18 / 60
本編
10、結構経ちました
しおりを挟む
─ガサリ、と生け垣から音がした。あの葉っぱの塊に逃げ込んだのは確かにこの目で見たのだが、朝からの追いかけっこに流石に体力の限界が近かったため、追い付くのがやっとであった。
だがしかし。とうとう追い詰める事ができた。生け垣の後ろは壁、前には俺がいる。もはや逃げられまい。
「…さぁ、どうする?」
生憎、いい感じ木の棒しか手持ちの武器がないが、ただの脅しなのでわざと音を出して振り回す。
どうやら観念したのだろう。隠れるのを止めたソイツは、ガサガサッと勢いよく生け垣から飛び出してきた。
「やっと姿を表したな。覚悟しろ」
飛び出したソイツと睨み合う。お互い、相手の行動を読み取り先手を打つために少しも動かない。
数分とも思える数秒後、俺たちは同時に動いた。
そして……─
「───捕ったぁぁぁ!!!!」
「うにゃっ!?」
【身体強化】を使った俺の跳躍は見事、ソイツの体を捕らえる事に成功した。暴れるソイツを両腕で抑え、顔や腕を引っ掻かれつつも依頼者の元へと連行する。暫くすれば諦めたのか、特に抵抗もしなくなった。
それより、この傷どうしよう。ラナさんに見られる前に治さなきゃなぁ…
そんなことを考えつつ、依頼者の元へと向かう。現在の時刻はお昼過ぎ。思ったより時間が掛かってしまったが、今なら依頼者は王宮の庭から裏に回った小屋にいるはずだ。
少し距離があるので早足で急ぐ。早くしないとラナさんに見つかるからだ。
裏に回るとすぐに、ログハウスのようなこじんまりとした小屋が見えた。普通に一軒家と聞いても違和感はないのだが、あれで半分物置小屋として使われているのだから、流石王宮である。
ドアをノックすれば、中から男性の声が聞こえた。依頼者は確かに男だったが、今聞こえた声は依頼者ではない。しかし、何処かで聞いたことのある声だった。
ドアを開けることを躊躇してしまった俺は、逃げることも間に合わず内側から開けられてしまった。開いたドアの先には、なんだか既視感のある光景。
まず目に入ったものと言えば、こちらを睨み付けてくる赤い目である。
何でいるんですか、赤目の騎士さん……
事の始まりは、三日ほど前のことである。
実は、この世界に召喚されてから既に三ヶ月が経っていた。騎士団の人たちとの稽古も毎日しており、スキル任せとは言え体力もいくらか付いてきた。
はじめは文句を言っていた赤目の騎士さんも、俺がある程度戦えると分かってくれたのか、度々稽古を手伝ってくれた。
ちなみに、王子は呼んでもないのに来てはリーダーさんに回収されるというのが三日に一回はあった。
………嘘つきました。二日に一回です。というか、週五である感じです。正直邪魔にしかなっていない。
そんなこんなで、お城の使用人の人たちとも順調に交流を増やしていったこの三ヶ月。お手伝いとの名目で色々情報収集をしてみた。
まず、侍女さんの手伝い。この世界には勿論洗濯機などの便利なものはない。代わりに、生活魔法という誰でも使える簡単な魔法が普及していた。
それは属性を持っていなくても使える魔法で、例えば火属性しか持っていない人でも水属性である洗濯用の魔法が使える、とか。
クリーン魔法というよく見るような、自分や他のものを綺麗にできる魔法も生活魔法のひとつで、よく使われている。
それとは別にあるのが洗濯魔法。やっぱり服は服で洗って、自分はお風呂で洗いたいよねって人向けの魔法だそう。使うと水がジャバーッとなって風でファサッてなる。
語彙力?いやもうよく分かんないんだよ。一瞬で終わるから効果音でしか説明出来ない。
やり方を説明したら分かるかもしれないので、とりあえずやり方を説明しよう。
1、大きな桶に洗濯物と水をいれる。水は洗濯物がヒタヒタになるくらい。
2、石鹸を少し削っていれる。この時、アロマオイルのようなものも入れるととてもいい匂いがつく。
3、洗濯魔法をかける。すると桶の中身が浮いて、洗濯機の中みたいにグルグル回る。
4、水だけが桶に落ちて、最後に風で乾かされて終わり。
以上、洗濯魔法の使い方である。一から説明したら語彙力復活したわ。つまり、洗濯魔法は風属性に分類されるそう。
