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ならまちに住む町屋奈夜
大切なぬいぐるみ
しおりを挟むわたしが猫のぬいぐるみに目を落としじっと眺めていると、狛子が「その猫ちゃんのぬいぐるみ大切だったんだね」と言ってわたしの顔を見上げた。
「……うん、ずっと大切にしていたぬいぐるみで猫っぴちゃんて名前なんだよ。箱階段の引き出しに入っていたなんてね」
「そっか、猫っぴちゃん可愛いね」
「うん、可愛いでしょ」
「わたしもらっちゃおうかと思ったけど奈夜ちゃんの大切な猫っぴちゃんだから諦めるね」
狛子はにっこりと微笑みを浮かべた。その目がなんだか優しく見えた。
「僕もその猫っぴちゃん欲しかったけど、奈夜ちゃんの大切なぬいぐるみだから諦めるね」
狛助もくりくりっとした可愛らしい目でわたしの顔をじっと見た。
「うん、これからまた、部屋に飾って大切にするね」
わたしは猫っぴの頭をそっと撫でた。すると、おじいちゃんの優しくてあたたかい笑顔がほわほわと思い浮かんだ。
「あ、そうだ! 狛子ちゃんと狛助君に身代わり申のお守りをあげるね」
「わ~い! やった~身代わり申さんのお守りくれるんだったよね」
「赤い身代わり申さんのお守り嬉しいな~」
狛子と狛助はぴょーんと飛び跳ね嬉しそうだ。
「じゃあ、ちょっと待っててね。取ってくるね」
わたしは、自分の部屋に入って猫っぴを箪笥の上に置いた。すると、殺風景だった部屋が明るく華やかになった気がした。
「猫っぴ、また、よろしくね」とわたしは言って頭を撫でた。
それから机の引き出しから身代わり申のお守りを取り出し狛子と狛助が待つ部屋に戻る。
身代わり申のお守りを二人(二匹)にあげると思った通り喜んでくれた。やっぱり喜んでもらえると嬉しくなる。
それからしばらくすると、おばあちゃんが「夕飯よ~」と言って木製のテーブルに料理を並べた。
「わ~い、待っていました~ご飯だよ~」
「わ~い、ご飯だ~ヨダレが垂れちゃいそうだよ~」
狛子と狛助はそれはもう嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「うふふ、喜んでもらえておばあちゃんは嬉しいよ」
おばあちゃんはそう言って頬を緩めた。わたしの大好きなおばあちゃんの笑顔だ。
木製のテーブルに並べられた料理は湯気の立った大和雑煮、きな粉、いなり寿司、サラダだった。
「美味しそうだね」
「めちゃくちゃ美味しそうだよ~。きな粉もあるよ」
座布団に腰を下ろした狛子と狛助は目をキラキラと輝かせおばあちゃんの料理をじっと眺めている。
「きっと、美味しいわよ。さあ、みんなで食べましょうね。あ、おじいちゃんもやって来たわよ」
おばあちゃんはそう言ってニコニコと微笑みを浮かべた。その言葉にわたしは複雑な気持ちになった。
「おじいちゃん、緑茶よ」
おばあちゃんは湯呑みに急須から緑茶を注いだ。湯呑みからほわほわと湯気が立っている。
「えっ、おじいちゃん?」
「おじいちゃん?」
狛子と狛助が目を丸くした。
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