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第五章 吉田さん
4 たまにはゆっくりしよう
しおりを挟むわたしは堤防によじ登ろうとしたけれど上手くよじ登れない。
「ははっ、俺の手につかまってください」と吉田さんは笑いながら手を差し伸べた。
この手につかまって良いのかなと一瞬考えたけれど自力で堤防に登ることは無理だと諦め差し伸べられたその手につかまった。
吉田さんの手は温かくてぽかぽかしていてなんだか優しさがふわりと伝わってきた。わたしは助けを借りなんとか堤防に登ることに成功し吉田さんの隣に腰を下ろした。
ゴーヤの入っているスーパーの袋もドーンと置いた。「すみません、ありがとうございます」
「いえいえ。それはそうと、俺の背後にずっと怪しげな気配を感じていたんですよ。その正体は梅木さんだったんですね」
吉田さんはそう言ってにやりと笑った。
「えっ、怪しげな気配って……気がついていたんですか?」
「いえ、何となく誰かが俺の後ろを歩いてるなとは思っていてちょっと怪しげな気配だなと感じていましたがでも気のせいかなとも思っていましたよ」
吉田さんは眉根を寄せそれから可笑しそうにクスクスと笑った。
「ごめんなさい。何となく声を掛けることが出来なくて……」
わたしは、手を合わせて謝った。
「まあいいですけどね。それはそうと梅木さん、古書カフェ店の仕事はどうしましたか?」
吉田さんは少し長めの前髪をかきあげ笑った。
「……えっ、あ、その……み、みどりちゃんが頑張っているかな~うん、そうですよ。きっと……」
わたしは、貼り付けたような笑顔を浮かべた。
「へーっ、並木さんが一人でお仕事を頑張られているんですね。ふーん、なるほどそうなんすね」
吉田さんはなんて意地悪なんだろう。わたしはサボっていますよ。仕事をサボりお買い物と吉田さんの尾行をしましたよ。
「梅木さん、何を一人でブツブツ話されているんですか?」
「あ、いえ、海が綺麗だな。沖縄っていいなと呟いていました」
なんて苦しい言い訳をわたしはしているのかなと思うと可笑しくなってくる。ああもう嫌になってくる。
「面白い方ですね。たまにはサボるのもいいかもですよ。毎日頑張ると疲れますからね」
吉田さんは、わたしの顔をちらりと見て言った。それからゆっくりと視線を海に移し「どうして梅木さんは沖縄に来られたんですか? 出身は東京なんですよね? 東京にはなんでもあるのに」と言った。
「みどりちゃんに誘われて沖縄に住んで働いてみるのもいいかなと思って来ました」
そうだった。わたしはみどりちゃんに誘われて沖縄に来た。みどりちゃんの沖縄でリゾート派遣の仕事をしない? その言葉に魅力を感じた。
亜熱帯気候の沖縄でのんびり働くことが出来たら幸せかなと考えた。特にこれと言った目標もなかった。
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