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変化①
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GWが明け、職場での昼休み。自分のデスクに座ってお昼を食べていると、ポケットに入れていたスマホが震えて、ドキッとした。
画面を開き、悠真からではないことにほっとする。大丈夫。おととい連絡が来たときに、休み明けでしばらく仕事が忙しいと嘘をついてある。
悠真に会ったら確実にエッチをしないといけない。だけど今はそんな気になれない。
手の平の傷はかさぶたが張り、やっと痛みが引いた。あの夜、西野さんが手当てをしてくれた後、ぐちゃぐちゃに混濁していたあたしの心は少し落ち着いた。
そして、あの日から、悠真のことを冷静に考えている。
◇
小さい頃から、男の子に縁がなかった。地味で大人しくて、男の子にモテたことなんて当然ない。高校生になっても、大学生になっても、恋愛とは無縁のまま、社会人になった。
悠真と出会ったのは、そんなあたしを心配した友人が誘ってくれた合コンだった。軽そうな人だなと最初は少し警戒したけれど、悠真があたしのことを可愛いと言ってくれて嬉しかった。そんなことで惹かれるなんて単純かもしれないけど、「付き合わない?」と言ってもらえたときには、涙が出るほど嬉しかった。
初めてのキスも、初めてのエッチも、覚えている。緊張してガチガチのあたしを悠真がリードしてくれて、あたしは初めて、男の人を知った。痛かったけど、この人で良かったと思った。
ずっとそう思ってきた。ずっと…
◇
「すみません、栗原さん。ちょっと聞きたいことが」
昼休み明け、スーツ姿の西野さんがタブレットを片手にそう声をかけてきた。GWにまたしても情けない所を見られてしまって、西野さんに会うのはなんだか気まずいなと思っていたのだけど、あれ以降、西野さんは何事もなかったかのようにいつも通りに接してくれていて、ほっとしている。
「このB社の案件、製品の納品日が来月にずれたので、会計処理について聞きたくて」
「あ、そうなんですね。こちらで処理しましょうか?」
「…いいんですか?」
「はい。このシステム、最近新しくなってちょっと癖があるみたいで。あたしも会計担当として早く覚えたかったところなので」
「助かります。ありがとうございます」
そう西野さんがお礼を言う。以前は無表情で淡々と用件を言ってくるだけだったのに、最近の西野さんは少し柔らかい雰囲気になった気がする。
「…それ、もう痛くないですか?」
西野さんがあたしの手の平を見ながら、小さな声でそう囁く。
「え…? あ…っ、はい…!」
「なら良かった。では、また」
そう言って、西野さんがふわっと笑って自分の席に戻っていく。その顔がなんだかものすごく優しい笑顔だった気がして、不覚にもあたしはドキッとしてしまった。
画面を開き、悠真からではないことにほっとする。大丈夫。おととい連絡が来たときに、休み明けでしばらく仕事が忙しいと嘘をついてある。
悠真に会ったら確実にエッチをしないといけない。だけど今はそんな気になれない。
手の平の傷はかさぶたが張り、やっと痛みが引いた。あの夜、西野さんが手当てをしてくれた後、ぐちゃぐちゃに混濁していたあたしの心は少し落ち着いた。
そして、あの日から、悠真のことを冷静に考えている。
◇
小さい頃から、男の子に縁がなかった。地味で大人しくて、男の子にモテたことなんて当然ない。高校生になっても、大学生になっても、恋愛とは無縁のまま、社会人になった。
悠真と出会ったのは、そんなあたしを心配した友人が誘ってくれた合コンだった。軽そうな人だなと最初は少し警戒したけれど、悠真があたしのことを可愛いと言ってくれて嬉しかった。そんなことで惹かれるなんて単純かもしれないけど、「付き合わない?」と言ってもらえたときには、涙が出るほど嬉しかった。
初めてのキスも、初めてのエッチも、覚えている。緊張してガチガチのあたしを悠真がリードしてくれて、あたしは初めて、男の人を知った。痛かったけど、この人で良かったと思った。
ずっとそう思ってきた。ずっと…
◇
「すみません、栗原さん。ちょっと聞きたいことが」
昼休み明け、スーツ姿の西野さんがタブレットを片手にそう声をかけてきた。GWにまたしても情けない所を見られてしまって、西野さんに会うのはなんだか気まずいなと思っていたのだけど、あれ以降、西野さんは何事もなかったかのようにいつも通りに接してくれていて、ほっとしている。
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「あ、そうなんですね。こちらで処理しましょうか?」
「…いいんですか?」
「はい。このシステム、最近新しくなってちょっと癖があるみたいで。あたしも会計担当として早く覚えたかったところなので」
「助かります。ありがとうございます」
そう西野さんがお礼を言う。以前は無表情で淡々と用件を言ってくるだけだったのに、最近の西野さんは少し柔らかい雰囲気になった気がする。
「…それ、もう痛くないですか?」
西野さんがあたしの手の平を見ながら、小さな声でそう囁く。
「え…? あ…っ、はい…!」
「なら良かった。では、また」
そう言って、西野さんがふわっと笑って自分の席に戻っていく。その顔がなんだかものすごく優しい笑顔だった気がして、不覚にもあたしはドキッとしてしまった。
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