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わたしときらりちゃんは似ている

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わたしはいつも薄暗い部屋の中で宿題をしていた。そんな記憶がある。けれど幼い日のことはあまり思い出したくなくて記憶の奥に鍵をかけ見ないようにしている。

  お母さんは仕事や夜遊びで忙しくてわたしはほったかされていた。お父さんとはわたしが三歳の時に離婚したらしい。お父さんが今どこで何をしているのかわたしは知らない。

  シャーペンを動かしノートに文字を書くきらりちゃんを見ていると懐かしさと切なさが同時に込み上げてくる。

  だけど、きらりちゃんには斉川さんという優しい笑顔が似合うお母さんがいるのになと思いながらわたしはシャーペンを動かすきらりちゃんのことを眺めた。

「ねえ、お姉さん、わたしの顔に何かついている?」

  きらりちゃんはノートから顔を上げわたしの顔を怖い目つきで見た。

「ううん、何でもないよ。ただ小学生だった頃が懐かしいなと思っただけだよ」

  わたしは薄い笑みを浮かべた。

「ふ~ん、そうなんだ」

  きらりちゃんは興味なんてなさそうに言った。そして、シャーペンを動かし漢字の練習を始めた。その文字は丸っこくて可愛らしくてツンツンして大人びているけれどやっぱり小学生だなと思った。

漢字の練習をするきらりちゃんとさんぴん茶を飲みながらその様子を見守るわたしと美川さんはやっぱり怪しげだよね。

「美川さん、そろそろ帰らないんですか?」

  わたしは美川さんに近づき小声で聞いた。

「そうですね。沖縄そばをたらふく食べて満足したことだしそろそろ帰るとしますかね」

  その返事にわたしは正直ホッとした。だって、美川さんのことだからいやいやまだまだ食べますよだとかやきらりちゃんを見守るなんて言われたらどうしようかなと思ったのだから。

「では帰りましょう」

  美川さんは立ち上がりきらりちゃんに声をかけた。

「きらりちゃん宿題を頑張るんだぞ!」

  きらりちゃんは一瞬顔を上げたけれど返事はせずすぐに宿題に戻った。

「じゃあね。きらりちゃん。宿題頑張ってね」

  わたしのかけた声にもきらりちゃんは一瞬顔を上げたけれど返事はしないで宿題に戻った。

「おばぁ、沖縄そば美味しかったよ。ごちそうさまでした~」

  美川さんは部屋の奥にいるおばぁに声をかけ出口に向かった。

「ありがとう」

「ごちそうさまでした~」

  わたしも大きな声で挨拶をした。

「ありがとう」

  おばぁの元気な声に見送られわたし達は雑貨店沖縄の楽しい世界へめんそ~れを出た。
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