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~9. 暗闇と光~
帝国の戦略
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アレクの授業の中で特に好きだったのは剣術の時間。だけど、それとは別にもう一つ、僕が興味を持ったものがあった。
「ねぇ、アレク。この国では、なんで農作物の税金が極端に低いの」
「あぁ、それは国の政策だな」
そう言って、アレクがセントレア帝国と周辺国の地図を開く。
「南海に面しているセントレア帝国は、温暖な気候を持ち、農業が盛んだ」
地図上で指差されたセントレア帝国。大陸の南に位置し、東西と南の三方向を海で囲まれ、北は僕が生まれたレリック公国と国境を為している。
「食べ物が豊かだからこそ、昔から民も穏やかで争いが少ない」
「うん」
「一方で、北方の国々は、セントレア帝国と状況が真逆だ。厳しい気候ゆえに、作物が満足に取れない」
「……」
「こういった国では民の不満を武力で抑える傾向がある。そして、豊かな土地を手に入れるため、南へ向かって侵略を繰り返してきた」
そう言って、アレクが北方の国を差していた指を、セントレア帝国の方向へと降ろしていく。
「この状況に、セントレア帝国が打った手が二つ」
「二つ…?」
「あぁ。一つは、お前も学んで知っているだろうが、当時、レリック公爵領だった地域をセントレア帝国から切り離し、緩衝地帯を作った。今のレリック公国だな」
確かにそれはレリック公国にいた時にも習ったことだ。最も、レリック公国では "建国神話" として、初代公国王の武勇伝めいた逸話も付け加えられていたけれど。
「もう一つは、北方の国々の食料の供給源になる政策。これがさっきのお前の質問の答えだな」
「…?」
「農作物を破格の取引額で北方の国々に輸出し、食料の入手をセントレア帝国に依存させる」
「……」
「食料が手に入れば、南へ攻める理由がなくなる。攻めたとしても、食料供給はこっちに握られているんだ。兵糧攻めなり何なりすればいい」
なるほど…。武力で攻めてくる敵を、武力で返すだけが答えではないということか。セントレア帝国が取ったその政策に感心すると共に、面白さを感じた。
「国を守るために何ができるか。武力も大事だが、頭を使い、安定した仕組みを考える方が、一つの戦いに勝つよりも価値がある」
「うん」
そう頷きながら、ふと、レリック公国が生き残る戦略には何があるのだろうと思った。僕は、父上や国策に関わる人たちがどんな政策を考えているのかを何も知らない。
もしあの城に戻れる未来があるのなら、聞くことができるだろうか。そして、僕もレリック公国を守るために何ができるのかを、共に考えていきたい、そう思った。
「ねぇ、アレク。この国では、なんで農作物の税金が極端に低いの」
「あぁ、それは国の政策だな」
そう言って、アレクがセントレア帝国と周辺国の地図を開く。
「南海に面しているセントレア帝国は、温暖な気候を持ち、農業が盛んだ」
地図上で指差されたセントレア帝国。大陸の南に位置し、東西と南の三方向を海で囲まれ、北は僕が生まれたレリック公国と国境を為している。
「食べ物が豊かだからこそ、昔から民も穏やかで争いが少ない」
「うん」
「一方で、北方の国々は、セントレア帝国と状況が真逆だ。厳しい気候ゆえに、作物が満足に取れない」
「……」
「こういった国では民の不満を武力で抑える傾向がある。そして、豊かな土地を手に入れるため、南へ向かって侵略を繰り返してきた」
そう言って、アレクが北方の国を差していた指を、セントレア帝国の方向へと降ろしていく。
「この状況に、セントレア帝国が打った手が二つ」
「二つ…?」
「あぁ。一つは、お前も学んで知っているだろうが、当時、レリック公爵領だった地域をセントレア帝国から切り離し、緩衝地帯を作った。今のレリック公国だな」
確かにそれはレリック公国にいた時にも習ったことだ。最も、レリック公国では "建国神話" として、初代公国王の武勇伝めいた逸話も付け加えられていたけれど。
「もう一つは、北方の国々の食料の供給源になる政策。これがさっきのお前の質問の答えだな」
「…?」
「農作物を破格の取引額で北方の国々に輸出し、食料の入手をセントレア帝国に依存させる」
「……」
「食料が手に入れば、南へ攻める理由がなくなる。攻めたとしても、食料供給はこっちに握られているんだ。兵糧攻めなり何なりすればいい」
なるほど…。武力で攻めてくる敵を、武力で返すだけが答えではないということか。セントレア帝国が取ったその政策に感心すると共に、面白さを感じた。
「国を守るために何ができるか。武力も大事だが、頭を使い、安定した仕組みを考える方が、一つの戦いに勝つよりも価値がある」
「うん」
そう頷きながら、ふと、レリック公国が生き残る戦略には何があるのだろうと思った。僕は、父上や国策に関わる人たちがどんな政策を考えているのかを何も知らない。
もしあの城に戻れる未来があるのなら、聞くことができるだろうか。そして、僕もレリック公国を守るために何ができるのかを、共に考えていきたい、そう思った。
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