【完結】雷の夜に

緑野 蜜柑

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5-2 (番外編)

「た、ただいま…」

空港の到着ゲートまで迎えに行った俺の顔を見るなり、檜山は視線をそらして、そう言った。

避けられていた時のように少しぶっきらぼうで、一瞬、何かやらかしてしまったかと焦ったが、すぐに檜山の耳が真っ赤なことに気付いた。

2週間離れていた間に俺との接し方がわからなくなったといったところだろうか。なんとなく檜山のパターンが読めてきた。

少し疲れが見える。出張中、ハードだったのだろう。俺は檜山の腕を引くと、そのまま抱き寄せた。

「ちょ…っ!? 村瀬…!」

「おかえり、檜山…」

「こ、公共の場所だから、ここは…!」

腕の中でそう慌てる檜山をギュウっと抱き締める。公共の場ではあるが、再会した恋人がこうしているのはある意味自然な場所でもある。たった2週間の出張にしては大げさだが、事実、それぐらいの気持ちで待っていた。

抱き締めたままの俺に観念したのか、檜山はおずおずと控えめに抱き締め返してくれた。

「アメリカで、いい仕事できた?」

「お、おかげさまで…」

「なら、良かった」

檜山のことだ。そこは何も問題ないだろう。そう思いながら、ふと、檜山のキャリーケースが視界に入る。

「ちなみにさ、檜山…」

「うん…?」

「そのキャリーケースはどうだった?」

「─…っ!?」

檜山の顔を覗き込む。頬がみるみる赤くなっていくのを見て笑う。

意図はもちろん、このキャリーケースに手をつかせて抱いたあの夜を、出張中に思い出してくれたかどうかということだ。そして、この反応を見る限り、俺のその思惑は成功だったのだと思う。

「エッチだなぁ、檜山は…」

「違…っ! 誰のせいだと思ってんの…!」

真っ赤な顔で必死にそう抗議する檜山が愛しくて、俺はもう一度ギュウっと抱きしめた。



「え、寄っていかないの…?」

檜山をマンションまで送り、玄関で別れようとした俺に、檜山がそう聞いた。

「うん。明日また来るよ。今日はゆっくり休んで」

「そう…、わかった」

残念そうな表情で檜山がそう答える。

今日は寄らないと決めていた。このままここにいたら、今夜は我慢どころか抱き潰してしまう自信がある。

今日は一人でゆっくり休ませた方がいいし、俺自身も、この浮ついた気持ちを一晩落ち着かせた方がいい。

…のだが。そんな残念そうな可愛い目で見ないでほしい。

檜山に手を伸ばし、柔らかい頬を包む。くすぐったそうに首をすくめた檜山の顔をこちらに寄せて、2週間ぶりのキスをした。

「ん…っ」

檜山の匂い。柔らかい唇の感触。
触れるだけのキスをして唇を離す。今はこれだけで充分だ。

「今日はゆっくり休んで、明日たっぷり抱かせて」

「あ…、明日って…、そういう、意味…」

恥ずかしそうに俯く檜山の頭を撫でると、俺は檜山のマンションを後にした。
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