ホワイトコード戦記1 シンカナウスより

星白 明

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一章 10:06:34:49.574

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「うちの防空システムでも抜けないシールドとは恐れ入る。やっぱりウォルター・バレットは亡命が分かった時点で消しておくべきだったんだなぁ」
 空軍第三艦隊司令のカント・シスリー中将は、硬すぎる揚陸艦の様子を映すモニターを前に、暗がりの中でそうぼやいた。
「中将! 揚陸艦の強度計算、結果が出ました! シールドを抜くには当艦の主砲でやっとだそうです」
「あーあ、さてはαーTX3と同等レベルのシールド発生装置が使ってあるな……」
 こんな厄介な装甲技術、バレットが流出しなければエントが持てたかどうか怪しいものだ。
 歯ごたえがありすぎる、とうんざりしながら中将は背後に控える港町に思いを馳せた。こちらが出て押さえなければ、この揚陸艦をオーギル海上空にとどめきれず、上陸を許すことになる。そうなれば陸地の市民の命も戦火の中で散るしかない。この非常時に市民たちの避難が間に合っていないのは、防空システムの穴を突かれた痛恨の失態が響いている。
「一度抜ければ再展開までには押し切れるだろう。主砲用意。再び防空システムの弾幕が弱まるのに合わせ、同時に発砲、攻勢をかけろ」
「はっ!」
 主砲用意、と大声での復唱が司令室に響き渡る。戦艦の主砲が一斉に巨大な光線を放てば、揚陸艦のシールドがかき消えた。
 順当な対応のはずだった。だが、シスリーは嫌な予感を覚えていた。こちらのしかめっ面を認めた補佐官が、あの、と小さく声をかける。
「シスリー中将。気になることが?」
「いやぁ……あんまりにもα-TX3が木偶でくの坊だったなぁってね……」
(あれほどのデカブツとはいえ。ウォルター・バレットはエメレオ・ヴァーチンと制御体作成マザー・パイロット計画で張り合ったほどの技術者だ)
 それがあんな押せば転ぶ程度の張りぼて砲台を並べただけで満足するだろうか? 後ろから兵士だけを詰めた揚陸艦を派遣するだけで終わるだろうか? そもそも向こうの戦略がそれほどずさんな作戦を許すか?
 問いには全て否が返る。どう考えても、何かある。
「さすがにない。十中八九、あれは陽動か演技だろう。とすると、本命は別のところに存在するべきだ」
 最初に彼らは港町を攻撃した。あれは有事には軍事拠点にも転用できる作りだった。それをまずα-TX3で潰したのだから、こちらの機能を無力化させるか、あるいはより内陸寄りの後方へ陸上の最前線を下げることを目的としていたことは想像できる。
(〝露払い〟か。そしてこのやけに硬い揚陸艦。中に何を載せている?)
 ふと、出撃の途上、流し聞いていた対策会議の内容が脳裏を過った。
(『α-TX3はシンカナウスとエントが途中まで共同開発を行っていたものです。一キロ以上にも及ぶ巨大さゆえ、平時は移動は自力で行う他に――』)
『部位ごとに分解しての移動を想定している』。いや、違う、気になるのはそこではない。
『平時は移動は自力で行う』。
 海上に展開するのに浮かぶだけだったのは、アンドロイドたちの機転が想定外だっただけではなく、あえて最低限の移動能力しか、持たせなかったのではないか?
 例えば――巨大なランドマークは、嫌でも目を引くものだ。
「――ああ、そうか」
 呟いた瞬間、シールドを失った揚陸艦の基底部が、空中へ向かって巨大な口を開いた。そこから覗いた、見たことのある姿・・・・・・・・覚えのない大きさ・・・・・・・・に、司令部にいた全員が悲鳴にも怒声にも似た声を漏らした。
 敵船の腹を破って空へ飛び出してきたのは、百メートル超の『ミニサイズ』とでもいうべき、α-TX3と同じ姿の巨大機兵だったのだ。
「この、本命・・の大きさと機動力を、ぎりぎりまで隠すためか……!」
 揚陸艦一隻あたり、六機。揚陸艦は十隻ある。
 単純な計算だ。
 空を舞う六十機の巨大機兵を相手に、我々は対処でき得るか?
 ――否。
(――生き残ることさえ難しい! 奴らめ、本気で国を獲りにきたのか!)
 考えた瞬間、巨大機兵の顎が大きく開き、火を吹いた。最大サイズのものには及ばないが、十分な威力の破壊光線だ。
 防御した艦のシールド耐久率がモニター上で一気に損耗し、要注意イエローゾーンに達した。
 たった一度の砲撃でこれか。空を舞う機兵たちの様子を眺め、シスリー中将は、顔を引きつらせた。
 通信官が焦燥を滲ませた様子でこちらを振り返る。
「…………皆、すまない。決死戦だ」
「……元より可能性は高かったでしょう。仕方ないですよ」
 補佐官の言葉にぐっと膝を握りしめた。
「今は少しでも、港を守る。グラン・ファーザーと友軍にあとを託すぞ!」
 司令室に応、と気合いの入った声が響き渡る。
 その時だった。
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