オレンジ色の世界に閉じ込められたわたしの笑顔と恐怖

オレンジ色の世界と恐怖

懐かしい場所

「さあ、みんな荷物は置いたままでいいから出かけるよ～昔懐かしい場所など見て歩こうね」

  美奈の明るくて元気な声とともに出発する。

  外に出ると秋の心地よい風が吹いていた。いろいろ不気味なことがあったのでこの緑が溢れる綺麗な世界を楽しめないけれど本来なら癒しの空間だ。

「うふふ、亜沙美ちゃん楽しみだね」

  真由香がニコニコと笑顔を浮かべた。

「……うん、楽しみだね」

  わたしは曖昧な笑みを浮かべた。

「亜沙美ちゃんもこの同窓会でいろいろあったと思うけど最後なんだから楽しもうよ」

  真由香がわたしの顔を見てにっこり笑い大きく伸びをした。

「うん、そうだね。今日は晴れたし楽しまなきゃ損だね」

  真由香の言う通りだ。クヨクヨしていても何も解決しない。美奈とは向き合わなければならないけれどこの自然を満喫しよう。

  わたしは元気よく歩き出した。前を歩く美奈のツインテールが風にゆらゆらと揺れている。

「ねえ、みんな見て～この川透明度高いよね。そうだ、亜沙美ちゃん、この川でよく遊んだよね～」

  美奈がこちらに振り返り言った。

「あ、うん、そうだね」

  気がつくと美奈と川遊びをした懐かしい場所についていた。

『亜沙美ちゃん、川遊びしようよ』

『え～美奈ちゃん川に入るの？』

『ふふっ、もちろん入るよ～』

  太陽の光を反射してキラキラと輝く水面と美奈の笑顔とさらさら風になびくツインテール。 あの日の美奈の笑顔に再び出会ったそんな気がした。


「うん、美奈ちゃん懐かしいね」

「うふふ、でしょ。わたし亜沙美ちゃんとここで遊んだことをよく覚えているよ。楽しい時間だったな」

  美奈はそう言って目を細めて笑った。

「おいおい、お前達だけの懐かしい場所なのかよ」

「えっ？  久野君はこの川で遊んだことないの？」

「あったかもしれないけど懐かしい場所ってほどじゃないな」

「ふ～ん、そうなんだね。今日から思い出の場所にしたらいいよ」

  口元に手を当てて笑う美奈に久野君は「はいはい、分かったよ」と溜め息をついた。

  美奈の笑顔には誰も敵わないなと思うと可笑しくなる。高校時代もいつも美奈ので笑顔が近くにあった。

  美奈が笑うと周りのみんなも笑顔になっていた。男子も女子もみんな美奈のことが大好きだった。

 あれ？  と思った。だったら同窓会に集まった人数がちょっと少ないかなと。まあ、みんな忙しい日々を過ごしているからなんだと思うけれど。

「さあ、川に入ろう～」

  美奈がツインテールをゆらゆら揺らしながら言った。

「おい、美奈入るって秋だぜ」

「あらあら松木君、高校時代は秋も川遊びしていたでしょ。もうおじいちゃんかしら～」

「そうだったかな？  あんまり覚えていいけどね。っておじいちゃんじゃないぞ」

「うふふ、だったら入りましょ」

  美奈は川に向かって駆け出した。

  太陽の光を浴びてキラキラと宝石のように輝く川の水面と美奈のゆらゆら揺れるツインテール。

  そういえば大雨の後だけど川の水は濁っていないなと思った。