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オレンジ色の世界に閉じ込められたわたしは

どうして忘れていたのかな?

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「えっ?  わたしの持ち物ってこれが?」

  美奈は言いながらオレンジ色の提灯キーホルダーを左右にぷらぷら揺らした。

「うん、そうだよ。そのオレンジ色の提灯キーホルダーは高校生の時から持っているよね?」

  そうなのだ。わたしは思い出した。美奈は高校時代スクールバッグにオレンジ色の提灯キーホルダーをつけていたのだ。

  わたしは、そのオレンジ色の提灯キーホルダーを可愛いねと褒めたこともある。どうして今まで忘れていたのかなと不思議に思う。

「まさかわたし知らないよ~」

  美奈は首を横に傾げわたしの顔を見る。

「み、美奈ちゃん、どうして嘘をつくの? 
 わたし思い出したんだよ」

  わたしは美奈のきょとんとした顔をじっと見る。

「……あはは、そうなんだね。わたしの提灯キーホルダーなんだね~」

  美奈はまるで他人事かのように言った。

「美奈ちゃん、大切なキーホルダーだよと言ってたでしょ?」

「そうだったかしら?」

  美奈の薄笑いを浮かべたその表情から何を考えているか読みとることが出来ない。

  高校の制服に身を包んだ美奈と揺れるツインテールそして、スクールバッグにつけられたオレンジ色の提灯キーホルダーが鮮やかに甦る。

  どうして忘れていたのかなと思うのと同時に美奈がぷらぷら揺らしているオレンジ色の提灯キーホルダーが目に入り妙な気持ちがした。

  このオレンジ色の提灯キーホルダーがわたしに何かを語りかけている。そんな気がした。


「わたしも思い出したよ。その提灯キーホルダー美奈ちゃんスクールバッグにつけていたよね」

  それまで黙っていた多香子が言った。

「あら、そうだったかな~?」

  美奈は今も目の前でオレンジ色の提灯キーホルダーをぷ~らぷ~らと揺らしている。不気味で不思議な光景だ。ねえ、美奈はそのオレンジ色の提灯キーホルダーをどんな気持ちで眺めているのかな?

「そうだったかなって美奈ちゃん……スクールバッグについてるその提灯キーホルダーをわたし毎日見かけていたよ」

「忘れてしまったな。そうだ、佐和ちゃんは覚えているの?」

  美奈は多香子の顔をチラッと見てそれから佐和に近づき目の前でオレンジ色の提灯キーホルダーをぷらぷら揺らした。

「わ、わたし、その提灯キーホルダーどこかで見たなと思っていたよ。美奈ちゃんのキーホルダーだったんだね……」

  佐和は目の前でオレンジ色の提灯キーホルダーをぷらぷら揺らされちょっと怯えたような表情になっている。

「ふ~ん、そうなんだね。佐和ちゃんははっきり思い出さないんだね~」

  美奈はそう言って佐和の顔を見てそれからオレンジ色の提灯キーホルダーに目を移した。そんな美奈をわたし達はじっと眺めた。

  このオレンジ色の提灯キーホルダーと美奈と今回の不思議な出来事は何か繋がっているのだろうか。

  オレンジ色の提灯キーホルダーをじっと眺めている美奈の横顔を見ていると嫌な予感がしてきた。


「ねえ、コテージのわたしの部屋にオレンジ色の提灯キーホルダーを置いたのは美奈ちゃんなのかな?」

  わたしはオレンジ色の提灯キーホルダーをじっと眺め続けている美奈の顔を見て尋ねた。

「……さあね」

「ちょっと美奈ちゃん、ちゃんと答えてよ!」

  今もオレンジ色の提灯キーホルダーをぷらぷら揺らし眺めている美奈の目を見て聞くけれど、美奈は答えない。まるで悪戯をして喜んでいる子供のようにも見える。

「ねえ、美奈ちゃんはずっと知らないふりをしていたの?  教えてよ」

  わたしは、美奈の本当の気持ちが知りたい。何か理由があるのであればちゃんと話を聞きたいなと心から思う。

「亜沙美ちゃんもみんなも出ていってくれないかな?  わたしお風呂に入りたいんだけど」

  美奈はわたし達を鋭い目つきで睨み大声を出した。

「あの美奈ちゃん、わたしが先にお風呂に来たんだよ」

「多香子ちゃんうるさいわね。じゃあ、一緒に入る?」

「後で入るから早くしてね」

  わたし達三人は風呂場から出た。女湯と書かれた暖簾を見上げわたしは、この先の風呂場だけ別世界のように感じた。

  穏やかで無邪気な笑顔を浮かべる美奈はどこに行ってしまったのかな。

「美奈ちゃんがちょっと心配だね」

  多香子がぽつりと呟いた。

「うん、いつもの美奈ちゃんと様子が違ったもんね」

  わたしは今、風呂場の中で美奈はどんな気持ちでいるのかなと想像してみたがさっぱり分からない。
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