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貴方が恋をした人は①
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「わ、綺麗…」
前菜として出てきたプレートのサラダ。色取り取りの珍しい野菜がオシャレに盛られていて視覚的にも華やかだ。
「確かにこれは色合いが綺麗ですね」
「ホントですね。可愛い…」
そう言いながら、一口食べる。
「おいしい…!」
口の中にフワッと広がる野菜の香りと甘み。なんだか普段食べる物よりも味が濃い気がする。
「このお店、以前、栗原さんに同行してもらったお客さんに教えてもらったんですよ」
「え…? あの、契約が取れた時のですか?」
「はい。味噌で炙った鎌倉野菜の串焼きと日本酒が絶品だそうで」
「うわ、それは美味しそう…」
「ふふ。そうですね。後で頼みましょう」
そう言って西野さんが笑う。こんなふうに柔らかい表情を見せてくれるのが嬉しいなと思いながら、あたしも笑い返した。
◇
帰り道。電車を降りて、マンションへと続く道を二人で並んで歩く。
「串焼き、美味しかったですね!」
「そうですね。僕はちょっと人参が駄目でしたけど…」
「ふふ。西野さんが人参苦手って、可愛いですよね」
「やめてください。大の大人が可愛いとか…」
そう言って西野さんが恥ずかしそうに頬を掻く。普段の西野さんは真面目で寡黙だから、そんな西野さんが人参嫌いなのは人間味が垣間見えて良いと思う。
「今日の栗原さんは、よく笑いますね」
あたしを見て、西野さんがそう言った。
「え…? そ、そうでしょうか…?」
気持ちを自覚したせいか、西野さんと一緒にいる時間がいつも以上に嬉しくて、確かに今日は普段より笑っていたかもしれない。
慣れない日本酒も飲んでしまったし、少し酔っているのも尚更だろう。気を付けないと、そのうち酔った勢いで余計なことを口走りそうだ。
「…何かいいことでも、ありましたか?」
「え…?」
そう聞いた西野さんの表情に、ドキッとする。
穏やかな顔がそこにあると思ったのに、西野さんは真面目な表情をしていた。
「あの…?」
「橋田さん…ですか?」
「え…?」
急に西野さんの口から出てきた名前に驚く。橋田さん…?
「な、なんで…、橋田さんが…?」
「え…、あ…、すみません。今のは、なしで…」
そう言って、西野さんが気まずそうな顔をして視線を逸らす。先程の言葉が失言だったかのように、西野さんは口を手で押さえていた。
前菜として出てきたプレートのサラダ。色取り取りの珍しい野菜がオシャレに盛られていて視覚的にも華やかだ。
「確かにこれは色合いが綺麗ですね」
「ホントですね。可愛い…」
そう言いながら、一口食べる。
「おいしい…!」
口の中にフワッと広がる野菜の香りと甘み。なんだか普段食べる物よりも味が濃い気がする。
「このお店、以前、栗原さんに同行してもらったお客さんに教えてもらったんですよ」
「え…? あの、契約が取れた時のですか?」
「はい。味噌で炙った鎌倉野菜の串焼きと日本酒が絶品だそうで」
「うわ、それは美味しそう…」
「ふふ。そうですね。後で頼みましょう」
そう言って西野さんが笑う。こんなふうに柔らかい表情を見せてくれるのが嬉しいなと思いながら、あたしも笑い返した。
◇
帰り道。電車を降りて、マンションへと続く道を二人で並んで歩く。
「串焼き、美味しかったですね!」
「そうですね。僕はちょっと人参が駄目でしたけど…」
「ふふ。西野さんが人参苦手って、可愛いですよね」
「やめてください。大の大人が可愛いとか…」
そう言って西野さんが恥ずかしそうに頬を掻く。普段の西野さんは真面目で寡黙だから、そんな西野さんが人参嫌いなのは人間味が垣間見えて良いと思う。
「今日の栗原さんは、よく笑いますね」
あたしを見て、西野さんがそう言った。
「え…? そ、そうでしょうか…?」
気持ちを自覚したせいか、西野さんと一緒にいる時間がいつも以上に嬉しくて、確かに今日は普段より笑っていたかもしれない。
慣れない日本酒も飲んでしまったし、少し酔っているのも尚更だろう。気を付けないと、そのうち酔った勢いで余計なことを口走りそうだ。
「…何かいいことでも、ありましたか?」
「え…?」
そう聞いた西野さんの表情に、ドキッとする。
穏やかな顔がそこにあると思ったのに、西野さんは真面目な表情をしていた。
「あの…?」
「橋田さん…ですか?」
「え…?」
急に西野さんの口から出てきた名前に驚く。橋田さん…?
「な、なんで…、橋田さんが…?」
「え…、あ…、すみません。今のは、なしで…」
そう言って、西野さんが気まずそうな顔をして視線を逸らす。先程の言葉が失言だったかのように、西野さんは口を手で押さえていた。
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