22 / 83
三章 人形部隊(ドールズ)
一
しおりを挟む「うわぁあああああああ!?」
エメレオ・ヴァーチンは端的に言って詰んでいた。
μをボコボコにしたと思しい傭兵男の鼻を明かしてやったと悦に浸る暇もなく、いるだろうと思っていた別働隊から予想外の強襲を受けていた。
「MOTHERの支援システム、施設車には組み込まれてなかったんだねぇ!」
叫びながら、自動運転機能をカットし、今時珍しいフル・セルフの運転でアクセルを踏みまくる。当然信号は無視、交通違反も大量に犯しているため、警告音がびーびーと鳴り響いてやかましいがそれどころではない。この前のドローンが可愛いものに思えてくるほどの武装小型ヘリの集団に追いかけ回されているのだ。緊急サイレン装置も遠慮なく起動して、半分合法半分違法の暴走逃走車両と化した施設車の寿命を少しでも延ばすべく、エメレオは次々と前方を自動運転でのんびり走る車両たちを追い越していた。
「ちくしょう、僕は運転なんて得意じゃないんだけどなぁあああああ!」
奇跡のように、背後からヘリが撃ってくる攻撃は、自動車の堅めの防弾仕様で八割ほどは防げていた。というのは、撃たれるたびに天井が少しずつ低くなっているから、なのだが。
そのうち僕の首縮むよねコレ、と青ざめながら、止まってしまっては一巻の終わりと、エメレオは必死の逃走劇を試みる。
『〝パペット〟、もう少し持ちこたえてくれ! 今そちらに応援が到着する!』
「正直、もう百秒も保たせる自信はないんだけどねぇ……」
弱々しい答えを返す残念な天才の頭脳は、ひしゃげた天井の強度計算も何となく弾き出している。たぶんあと十数発で弾が貫通して、その次の一発で細切れになるんだろうな、と。
その次はどうしようかなぁ、と溜息をつく。
「いくら僕が天才だからって、神さまは無茶をさせすぎだって……」
蛮勇を振るって成功するほど反射神経がいいわけでもない。天才といえど、才能以外はてんで凡人なのだ。何だったら片付けも得意じゃない。μが訪れた部屋が綺麗だったのは、昨日死んだ護衛もとい裏切り者のパトリックがことあるごとに「片付けろこのドボケ」とどやしつけて整理整頓を担当していたからである。
そんなことを思い出していたら、さらに嫌な音を立てて車の屋根の形が変わった。もうそろそろ駄目だなぁ、と諦観を覚えていると、フロントガラス越しに見える前方の景色に、ふわっと躍り出た影が見えた。
「――、っ!」
エメレオはその影の正体を認めた瞬間、ブレーキを強く踏みこんだ。
車と併走していた小型ヘリが、急制動をかけた車を一瞬背後へ置いてけぼりにし、慌てて反転。火器の銃口をこちらに向け、発砲。
一発目がフロントガラスに着弾し、二発目が粉々にガラスを砕き、三発目は運転席に突き刺さった。
――だが、その時には、もう、エメレオの姿は車内にはない。
「うわぁあああああああああああああ!?」
速度を落としたとはいえ、それなりの速さだった車から転げ落ちるように脱出していたエメレオは、ごろごろと数回無様に転がったあとで、無我夢中で携帯用のメッシュシールドを前方に向かって展開した。
(一、二発でいい! 耐えてくれ!)
ばすんばすんと鈍い音を立てて砲撃を受け止めたシールドは、三発目であえなく決壊し、硬化した破片がエメレオの肩口をかすめていった。
「ゔっ!」
鋭い痛みに耐えつつ、ぬるりと溢れ出る血を押さえて、エメレオは走った。
科学者の体を、ついに無慈悲にも弾丸が粉砕しようとして――、
「させるものか」
それを、恐るべき反応速度で叩き落としたアンドロイドがいた。
護衛対象のエメレオと合流するべく、空中で施設車めがけて停止の手指示を出していたTYPE:εεであった。
「イプシローーーーーーーーン!」
感激のあまり泣き叫ぶ科学者にやや呆れた目を向けつつ、εは片手間に手にしていた遠距離砲装で小型ヘリを正確無比に撃墜していく。アンドロイド二十四体のうちで好成績を保持しているというのは伊達ではなかった。
「何だって科学者一人に、僕たちがこんなに振り回されるんですかね……準戦略兵器を三体も運用するような事態なんて、戦争でも始まるんですか?」
ぼやきながら、εは眉を潜めた。追撃とばかりにあとからやってきた小型ヘリの部隊を認めたからだ。
「…………まさか、本当に?」
「――ヘリは国内製だけど、よく見ると武器の種類が違う」
εが築いていた硬化バリケードの影に飛び込んだ科学者は、傷の痛みに息を荒らげながら呟いた。のほほんとした普段の言動に似合わぬ、鋭い目線がεに投げかけられた。
「エントの武装だ」
「――彼の国が、経済崩壊回避を言い訳に戦争の準備をしているという噂がありましたが。事実でしたか。相手が同盟国とは、節操もない」
自身のエネルギー発生機関経由でリチャージを行うと、εは砲装を構え直した。
「――同盟国だから、さ。そうでなければ、これほどの戦力をこっそり送り込むなんて真似はできない。他国の戦艦や母艦が許可なく指定外の場所に空間転送で領空にやってくることは、シンカナウスの防空装置でほぼ不可能になっているからね。他国間でも言わずもがな、だ」
「その点我が国ならば、合同演習など目的の偽装さえうまくいけば、妨害装置の破壊なしに不意打ちが可能、と」
その通りだ、と科学者は頷いた。
「さっさと装置を破壊してしまえば、戦力を送り放題になる。そして、すべてを攻め落とした暁には、我が国の無類の技術力と生産設備が手に入る。軍事的最強の地位を手に入れたなら、次は経済的な搾取が始まるだろう――ッ!?」
エメレオが最後に声を詰まらせたのは、εが最大チャージを行った砲装で、ひときわ巨大な光線を放ち、ヘリの集団をまとめて焼き払ったからだった。
爆風、爆煙。烈風が押し寄せ、εのこれといった特徴のない焦げ茶の短髪を揺らした。
「――ならば、押し寄せる外敵はすべて薙ぎ払うまでの話です」
赤い炎の光に照らされながら、淡々とεが述べた殲滅宣言に、エメレオは少し青ざめた。
(あれ、もしかして。試用機体たちって、ひょっとして――大なり小なり、けんかっ早かったりするのかな?)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる