ホワイトコード戦記1 シンカナウスより

星白 明

文字の大きさ
23 / 83
三章 人形部隊(ドールズ)

しおりを挟む

「――博士!」
 あとでMOTHERに聞いてみようかな、と、少し悩んでいる科学者の耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
 顔を上げると、二体のアンドロイドが宙を飛んでいる。

「λ(ラムダ)! と――μ(ミュウ)!? 君、どれだけボロボロにされたんだい!?」

 λの後ろで目立たないようにしていたものの、明らかに変形しているμの胸部を目にして、エメレオは愕然とした。同じように憮然としていたμは半眼でエメレオの肩口の傷を見据えている。こっちが必死に守ったのに何をうっかり怪我しているんですか、とでも言いたそうに。
(確か、戦闘型アンドロイドの外郭強度だと、壊すには最低でも数トンから数十トン級の衝撃が必要で――え? 何? あの機械人間、どんな化け物みたいな改造が施してあったの?)
 咄嗟に天才頭脳が強度計算を弾き出したものの、必要出力の数値のでたらめさに自身の脳を疑って計算し直し、やっぱり間違っていないと気づいて青ざめた。
「――あのシステム、実装しておいて正解だったなぁ……」
 そして、「お試し体験だ」と戯れ言のように起動して、彼女を応援しておいて本当に良かった。
 対ドリウス戦のあらましの報告を簡易に聞いて、さらに確信を深める。
 ――おそらく、λの介入だけでは、ドリウスとやらをこれほど早く追い払えなかっただろう。
 MOTHERの動作支援を受けた『だけ』のλでは捉え切れていなかったのだから、相手は機械化された体を扱い慣れた、相当な手練れのはずだった。

「――ともあれ、これで動かぬ証拠が揃った」

 路上に散らばったヘリの残骸から、εがエントのものだとエメレオが断言した武装の破片を拾い上げる。

「MOTHER」
『確認しました。――これより、エントは我が国の敵対国と認定されます。政府は戦争の宣言をするため、急いで準備をしています』
「「!」」
 μとλの顔が強張った。エメレオも静かに目を伏せた。
(ああ――やはり、こうなるか)
 そしてそれが、おそらくMOTHERが予想していたエント側のタイムリミット。技術者、科学者として、厄介かつ高い能力を有するエメレオ・ヴァーチンを、戦争が始まる前、まだシンカナウスが警戒の薄いうちに排除しようとした。
 予感はあった。μが、『燃える都市の中に立つ巨大な人型兵器』の夢を見た、と言った時から。
 アンドロイドが、あり得ぬはずの夢を見る。遠くどこからかの情報入力を受ける。
 それは、魂の定着の証だ。
 夢の内容は、おそらく『予告』だろう。その時に対峙するのはμだという、エメレオにしか分からない指名の知らせ。

 ――時は満ちた。
 エメレオ・ヴァーチンは役割を果たした。

(あとは――どうするか)
 静かにエメレオは思案する。

「……場所を変えたいね。ここでは目立ちすぎる」
 εが周りに目線を走らせながら呟いた。
「でも、どこに?」次の疑問を提起したのはλだ。「施設(ホーム)は研究所だから民間人もいる。何度も狙われた博士がいると、他の人間を巻き込むかも……」
「可能なら、一般人が少なくて、戦力が集まっていて、攻撃にも転じられる場所……軍事基地?」
 μの言葉に、εは悩む。
「確かに僕らは一応、陸軍特殊部隊所属になる予定だけど……まだ正式配属されてないのに、入れてもらえるとは思えないね……」
 アンドロイドたちの会話に、エメレオは顔を上げる。
「MOTHER。出撃後のアンドロイドの帰投場所は変更可能かい? ――関係各所とルプシー司令に許可はとれるかな?」
 ややあって、彼女から応えがあった。
『――本来の予定を前倒しする形で、既に調整は進めてあります。今し方、確認がとれました。こちらの場所へ向かってください。先方に連絡は入れておきます』
「さすがだね」
 MOTHERからの通信を手持ちの端末で受ける。地名を確認して、エメレオは頷いた。

「決まりだ。サエレ基地に向かおう」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

処理中です...