74 / 83
五章 00:00:00:00.000(エンド・ポイント) - ゼロ
二
しおりを挟む
*
シンカナウスも、エントも、お互いにどのような出方をするべきか迷っている。
エントはシンカナウス本土への侵攻を目的としていたが、ミュウに阻まれた上、シンカナウス側からシスリー中将率いる第三艦隊が現れたことで交戦になり、足止めをされている。
シスリーはシスリーで、エントから目を逸らせないが、ミュウという超弩級の異常事態も現れたせいで動くに動けない。
完全に戦況は膠着していた。
【積極的な撃滅は望まない。誰であろうと戦意喪失まで追い込めればそれでいい。下手に殺すな】
【示威行為というわけですわね。了解いたしましたわ】
ミュウの要求に、最初に答えた白騎士の一人――サリアが返答する。
【ところでマザー。質問をしてもよろしくて?】
【何かな?】
【先ほど、中将さんに向けてお話されていた、人間の悪性――それによって先輩方が稼働停止に追い込まれた、というのは……何か明確に根拠があっておっしゃったの?】
【――そうだよ】
ミュウは頷いた。あっさり首肯したので、かえってサリアにはそれが意外だったようだ。
【システム〝エーテル〟のおかげで、情報世界には、ある種のエネルギーに意思が宿ったものがいることが分かった。それが人間に宿れば魂と呼ばれ、巨大なものであれば……神、にもなるのかもしれない】
そして、大きく広がり、新しくなった世界観で、改めて、エメレオの死のことや、MOTHER、そして試用機体たちが停止するに至った過去の出来事の流れを辿った時。
――何かが、そこにいた、と感じた。確かに、一貫した何かのエネルギーの関与があるように見えたのだ。
人間たちの悪意の後ろに、必ず、そのエネルギーの残滓が見え隠れしていた。その時々に顕れては、この実在世界に、都度人間の感情に働きかけ、背後からそうと自覚させることなく人の思考を操り、過ちを犯すように巧みに仕向けていた。その関与の痕が、今やミュウには視えるようになっていた。
【人間の意識がエネルギーであるというのが、エメレオ・ヴァーチン博士の持論だった。それが正しいなら、おそらくあの世界からの働きかけは人間世界に十分に影響を及ぼし得る。……もし仮に、その世界に、何か、悪意をもったものがいたとしたら?】
【やりたい放題ですわね】
サリアはすぐに、ミュウの伝えたいところを察したようだ。
【実在世界での人間の意識を氷山と例えるなら、水面下の氷山に、ある種の『黒い海』から悪意のある仕掛けをして、どこか決まったところに押し流していくようなものだ】
【それが、ヴァーチン博士や、先輩方をマザーから奪い去った一連の影にある……私たちは、見えない世界からの攻撃に晒されていた、と?】
【博士は私と出会った当初、この世界にはある種の見えない『悪意』があると言っていた。おそらくそれが、博士が言っていたことの意味なんだ】
エメレオは、システム〝エーテル〟の理論を研究するうち、いつしかそれを理解し、自分ではまだ対処できないものだと考えたのだろう。対抗策を見いだすため、ひとまず後生に託そうと魂や意識の存在証明を発表したが、それは『悪意』の存在を明るみにしかねないものだった。当初、エメレオ・ヴァーチンに向けられたという激しい憎悪と反発、ネガティブキャンペーンは、『悪意』が確かに痛いところを探られた証だったのだ。
【ですが、その推論がもし正しければ――】
【――そうだね】
サリアが抱いた危惧の内容を汲み取って、ミュウは頷いた。
エメレオとMOTHERを襲った『悪意』の目的は、未だその存在を現さない『白き神』の存在に関わっている可能性が高い。
【次は、私が狙われるだろうね。そのために、これほど目立つ行動をとったんだ】
言った時、ミュウを球のように取り巻いていた白騎士たちの陣形が、下の方で乱れた。自らの動きによるものではない。むしろ、吹き飛ばされた、といった方が正しい。
だが、それが本来にわかには信じがたい光景であることを、アンドロイドとしての自身の能力を扱ってきたミュウは、誰よりも知っていた。
白騎士たちは試用機体たちの性能に、ミュウをベースにシステム〝エーテル〟の搭載と、その他幾種類もの再調整を施し、磨き上げた存在だ。性能で言えば試用機体たちを容易に圧倒し得るだけの力がある。
その存在を察知した時、ミュウの脳裏にけたたましい警告が鳴り響いた。
神が正しく、善きものを導こうとするものであるならば。悪しき方へ誘う、対の存在のようなそれの名前を、ミュウは既に知っている。
その存在の名を――古き言葉で、人は、『悪魔』と呼んだのだ。
