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【番外編】大切にしたくて①
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突然だけど、西野さんは、性欲がないのかもしれない。
付き合い始めて、早いもので2ヶ月が経とうとしている。関係は良好だと思う。大切にされていると感じるし、喧嘩することもなく穏やかに過ごせている。
そう、穏やかに。まるでそれは中学生みたいに健全──すなわち、あたしたちは身体の関係はおろか、まだキスさえしていない。辛うじて、手を繋いだところまで。
そして、話は冒頭に戻るのだ。西野さんには、性欲というものが全くないのではないか、と。
…そんな男性、世の中にいるのだろうか? 悠真としか付き合ったことがないあたしはイマイチよくわかっていないけど、一般的に男性は性欲があるのが普通だと聞く。
でも、その一方で、最近の若者は淡白だとも言われている。西野さんもそのタイプ…? 確かに、どちらかといえば乱暴なあの行為と、優しくて穏やかな西野さんは結びつかない。
…ということは、やはり西野さんには性欲がないということ…?
そう思いながら、付き合い始めたあの夜を思い出す。別れがたい気持ちが顔に出てしまったあたしを見て、西野さんは "泊めたくなる" と言ってくれた。
それは、そういう意味だと思っていたのに…
◇
「今日は結構歩かせてしまいましたね」
「い、いえ…! むしろあたしの方が西野さんを色んなお店に連れ回してしまったというか…」
週末にデートをした帰り。マンションに着くと、あたしの部屋のドアの前で西野さんとそう話す。
「まぁ、確かに。栗原さんって結構優柔不断ですよね」
「す、すみません…」
「ふふ、冗談です。真剣に悩んでいる姿も可愛かったので、全然」
そう言って西野さんが笑う。さらっと "可愛い" と言ってくれるのが嬉しい。
「たくさん歩いて疲れたと思うので、ゆっくり休んでください」
「はい、西野さんも…」
これは今日もこのままお互い部屋に帰る流れ。まだ土曜日で、明日も休みなのだけど…
「あの…っ」
もう少し一緒に…?
うちでお茶でも…?
誘い文句が頭に浮かびながら、あまりにもベタすぎるそれを言うのは端ない気がしてきて、躊躇する。
「どうかしましたか…?」
「い、いえ…! あの…、おやすみなさい…」
「はい。おやすみなさい」
そう言って微笑む西野さんに、あたしは微笑み返しながら小さく会釈して、自分の部屋のドアを開けた。
付き合い始めて、早いもので2ヶ月が経とうとしている。関係は良好だと思う。大切にされていると感じるし、喧嘩することもなく穏やかに過ごせている。
そう、穏やかに。まるでそれは中学生みたいに健全──すなわち、あたしたちは身体の関係はおろか、まだキスさえしていない。辛うじて、手を繋いだところまで。
そして、話は冒頭に戻るのだ。西野さんには、性欲というものが全くないのではないか、と。
…そんな男性、世の中にいるのだろうか? 悠真としか付き合ったことがないあたしはイマイチよくわかっていないけど、一般的に男性は性欲があるのが普通だと聞く。
でも、その一方で、最近の若者は淡白だとも言われている。西野さんもそのタイプ…? 確かに、どちらかといえば乱暴なあの行為と、優しくて穏やかな西野さんは結びつかない。
…ということは、やはり西野さんには性欲がないということ…?
そう思いながら、付き合い始めたあの夜を思い出す。別れがたい気持ちが顔に出てしまったあたしを見て、西野さんは "泊めたくなる" と言ってくれた。
それは、そういう意味だと思っていたのに…
◇
「今日は結構歩かせてしまいましたね」
「い、いえ…! むしろあたしの方が西野さんを色んなお店に連れ回してしまったというか…」
週末にデートをした帰り。マンションに着くと、あたしの部屋のドアの前で西野さんとそう話す。
「まぁ、確かに。栗原さんって結構優柔不断ですよね」
「す、すみません…」
「ふふ、冗談です。真剣に悩んでいる姿も可愛かったので、全然」
そう言って西野さんが笑う。さらっと "可愛い" と言ってくれるのが嬉しい。
「たくさん歩いて疲れたと思うので、ゆっくり休んでください」
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「あの…っ」
もう少し一緒に…?
うちでお茶でも…?
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「どうかしましたか…?」
「い、いえ…! あの…、おやすみなさい…」
「はい。おやすみなさい」
そう言って微笑む西野さんに、あたしは微笑み返しながら小さく会釈して、自分の部屋のドアを開けた。
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