巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。

蒼霧雪枷

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オマケ

旅路─コミュニケーション取ろうぜ(後編)

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 俺のリンドウに対する第一印象はよくわからない子供であったが、次第にそれは目を離したらすぐにでも消えてしまいそうな奴に変わっていった。
 剣を習いたいと訓練場に来たと思えば、別にいつ死んでも構わないと言う。果物しか口にせず食事を疎かにする割りに、侍女から貰ったお菓子を美味しそうに食べたり。無感情なのかと思えば、案外無邪気に笑ったり。
 生に執着はなく、かと思えば食べることを楽しんだり。面倒がっていたと思えば、予想外な無茶をする。
 矛盾していて、ふらふらとしていて、綿毛のように風で飛ばされてしまいそうで。どうしても、この場に繋ぎ止めたいと思ってしまった。
 女だと気づいた後、その感情は顕著になった。過去の話を聞いて守ってやりたいと思った。
 今までの令嬢に対する感情とはまるで違う。自分以外の騎士に…いや、男に守らせたくない。そこでようやく、俺は彼奴をただの保護対象と見ていないことに気づいた。
 俺より小さいからではなく。俺より力がないからではなく。身体だけではなく、精神も守りたいと。
 リンドウの拠り所になりたいと、そう強く思った。

「キノに会って、彼奴を気にするお前にモヤモヤとしたこともある。いくら兄弟のような関係だとしても、俺以外の男に意識を向けて欲しくない…これを恋と言わずしてなんと言う?」
「…………」
「どうしたリンドウ。顔が真っ赤だぞ?」
「…軽率に、聞いたおれが、悪かった、です…」
「お前は自分に魅力がないと思っているようだが、存外可愛らしいことを自覚してほしいものだな。お前が一人で行動していると輩に絡まれないか心配で心配で…」
「頼むからキャパオーバーしてるとこに追い討ちかけんの止めてください!!!!」

 わっ!と手で顔を覆って隠す。滅茶苦茶に熱いのが分かる。さっき言われた通り、俺の顔は真っ赤なんだろう。
 ポツポツと話された内容に、俺の精神ライフはゼロに近い。確かにプロポーズ紛いなことは前に言われたが、まさかここまでガチだったとは。
 俺の質問に対する赤目さんの返答はあまりに真っ直ぐ過ぎた。これ本当に全部話したな。何で俺がダメージ負ってるんだ。

 正直今すぐ赤目さんの膝の上から降りたいのであるが、やはり許してくれないようで肩から手が離れてくれない。顔を覆ったまま唸っていれば、手首を捕まれベリッと手を剥がされた。
 と思えば、何かめっちゃ近い所に赤色が。

「ぇ、ちょ、ちか…」
「お前はどうなんだ?」
「…はぇ?」
「お前は、リンドウは俺のことをどう思っている?」

 どう、とは。そんなことより赤目さんの顔が近い。とにかくこの人顔が良いんだよ、至近距離でこれはちょっと頭が真っ白になるから止めてほしい。
 俺が赤目さんをどう思ってるか?えぇ、なんだろ…頼れる、とか?安心感ー、は、現在進行形なせいで否定できないし…顔が良い。うん。信頼も、してるかな。善くも悪くも真面目だし、約束守ってくれるし。
 説教してくることも多いけど、まぁ心配してくれてることぐらい分かる。あとゴリラ。この人の筋力はゴリラだ。間違いない。

「何か失礼なこと考えてないか?」
「気のせいダヨ」

 ゴリラは誉め言葉みたいなもんだ。気にしないでほしい。
 しかし、これはあれだな。これは、恋とは呼べないな。別に誰にだって向けれる気持ちだ。特別とは言えないし、赤目さんの気持ちに答えられる程のものではない。

 そう考えていれば、至近距離の赤い瞳が俺の目を覗き込んできた。ちょっとでも動こうものなら、色々ぶつかるであろう距離。
 また、顔が赤くなった気がした。

「迷うのなら、今から俺の質問に答えてくれ」
「…へ?」
「例えば、俺が知らない女性と親しげに会話をしていたらどう思う?」

 突然の質問に疑問が止まらない。なにその質問。赤目さんが知らない女性と親しげに話してたら?えー、と…

「やっぱ赤目さんってモテるなー……?」
「それだけか?」
「え、うん」
「そうか…俺はお前が知らん男と会話していたら嫌だ。知り合いでも嫌だ」
「そうなんだ…?」
「次の質問だ。例えば、オレが知らない女性と結婚するから旅を止めると言ったら、どうする?」

 なんだそのシチュエーション。あり得なくはないだろうが、ちょっと意図がわからない。旅を止める、ねぇ……

「それは、ちょと寂しい、かな?」
「ちょっとなのか…」
「いや、だってさ、それが赤目さんの選択なら俺がどうこう言う権利はないと思うんだよね。俺が我が儘言ったって、関係ないんだから」

 間違ったことは言っていない筈だ。誰だって、他人に自分の未来に口出しされたくないだろう。意見として受け入れられても、それを踏まえて決めるのは本人だ。そこに他人が介入すべきではない。
 だと言うのに、この距離感が近い騎士サマは何故こうも不満そうなのか。言いたいことがあるならはっきり言いやがれ。

