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夏休みの変化

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「なんか早野…、雰囲気変わったな」

予備校の夏期講習の授業が終わり、そう話しかけてきたのは、同じクラスの鈴木くん。

「そう…かな?」

「うん。メガネやめたのも、そのポニーテールも、すごく似合うと思う」

「あ…、ありがとう」

「じゃあ、また明日」

「うん、また明日ね」

及川くんと付き合い始めて3週間。強引に言いくるめられて、私の外見は着々と変身を遂げていた。

まず、メガネ禁止。
バイト代でコンタクトレンズを買ってくれた。

次に、三つ編み禁止。
夏は暑いからポニーテール推奨だそうだ。

そして、制服のひざ下丈のスカート禁止。
及川くん曰く、スカートの丈は、ひざより上にあればある程いいらしいが、そこはひざがやや見えるくらいで勘弁してもらった。

私の変わりぶりにお父さんは心配していたが、明るい性格のお母さんはなんだか嬉しそうだった。私の子だもの、オシャレすればいくらでも可愛くなるわよ、なんて言っていた。

「やっぱ、俺の目は正しかったな。楓音かのんちゃん、磨きがいあるわー」

私を見るや否や、満足そうに及川くんがそう言った。

夏休みに入ってから、予備校が終わると及川くんに会うのが日課になっている。

ラフなTシャツにジーンズ。
普段学校の男の子は制服姿ばっかりだから、こうして私服姿を見るのはなかなか新鮮だ。

それにしても、こんなシンプルな格好なのに、及川くんが着るとスタイルがいいせいかとてもオシャレに見える。

すれ違う女の子たちも及川くんのこと見てるし、こころなしか男の人までも、及川くんを羨むように見ている。

うーん…
並んでいる私、どう見られているんだろう。なんであんな子が?とか思われていたりするんだろうか。

期末試験が終わってからすぐに夏休みに突入してしまったから、及川くんと私が付き合う事態になっていることは、まだみんな知らない。けれど、休み明けに知られたら、とても大変なんじゃないかなと思う。

まぁ、それまで付き合っていればの話だけれど…

「あ…、楓音ちゃん、見てコレ」

「うん?」

「来週末、お祭りだって。花火やるっぽいよ」

「ほんとだ…」

「行こうか」

「ううん」

「コラ、おまえ彼女だろうが」

彼女…
果たして私は彼女と言っていいんだろうか…

及川くんのことが好きかと聞かれたら100%違うし、私はそこでYESと言えるほど身のほど知らずでもない。

「5時に迎えに行くから、浴衣着てきて」

「勝手に決めないでよ…」

「着てよ。せっかく可愛くなったんだから」

大きな手が私の頭を撫でて、嬉しそうな顔で笑う。

可愛くなったとか言って、そんな笑顔で説得してきて。私のこと好きでも何でもないくせに、何を考えているのだろう、この人は。

でも、浴衣か…
去年、お母さんが買ってくれたのが家にある。そんな可愛い柄、私に似合うわけないよって言って、まだ一度も袖を通していなかった。

「浴衣着たら、お母さん喜ぶかも…」

「じゃあ、決まりね。5時に家に迎えに行くから」

「うん。え、家? む、迎え…?」

「大丈夫。ちゃんと優等生な猫かぶって行くし」

「だ、大丈夫って…、え?」

「大丈夫、大丈夫」

その日、私がいくら抗議しても、及川くんは笑顔で大丈夫を繰り返し、私の抗議が受け入れられることはなかった。
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