水は井戸から組んでもいいし、自分で出してもいい。魔法は、基本の火水風土はその属性を持っていなくても多少使えるらしく、自分で水を出す人が多い。
それでも、やっぱり得意不得意があるみたいで侍女の人の中には井戸を使ってる人もいた。
ちなみに、ルーファスさんにこの生活魔法について何で教えてくれなかったのかを聞いたら、
「僕、実は生活魔法が何故か使えないんだ…だから忘れていたよ…」
との返事を頂いた。とても悲壮感漂う目をしていた。申し訳ございませんでした。
でも、そんなルーファスさんは普通に魔法を使ってクリーン魔法のような魔法を使っていた。それは使用魔力量の問題で一般人は使えないんだそう。
ルーファスさんやっぱ強い人なんだな。
次に、騎士団の手伝い。これは暇してる騎士の人と稽古をしたり、模擬戦のときに使う武器の手入れをするだけで終わった。特に収穫は無し。
そして、最近はもっぱら庭師の人たちの手伝いをしている。
庭師の人たちは、どうやら属性が土と風が多いらしい。属性で惹かれてこの仕事についたのかも知れないと聞いた時は、もしかしたら性格と持ってる属性は比例するのかもしれないと思った。
だって、ラナさんとか凄い大人しそうなのに爆炎の魔導師だもん。そんでもって意外と好戦的だし。騎士さんと喧嘩してるときのラナさんはとても良い顔をしている。そんなに楽しいのだろうか、喧嘩。
でも、複数持ってる人はどうなんだろう。一つだけの人の方が強く属性に引っ張られるのかもしれない。
話がずれた。庭師の仕事の手伝いは、土魔法で庭に栄養を与えることと、風魔法で雑草刈り、そして水魔法で水やりをした。
栄養を与える、がいまいちよく分からなかったが、魔力を通すと植物がよく育つのだという。だから、水やりも出来るだけ魔法でやるのだとか。
綺麗な花が沢山ある庭だけじゃなく、裏手の方にはハーブや野菜の畑もあった。
勿論、そちらも手伝おうと思っていたのだが、庭師のおじいさんに別の頼まれ事をされた。
何でも、最近畑荒らしが出るらしい。
だがしかし。とうとう追い詰める事ができた。生け垣の後ろは壁、前には俺がいる。もはや逃げられまい。
「…さぁ、どうする?」
生憎、いい感じ木の棒しか手持ちの武器がないが、ただの脅しなのでわざと音を出して振り回す。
どうやら観念したのだろう。隠れるのを止めたソイツは、ガサガサッと勢いよく生け垣から飛び出してきた。
「やっと姿を表したな。覚悟しろ」
飛び出したソイツと睨み合う。お互い、相手の行動を読み取り先手を打つために少しも動かない。
数分とも思える数秒後、俺たちは同時に動いた。
そして……─
「───捕ったぁぁぁ!!!!」
「うにゃっ!?」
【身体強化】を使った俺の跳躍は見事、ソイツの体を捕らえる事に成功した。暴れるソイツを両腕で抑え、顔や腕を引っ掻かれつつも依頼者の元へと連行する。暫くすれば諦めたのか、特に抵抗もしなくなった。
それより、この傷どうしよう。ラナさんに見られる前に治さなきゃなぁ…
そんなことを考えつつ、依頼者の元へと向かう。現在の時刻はお昼過ぎ。思ったより時間が掛かってしまったが、今なら依頼者は王宮の庭から裏に回った小屋にいるはずだ。
少し距離があるので早足で急ぐ。早くしないとラナさんに見つかるからだ。
裏に回るとすぐに、ログハウスのようなこじんまりとした小屋が見えた。普通に一軒家と聞いても違和感はないのだが、あれで半分物置小屋として使われているのだから、流石王宮である。
ドアをノックすれば、中から男性の声が聞こえた。依頼者は確かに男だったが、今聞こえた声は依頼者ではない。しかし、何処かで聞いたことのある声だった。
ドアを開けることを躊躇してしまった俺は、逃げることも間に合わず内側から開けられてしまった。開いたドアの先には、なんだか既視感のある光景。
まず目に入ったものと言えば、こちらを睨み付けてくる赤い目である。
何でいるんですか、赤目の騎士さん……
事の始まりは、三日ほど前のことである。
実は、この世界に召喚されてから既に三ヶ月が経っていた。騎士団の人たちとの稽古も毎日しており、スキル任せとは言え体力もいくらか付いてきた。