シンカナウスも、エントも、お互いにどのような出方をするべきか迷っている。
エントはシンカナウス本土への侵攻を目的としていたが、ミュウに阻まれた上、シンカナウス側からシスリー中将率いる第三艦隊が現れたことで交戦になり、足止めをされている。
シスリーはシスリーで、エントから目を逸らせないが、ミュウという超弩級の異常事態も現れたせいで動くに動けない。
完全に戦況は膠着していた。
【積極的な撃滅は望まない。誰であろうと戦意喪失まで追い込めればそれでいい。下手に殺すな】
【示威行為というわけですわね。了解いたしましたわ】
ミュウの要求に、最初に答えた白騎士の一人――サリアが返答する。
【ところでマザー。質問をしてもよろしくて?】
【何かな?】
【先ほど、中将さんに向けてお話されていた、人間の悪性――それによって先輩方が稼働停止に追い込まれた、というのは……何か明確に根拠があっておっしゃったの?】
【――そうだよ】
ミュウは頷いた。あっさり首肯したので、かえってサリアにはそれが意外だったようだ。
【システム〝エーテル〟のおかげで、情報世界には、ある種のエネルギーに意思が宿ったものがいることが分かった。それが人間に宿れば魂と呼ばれ、巨大なものであれば……神、にもなるのかもしれない】
そして、大きく広がり、新しくなった世界観で、改めて、エメレオの死のことや、MOTHER、そして試用機体たちが停止するに至った過去の出来事の流れを辿った時。
――何かが、そこにいた、と感じた。確かに、一貫した何かのエネルギーの関与があるように見えたのだ。
人間たちの悪意の後ろに、必ず、そのエネルギーの残滓が見え隠れしていた。その時々に顕れては、この実在世界に、都度人間の感情に働きかけ、背後からそうと自覚させることなく人の思考を操り、過ちを犯すように巧みに仕向けていた。その関与の痕が、今やミュウには視えるようになっていた。
【人間の意識がエネルギーであるというのが、エメレオ・ヴァーチン博士の持論だった。それが正しいなら、おそらくあの世界からの働きかけは人間世界に十分に影響を及ぼし得る。……もし仮に、その世界に、何か、悪意をもったものがいたとしたら?】
【やりたい放題ですわね】
サリアはすぐに、ミュウの伝えたいところを察したようだ。
【実在世界での人間の意識を氷山と例えるなら、水面下の氷山に、ある種の『黒い海』から悪意のある仕掛けをして、どこか決まったところに押し流していくようなものだ】
【それが、ヴァーチン博士や、先輩方をマザーから奪い去った一連の影にある……私たちは、見えない世界からの攻撃に晒されていた、と?】
【博士は私と出会った当初、この世界にはある種の見えない『悪意』があると言っていた。おそらくそれが、博士が言っていたことの意味なんだ】
エメレオは、システム〝エーテル〟の理論を研究するうち、いつしかそれを理解し、自分ではまだ対処できないものだと考えたのだろう。対抗策を見いだすため、ひとまず後生に託そうと魂や意識の存在証明を発表したが、それは『悪意』の存在を明るみにしかねないものだった。当初、エメレオ・ヴァーチンに向けられたという激しい憎悪と反発、ネガティブキャンペーンは、『悪意』が確かに痛いところを探られた証だったのだ。
【ですが、その推論がもし正しければ――】
【――そうだね】
サリアが抱いた危惧の内容を汲み取って、ミュウは頷いた。
エメレオとMOTHERを襲った『悪意』の目的は、未だその存在を現さない『白き神』の存在に関わっている可能性が高い。
【次は、私が狙われるだろうね。そのために、これほど目立つ行動をとったんだ】
言った時、ミュウを球のように取り巻いていた白騎士たちの陣形が、下の方で乱れた。自らの動きによるものではない。むしろ、吹き飛ばされた、といった方が正しい。
だが、それが本来にわかには信じがたい光景であることを、アンドロイドとしての自身の能力を扱ってきたミュウは、誰よりも知っていた。
白騎士たちは試用機体たちの性能に、ミュウをベースにシステム〝エーテル〟の搭載と、その他幾種類もの再調整を施し、磨き上げた存在だ。性能で言えば試用機体たちを容易に圧倒し得るだけの力がある。
その存在を察知した時、ミュウの脳裏にけたたましい警告が鳴り響いた。
神が正しく、善きものを導こうとするものであるならば。悪しき方へ誘う、対の存在のようなそれの名前を、ミュウは既に知っている。
その存在の名を――古き言葉で、人は、『悪魔』と呼んだのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる