ホワイトコード戦記1 シンカナウスより

星白 明

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四章 ホワイトコードの叛逆

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 陸軍第三師団のアリス・ルプシー少将は、ひどく居心地の悪い思いで、尋問室の椅子に腰掛け、届いた報告書を眺めていた。――頭が痛い。

「――施設ホームの爆撃により、エメレオ・ヴァーチンを初めとした複数名の関係者は死亡。さらに、長らく行方不明だったリーデル・セフィアの遺体が、事件から二日後に山中にて発見されており、関連が強く疑われる。施設のアンドロイドは殺人事件を引き起こし、一機を除いて全員が停止、凍結状態。そして、残る一機はα-TX3の大群を一蹴したかと思えば、どこぞへ逃走し、暴走状態と推定される……と」

 行方不明になっているのはTYPE:μミュウだ。あのアンドロイドは一見して大人しそうだったが、オーギル海で巨大機兵を退けた進撃の話を聞いてみれば、なかなかどうして、超えてはならぬ一線を持つ手合いだとは思っていた。
 ――おそらく、超えてはならぬ何かを、複数踏み越えられたのだろう。そうでなくては、暴走するようには見えない。

 縛り上げられ、猿轡さるぐつわをかまされて唸っている男を見下ろし、ルプシー少将は冷えた目線を投げかけた。

「おめおめとよくも帰ってきたものだ、国賊。ずいぶんとオーギル海でははしゃいでいたそうだな。だが、ヴァーチン亡き今、ちょうどよかった。――なぁ、ウォルター・バレット」
 ルプシーは問うた。
「――なぜ、MOTHERが復旧しているのか、心当たりはないか? これは、完膚なきまでに破壊された現在のMOTHER本体のコンピューティングルームなんだが。これでも実は、十分に稼働可能なのか?」
 手に持っていた報告書の写真をかざせば、ウォルターは恐怖に脂汗を滲ませた表情で、必死に首を横に振った。
 右手を上げて合図を出すと、心得ている兵士が、ウォルターの猿轡を外した。
「ほ、本当に私は何も知らん! そもそも、その写真が本物なら、MOTHERシステムは私の目からしても、既に崩壊している! 障害が一時的なものに収まり、七日経ってもシステムがなお存続しているというのは――根本的にあり得ない! あれ以上のコンピューティングシステムを、私が居なくなったあとに作ったというのならば別だ! だがMOTHERのようなシステムが一朝一夕に組み上げられたものではないのは、貴様らも知っての通りだろう! あれを超えるほどの演算能力を確保するなど、それこそエメレオ・ヴァーチンの所業でもなければ……っ!」
「……やはり、エメレオ・ヴァーチンか……。全く、参ったな。本人の遺体は完全に炭化していて、何も分からない。唯一燃え残っていたノートパソコンも、あの阿呆の馬鹿げた暗号化のおかげで全く解析が進まん。あれは一体何を秘密にしたまま死んだ?」
 だが、憶測に憶測を重ねることならできるか、とルプシーは半眼になった。
 ――事実、今のシンカナウスはあるはずもないMOTHERの〝亡霊〟に守られていると言ってもいい。ありとあらゆる理を解き明かしてきたはずのこの国で、荒唐無稽な怪談話が現在進行形の形をとっているのだ。
 オペレーターアンドロイドであるMOTHERは完全に破損した状態で発見されたため、AIタイプの応答がないのはまだ、納得できるとして。リクエストが受理され、きちんと普段通りに結果が返ってくることからしてまずおかしい。
 蓋を開けてみれば、インフラから何から何まで、基幹システムのほとんどがMOTHERの演算補助や何らかの支援を受けていた、と分かり、国の危機管理部は何をしていたのかと頭を抱えたものの、やってしまったものは仕方がない。急ぎ、独立浄化水槽の設置数増加や、都市部のエネルギー供給グリッドの見直しを進めているそうだが、今は戦時。いつ何が壊れるか、予想もつかず――また、MOTHERの〝加護〟がどこまで約束されたものかの予測もできない。不気味さを覚えながらも、なぜか使えるので、やむなく使い続けている、が現状だった。
 MOTHERが破壊された当時、施設には複数体の自由行動が可能なアンドロイドたちがいた。艦隊をオーギル空戦で押しとどめたその活躍ぶりを思えば、百歩譲って爆撃を行った飛行艇の上空への侵入を許したとて、MOTHERの破壊なぞ簡単にさせるわけがなかったはずだ。
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