はじめは文句を言っていた赤目の騎士さんも、俺がある程度戦えると分かってくれたのか、度々稽古を手伝ってくれた。
ちなみに、王子は呼んでもないのに来てはリーダーさんに回収されるというのが三日に一回はあった。
………嘘つきました。二日に一回です。というか、週五である感じです。正直邪魔にしかなっていない。
そんなこんなで、お城の使用人の人たちとも順調に交流を増やしていったこの三ヶ月。お手伝いとの名目で色々情報収集をしてみた。
まず、侍女さんの手伝い。この世界には勿論洗濯機などの便利なものはない。代わりに、生活魔法という誰でも使える簡単な魔法が普及していた。
それは属性を持っていなくても使える魔法で、例えば火属性しか持っていない人でも水属性である洗濯用の魔法が使える、とか。
クリーン魔法というよく見るような、自分や他のものを綺麗にできる魔法も生活魔法のひとつで、よく使われている。
それとは別にあるのが洗濯魔法。やっぱり服は服で洗って、自分はお風呂で洗いたいよねって人向けの魔法だそう。使うと水がジャバーッとなって風でファサッてなる。
語彙力?いやもうよく分かんないんだよ。一瞬で終わるから効果音でしか説明出来ない。
やり方を説明したら分かるかもしれないので、とりあえずやり方を説明しよう。
1、大きな桶に洗濯物と水をいれる。水は洗濯物がヒタヒタになるくらい。
2、石鹸を少し削っていれる。この時、アロマオイルのようなものも入れるととてもいい匂いがつく。
3、洗濯魔法をかける。すると桶の中身が浮いて、洗濯機の中みたいにグルグル回る。
4、水だけが桶に落ちて、最後に風で乾かされて終わり。
以上、洗濯魔法の使い方である。一から説明したら語彙力復活したわ。つまり、洗濯魔法は風属性に分類されるそう。
水は井戸から組んでもいいし、自分で出してもいい。魔法は、基本の火水風土はその属性を持っていなくても多少使えるらしく、自分で水を出す人が多い。
それでも、やっぱり得意不得意があるみたいで侍女の人の中には井戸を使ってる人もいた。
ちなみに、ルーファスさんにこの生活魔法について何で教えてくれなかったのかを聞いたら、
「僕、実は生活魔法が何故か使えないんだ…だから忘れていたよ…」
との返事を頂いた。とても悲壮感漂う目をしていた。申し訳ございませんでした。
でも、そんなルーファスさんは普通に魔法を使ってクリーン魔法のような魔法を使っていた。それは使用魔力量の問題で一般人は使えないんだそう。
ルーファスさんやっぱ強い人なんだな。
次に、騎士団の手伝い。これは暇してる騎士の人と稽古をしたり、模擬戦のときに使う武器の手入れをするだけで終わった。特に収穫は無し。
そして、最近はもっぱら庭師の人たちの手伝いをしている。
庭師の人たちは、どうやら属性が土と風が多いらしい。属性で惹かれてこの仕事についたのかも知れないと聞いた時は、もしかしたら性格と持ってる属性は比例するのかもしれないと思った。
だって、ラナさんとか凄い大人しそうなのに爆炎の魔導師だもん。そんでもって意外と好戦的だし。騎士さんと喧嘩してるときのラナさんはとても良い顔をしている。そんなに楽しいのだろうか、喧嘩。
でも、複数持ってる人はどうなんだろう。一つだけの人の方が強く属性に引っ張られるのかもしれない。
話がずれた。庭師の仕事の手伝いは、土魔法で庭に栄養を与えることと、風魔法で雑草刈り、そして水魔法で水やりをした。
栄養を与える、がいまいちよく分からなかったが、魔力を通すと植物がよく育つのだという。だから、水やりも出来るだけ魔法でやるのだとか。
綺麗な花が沢山ある庭だけじゃなく、裏手の方にはハーブや野菜の畑もあった。
勿論、そちらも手伝おうと思っていたのだが、庭師のおじいさんに別の頼まれ事をされた。
何でも、最近畑荒らしが出るらしい。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,558
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる