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五章 00:00:00:00.000(エンド・ポイント) - ゼロ
八
しおりを挟むプラズマでできた刀身はあっさりとミュウの二の腕から先を断ち切った。重りを失い崩れた相手の姿勢は完全に上へと伸びきり、光線銃はミュウの残った腕をかすめ、地を穿った。捨て身のフェイント。隙を晒し仰け反ったドリウスの顔が驚愕に歪む。ミュウは軸足でそのまま身を沈めると、右足と共に大地を踏みしめる。
意識の中で白く炎が燃えている。一気にミュウは体中のばねをつかって伸び上がる。そうして振りかぶった剣先を、ドリウスの胸元へ渾身の力で突き刺した。
ドン、と。確かな手応えと共に、ミュウはプラズマの剣状収束を中で解いた。彼の内燃機関を、臓器を、一瞬で高温の兵器が焼き払う。
「――ぐ、ゴァ、バ!」
ドリウスの口から飛び出した焦げた血と、黒い機械液が大量にミュウに降りかかる。
「ばか、な――」
濁った喘鳴混じりの言葉が彼の口から漏れた。
「くそ――何、だ、この――この、光は――ただのプラズマでは、ないのか……!?」
ミュウは倒れたドリウスの上に崩れ落ちながら、彼を取り巻いていた悪魔のエネルギーが大量にこちらに流れ込み――その途端に、もがき苦しんでいるのを感じた。
エネルギーの重圧にミュウは呻いた。だが、心の奥で燃え盛る光が、何よりも清く、どれほど悪魔の力に晒されても、燦然と白く輝き続けていた。
限界だ。ミュウは霞む意識の中、祈るような気持ちで、その純白の炎にすがりついた。
『あ、ああ、いやだ、いやだ、なくなる――分解される――!? ぁ、ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?』
そして――意識の上では、全てが塵となり、焼き尽くされた。
「――ぁ……ぁーあ……負け、ちまった」
幾分縮んだように見えるドリウスの上で、ミュウは動けないまま、その言葉を聞いていた。
「テメェ、潔さにも……限度が、あるだろうが、よ……躊躇なく、腕なんか、切り落としやがって……俺なら、ぜってぇ、やらねぇ……」
「……意地を、通しました」
へっ、と。男は嘲った。
「ああ……そうかよ……ご立派な、ことで……」
それきり、彼の生命活動は停止した。
「…………」
そのまま、倒れていたミュウは、辛うじてドリウスの死体の上から降りて、仰向けになった。
しばらくして、なけなしの形状再生で各機関の『ガタ』がましになり、何とか起き上がる。焼けた町には、もう、誰もいなかった。
気づけば、夕日が差そうとしている。ぼんやりと立ち尽くしていたミュウは、ざわりと――今までにないほどの、不吉な予感を覚えた。
無数の警告が体中を埋め尽くした。
情報世界の地上に、巨大などす黒い帳が降りた。それは、崩壊砲撃の時に匹敵するほどの黒さだった。
一足先に夜がきた。それほどの闇の中、僅かに赤い水平線の向こうから――何か、巨大な存在が立ち上がろうとしていた。
ビルの数百倍も巨大な、漆黒の四肢を備えた体躯。背から生えた翼には皮膜が張っていた。は虫類に似た獰猛そうな頭と、そこから飛び出したねじくれた巨大な一対の角。
幻視した存在の推定エネルギー量は信じがたいものだった。
人間の魂のエネルギー量を一であるとするならば――トータル数千兆超え。人智の外にあるとしか思えない存在だった。
――ォオオオオオオ――と、そこから、空気が唸りを上げるほどのエネルギーが発せられた。
ぞっと体中を凍り付くような恐怖が駆け上った。
かみ を。
いずれ きたる さばき の しんこう とやら を。
とめられぬ の ならば。
これを おわらせる まで の こと。
――全ては無に帰するのだ。
そう、独り言のように思念が伝わってきた。
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