「はぁ…キノの言っていた意味が分かった。お前、予想以上に自己評価が低いな?」
「あ?どんな話の流れでそうなった」
「無自覚なのが困る…つまり、お前は俺の選んだことなら否定しないんだな」
「まぁ、そうなる、な…?」
「よし、結婚しよう」
「ん~~???そうくるか~~」

 だからどういう流れでそうなった。結局今の質問タイム何だったの?これからあり得る赤目さんの未来の話されても、ちょっとよく分かんな……あ。

「もしかして今の、俺が嫉妬するかどうかの質問か」
「む、やっと気づいたか」
「はえー…じゃあ、赤目さんは俺が突然好きな人が出来たって言ったらどう」
「そいつに勝負を挑む」
「食いぎみ即答過ぎて笑う」

 やっぱり、俺と赤目さんの感情は違うんだろうな。俺はここまで嫉妬しないし、赤目さんが知らない人と話していてもきっと何も思わない。
 などと考えていれば、至近距離にある赤い目に睨まれた。なんじゃい。

「別に俺は、俺と同じだけの想いを持って欲しいとは言わない。少しだけでもいいんだ」
「あ、そうなんだ」
「出来るなら同じだけ想って欲しいが…俺が重いのは自覚させられた」
「したんじゃないのか…」
「……ラナに相談したら、割りと重い、と…」

 あー、ね?ラナさん、赤目さんに対してはかなりバサッといくからね。落ち込んでるところを見るに、かなり手酷く言われたんだろうな。
 しかし、実を言うと俺も薄々そう思ってた。みゃーのと二人で依頼に行ったときとか、一人で街を歩いてたりするときとか。何か機嫌悪そうに近づいて来たと思ったら、しばらくそのままくっついてくるんだもん。
 今思うと、あれ多分牽制だ。明らかに周りを睨んでた。初めは俺の迷子を心配してるのかと全然気にしなかったんだが、最近みゃーのにツッコまれて気付いた。

 ところで、同じだけの想いを返さなくてもいいと言うのは何の話だ。つか、あれ?何の話してたんだっけ?

「ただな、俺はお前と違って鈍感ではない」
「え、なんで急に貶されたの俺」
「お前の国には、据え膳食わぬは男の恥、という言葉があるらしいな?」
「…………………え」
「俺は、気が長い方ではないぞ?」

 据え膳食わぬは、の、意味は確か……ただでさえ近い顔が、更に近づいて─

チュッ

 軽いリップ音が、から聞こえた。
 思わず瞑ってしまった目を開けば、獲物を狙う獣のような目のまま笑う赤目さんの顔が見えた。

「ふっ。何だ、口にしてほしかったのか?」
「…………酔って人のファーストキス奪った奴がよく言う…」
「セカンドもサードも奪ったし、なんならそれ以上のこともしかけたが?」
「ドヤ顔すんな変態!」
「男は皆変態なんだ。肝に命じておけ」

 コイツ、開き直りよる…!一応、俺にだって羞恥心っていうものはあるんだぞ!
 あの時は、酔っぱらい相手だったのとあまりの勢いに動揺していたが、後々考えると大分恥ずかしかったんだからな!
 この野郎と睨み付ければ、またしても顔を近づけられた。が、しかし!先に赤目さんの口を手で塞ぐことに成功!はっはっはー!これで何も出来まい!!

「…………」
「……………」
「……………………(ペロ)」
「ミ"ッ!?!?」
「甘いなリンドウ!!お前の手など簡単に剥がせるのだ!!」
「その前に手を舐めるとかバカなの!?!?!?」

 舐められた!物理的に!!森探索してたし、普通に地面とか触ったりもしたのに!!!……いや、よくよく考えればクリーン魔法っていう便利なものあったわ。さっき濡れたからかけてたわ。じゃあお腹壊したりはしないな。
 心配するとこそこじゃない気もするけど、取り敢えず一安心。

 じゃない!!両手首捕まれた!!片手で!!何か悔しい!!!だから何で身体強化使っても振りほどけないんだ!!!
 狼狽える俺に、笑う赤目さん。あぁ、くそ、滅茶苦茶に悔しい。何が一番悔しいって…

 別に嫌じゃないと思ってしまったのが一番悔しいんだよ!!









次の日。

「ねぇ、しおちゃん。赤目さんと喧嘩でもした?なんで君ら帰って来てからそんなに機嫌悪いの?」
「知らん。知らんったら知らん!!」
「赤目さんのほっぺに赤い手形があるんだけど…」
「そこら辺の女の人とトラブったんじゃねぇの!!」
「手順すっ飛ばして襲われでもした?うちの兄貴みたいに」
「ゴホッ…なんっ……いや、ちが…」
「ちゃんとコミュニケーション取れたようで安心したよ!!今日の晩御飯はお赤飯でも炊く?」
「はぁ!?」
「式にはちゃんと呼んでね?勿論、兄貴のことも」
「だっ…誰が呼ぶかーー!!!!」


「あ、式については否定しないんだ。ふーん?」





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