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ならまちに住む町屋奈夜
わっ! 狛犬達が……
しおりを挟むぽんぽん、ぽんぽん、ぽむぽむっ、ぽむぽむっと狛子と狛助は五歳くらいの人間の女の子と男の子の姿から狛犬に変身したのだから。
いやいや元の姿に戻ったと言う方が正しいのだろうか。石製の獅子や犬に似た獣の姿に戻り狛子と狛助はニコニコ笑っているのだった。
「えっ!? わっ! わわわっーー!」
おばあちゃんは狛子と狛助を指差し口をぱくぱくさせながら叫んだ。
「おばあちゃんどうしたのかな?」と狛子は首を傾げた。石製なのに体が柔らかいなと思う。
「おばあちゃん大丈夫ですか」狛助も石製の狛犬の姿なのに首を横に傾げおばあちゃんの顔をじっと見ている。
「わたしは夢を見ているのかしら?」
「そ、そうだよ。おばあちゃんこれは夢なんだよ」とわたしが言ったのにもかかわらず狛子と狛助が「おばあちゃん夢じゃないよ~」と声を合わせて言った。
「……夢じゃないのかね? 狛子ちゃんと狛助君は狛犬なんだね」
おばあちゃんは目を大きく見開き狛犬姿の二匹(二人)を眺めている。
「うん、わたしは狛犬で~す!」
「はい、僕も狛犬で~す!」
狛子と狛助はニコニコと笑っている。
狛犬が歯を見せて笑っているその姿はほっこりと可愛らしくファンタジーの世界に見える。それと同時にホラー映画の世界のようにも見えるのだった。
「うふふ、狛子ちゃんと狛助君は狛犬さんなのね」
おばあちゃんは落ち着きを取り戻したのか緑茶をずずっと啜り微笑みを浮かべた。
「そうだよ。おばあちゃん、わたし達は神様に奈夜ちゃんの願いを叶えてあげてと頼まれたんだよ」
狛子はそう言って胸を張る。
「奈夜ちゃんの願いを叶えてくれるの?」
「はい、奈夜ちゃんの願いを叶えてあげるよ。だって、わたし達奈夜ちゃんの夢を叶えないと神社に帰れないかもしれないんだもん」
「あらそうなのね?」
「はい、だからしばらくの間おばあちゃんよろしくお願いしま~す」、「よろしくお願いしま~す!」と言った二匹(二人)はぺこりと頭を下げた。
それって……。まさかですか?
「この家に住むってことなのかしら?」
おばあちゃんが聞くと狛子と狛助は元気よく「はい」と声を合わせて返事をした。
「それって居候するってことじゃない!」
わたしは思わず叫んでしまった。
「奈夜ちゃんよろしくね」
「奈夜ちゃんよろしくお願いします」
二匹(二人)はそう言ってにっこりと笑った。
「よろしくってちょっと何よそれは」
わたしは、ニコニコと笑っている狛子と狛助の顔を見てなんだか呆れてしまった。
「今日の夕飯は何だろうね?」
「うん、奈夜ちゃんのおばあちゃん料理上手そうだから楽しみだね」
狛子と狛助は顔を近づけ合い楽しそうに話をしている。
「奈夜ちゃんの小さな可愛らしい狛犬のお友達だからおばあちゃん腕を振るってご飯を作ろうかな」
なんて言っておばあちゃんは腕まくりをしたではないか。このとんでもない状況をおばあちゃんは楽しんでいるように見える。
信じられない。けれど、おばあちゃんが楽しそうにしているのだからまあいいかなとわたしは思うことにした。
おばあちゃんの心からの笑顔を見ると、わたしの心は喜びでいっぱいになる。
「うふふ、奈夜ちゃんってばなんだか楽しそうね」
気がつくとおばあちゃんがにっこりと笑いわたしの顔をじっと見ていた。
「えっ、うん楽しいよ」わたしは笑顔で答えた。あの呑気で食いしん坊な狛犬達はわたしとおばあちゃんに笑顔をプレゼントしてくれているのかもしれない。
「ニヒヒッ、夕飯まだかな~」
「楽しみだ~」
なんて狛子と狛助が話すことはご飯やお菓子のことばかりではあるけれどね。
「さてと、庭の掃き掃除をしてこようかしら。その後美味しいご飯を作るわよ」
おばあちゃんはそう言ってにっこり微笑みパタパタと歩き庭に向かった。
そんなおばあちゃんの少し丸くなった後ろ姿をわたしはぼんやりと眺めた。
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