オレンジ色の世界に閉じ込められたわたしの笑顔と恐怖

なかじまあゆこ

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帰れない

わたしの小説

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  先に沈黙を破ったのは真由香だった。

「亜沙美ちゃんが書いた小説『オレンジ色の夕日とわたしの青春』を読んでなんだか懐かしいな~って思ったよ」

「え!  あ、あの小説ね……」

  自分が書いたタイトルなのにオレンジ色のと言われてわたしはドキッとする。

「もう亜沙美ちゃんはどうしてもっと嬉しそうな顔しないの?」

  真由香がわたしの顔を見て言った。

「……ううん、読んでくれてありがとう。でも、前からその話はしているじゃない」

「うん、そうなんだけどこの同窓会に参加して改めて感じたんだよ」

「高校時代の内容だから?」

「うん、そうだよ。みんなと会ったらあの頃に戻ってやり直したいなと思った。それと、オレンジ色の夕日に染まる空とオレンジ色の提灯が」

「わっ!  真由香ちゃん!  オ、オレンジ色の提灯って!」

  わたしはびっくりして大声を上げてしまった。

「え?  亜沙美ちゃんどうしたの?  そんなに大きな声を出さなくてもいいじゃない」

  真由香は目を丸くする。

「あ、ごめんね。真由香ちゃんがオレンジ色の提灯なんて言うからびっくりしたんだよ」

「もしかしてオレンジ色の提灯キーホルダーのことを言ってるの?  亜沙美ちゃん怖がっていたもんね」

「真由香ちゃんもそれって心霊現象みたいで怖いよ~って言ってたよね。なのにどうしてその話をするのよ?」

「提灯キーホルダーのことじゃないよ」と真由香は言った。


「え?  違うの?  じゃあ何のこと?」

  わたしが聞くと真由香は、「亜沙美ちゃんの小説に出てきたオレンジ色の提灯のことだよ」と言った。

  真由香のその声と雨の音が重なって聞こえた。

「わたしの小説……それってどういうことかな?」

「亜沙美ちゃん、自分が書いた小説なのに覚えていないの?」

  真由香はわたしの顔を見て首を横に傾げている。

  わたしオレンジ色の提灯なんて書いたのだろうか。覚えていない。そんなこと書いた覚えはなかった。

「……覚えていないよ」

「そうなんだね。あ、でも、その場面はちょっとだけだから忘れたのかな?  亜沙美ちゃんってば忘れっぽいんだね」

  真由香は、口元に手を当ててクスクス笑った。

  わたしは真由香の顔を見て曖昧な笑みを浮かべた。わたしはそんなに忘れっぽかったのかな?  自分で書いたことを忘れたりするけれど、オレンジ色の提灯のことを覚えていないなんて……。

  一番思い出したくないことなのに忘れるなんて、いやいや忘れたいことだから覚えていないのかもしれない。

  今も外は滝のような雨がザーザーと降っている。

「真由香ちゃん、部屋に戻ろうか?」

「うん、そうだね。雨が止むまで部屋でゆっくりしようか」

  真由香はそう言いながら部屋入った。わたしも真由香の背中を追って部屋入る。

  わたしはあの小説にオレンジ色の提灯が書かれているのか確認しようと思った。
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