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三章 TYPE:MOTHER
一
しおりを挟む――システム・プロトタイプ、音声による命令を確認。
――再起動プロセスを開始。
――停止命令の発令継続を確認。プロセスを停止します。
――システム・プロトタイプ、音声による命令を確認。
――再起動プロセスを開始。
――停止命令の発令継続を確認。プロセスを停止します。
――システム・プロトタイプ、音声による命令を確認。
――再起動プロセスを開始。
――停止命令の発令解除を確認。プロセスを継続――。
情報更新(アップデート)、なし。
ルーチン25461~88000を開始……成功。
――システム・プロトタイプ、検証を再開します。
*
【……。…………。………………れ】
遠くから。声が聞こえた。
うっすらと、μは目を開いた。
【μ。聞こえるかい。応答してくれ。僕だ、エメレオだよ】
「……!」
μはしばらくぼんやりとしていたが、はっと状況を認識し、目を瞠った。
飛び起きた瞬間、カプセルの蓋に思い切り頭を強打する。
「う……っ、博士!?」
【ああ、やっと聞こえたんだね。すまない、強制停止命令を解除するのが遅くなった。εの低励起状態を利用して、何とか彼を端末として使って命令を止めたんだ】
【……TYPE:εに何かあったんですか? ……待って】
μはそこで、はたと気づく。辺りが真っ暗だ。
「MOTHER?」
カプセルの中にいるのに、全く接続が感じられない。通信を送ると、思ったよりも遠くから、存在応答のみが返ってきた。いや――違う。位置座標を確認したμははたと気づいた。自分が、カプセルに載ったまま、とても遠くへ移動していた。
何が、起きたというのか。混乱の最中にいるμにとっては、闇の中で聞こえるエメレオの声だけが頼りだった。
【手短に話そう。――まず、僕たちがいた施設は、何者かによって爆撃を受けた。そして、おそらく相手の目的は、MOTHER本体の破壊だ】
【博士!】
最悪の事態が報告され、暗闇の中で、μはカプセルの蓋を開けて外に飛び出そうとした。だが――開かない。MOTHERの権限がないと開かないのだ。
アンドロイドとしての膂力も、事故防止のために一定以下の出力に制限されてしまう。ゆえにカプセルは内側から割れない。信号が途絶えればカプセルも開くかもしれないが、それはMOTHERの完全な沈黙、停止を意味する。MOTHERが停止するなんていうことは、通常ではあり得ない。シンカナウスの基幹部をいくつも支えているコンピューティングシステムの巨頭なのだ。止まるわけが、ない。
【博士は! 博士は無事なんですか!?】
【――うん。何とか無事だよ。やれやれ、悪運が強くて死に損なった。……けど、もうすぐ死ぬかな】
【……え……?】
【ああ、そんな大怪我をしているわけじゃないよ。ただ、瓦礫の下に閉じ込められた。爆撃された時、ホールの近くにいて、吹っ飛ばされた時にそこに飛んじゃってさ。あとは柱やら何やらのおかげでそれなりに生存空間ができて、生きてるってだけで】
エメレオは至極普通の調子でそう言った。
【死ぬっていうのは、あいつに、パトリックにやられたんだ。エントへの亡命を断った時、友人に殺されかけたって言わなかったっけ。かすっただけだったんだけど……厄介な毒をもらってね。薬も、用意がなくなっちゃったから。どのみち、僕はそう長くもたずに終わる予定だった。……だから、これは、お別れの通信なんだ。もうすぐ炎もこっちに回ってくるし】
【博士!】
悲鳴のようにμは叫んだ。
【そんな顔しないで。せっかくかわいいんだから】
【……顔、見えないじゃないですか……!】
【あははは。そうだね。でも、声でどんな顔してるかすぐに分かったよ】
少しの沈黙のあと、エメレオは口を開いた。
【MOTHERは回復不能のダメージを受けると分かって、君の入ったカプセルをさらに地下へと射出したんだろう。地中貫通爆弾の爆発が及ばないほど深いところにも、一応メンテナンス用の通路があったから、たぶんそこだと思う】
μは項垂れた。
【MOTHERは、まだ生きています……】
自分でも弱々しい主張だった。
【そうだね。ただ、システムが完全に終了するのは時間の問題だろう。暗闇の中、君をひとりぼっちにするのも何だから……だから、最後に君にお願いがある。……僕の話を、聞いてくれる?】
【……ずるいですよ】
カプセルの中で、μは膝を抱える。
【そんな言い方をされて、私が聞かないでいられるわけが、ないじゃないですか】
通信の向こうで、エメレオが僅かに吐息で苦笑する気配がした。
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