった。
「みんな久しぶり。久野 安竹です。今は普通に会社員をやっています。予定では俳優になるはずだったのにおかしいぜ」
久野君はそう言って長めの前髪をかきあげ松木をチラッと見る。
「ん? 久野なんだよ?」
「別に……。昔お前とどっちがかっこいいか競ったなと思ったんだよ」
「はぁ? 競ってないぜ。俺の方がかっこいいに決まっているじゃん」
なんて言って松木はフフンと鼻で笑う。
「な、何だって!」
久野君は顔を上気させ怒っている。そういえばこの二人は昔から俺様だったということを思い出した。
「こらこら、ストップ! せっかくの同窓会でケンカしないでよ」
幹事の美奈が二人の間に割って入った。
「はいはい、すみませんでした」と松木が言った。
久野君も「はいはい」と言って黙る。
「じゃあ、次は俺の番だね」松木は立ち上がり近況報告を始めた。
「みなさん、久しぶりです。松木 優也です。小さな出版社で編集者の仕事をしています。毎日忙しいけど好きな仕事なのでなんとか頑張れるのかな。ぽんこつ対応は大変だけど……よろしく」
松木はニッと笑い着席した。
みんなは「編集者なんて凄いね。ぽんこつって何かな?」と言って拍手をした。
わたしは最後のぽんこつ対応と言う一言が気になり膨れっ面になってしまった。
次は、真夜だ。
高校時代のわたしと真夜は一緒に買い物に行ったりお茶もしたりして仲良くしていた。だけど、高校を卒業してからは疎遠になっていた。
現在の真夜はどんな生活を送っているのだろうか。わたしは、真夜の切れ長な目を眺めた。
真夜は立ち上がり挨拶を始めた。
「みなさん、久しぶりです。春本真夜です。泊まりの同窓会って楽しそうだなと思い参加しました。企画してくれた美奈ちゃん、ありがとう。みなさんに久しぶりに会えて嬉しいです。今は和菓子屋で働いています。よろしくお願いします」
真夜は、ぺこりとお辞儀をして着席した。
参加者のみんながパチパチと拍手をした。
わたしも拍手をしながら真夜ちゃんは久野君や松木と違い礼儀正しくて、やっぱり良い子だなと思った。
また、真夜ちゃんに会えて嬉しい。
「おい、ぽんこつ亜沙美の番だぞ!」
松木がわたしの肩をぽんぽんと叩いた。
「あ、えっ!」
「えっ! じゃないよ亜沙美の番だよ」
「わ、わたしの番……」
わたしは慌てて立ち上がった。参加者のみんなは、亜沙美らしいなと言ってどっと笑った。
恥ずかしいよ。みんながわたしを見ている。
「う、梅沢亜沙美です。みなさん久しぶりです。ぼーっとしちゃって自分の順番だと気づいていなかったです」
とわたしが言ったところで参加者のみんながまた、どっと笑った。また、笑われてしまって恥ずかしい。早く挨拶を終わらせて着席したい。
「最初は同窓会の参加に乗り気じゃなかったけど、久しぶりにみなさんに会えて笑顔を見ることができて嬉しいです。今はコールセンターでオペレーターとして働いています。よろしくお願いします」
と言ってわたしは着席しようとしたのだけど……。
佐和が「亜沙美ちゃんは小説家になったんだよね」と言ってわたしの顔をじっと見てくる。
「そうだよ、亜沙美ちゃんってば凄いよね。わたし本買ったよ」
真夜がうふふと口元に手を当てて笑いわたしの顔を見た。
「真夜ちゃんありがとう買ってくれたの! 嬉しい。 でも、その小説一冊だけだから」
「一冊でも凄いよ。えーっとタイトルは『オレンジ色の夕日とわたしの青春』だったよね?」
真夜はニコニコと笑っているけれど、タイトルの『オレンジ色の夕日とわたしの青春』のオレンジ色にわたしはドキッとしてしまい笑うことができなかった。
自分で付けた小説のタイトルにドキドキしてしまうなんて……。
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