セルリアン

吉谷新次

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チャプター02-03

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 惑星フィーシーとその妖界惑星区域から退避する戦闘艦の艦橋に、バズ、という人物が立っていた。

 反銀河連邦団第一開拓局司令官という肩書を持つバズは、小さな賞金稼ぎの男の顔をおぼえているところだった。先程まで遠隔操作をしていたロボットが破壊され、小さな男の剣術に関心をしつつも、保存された映像を確認しているところだった。

 青緑色の雷刀と、立派な念力を持つ、特殊人間。近年での、厄介な賞金稼ぎがいる、と反銀河連邦団やほかの賞金稼ぎのあいだで噂になっている男と重なっていた。

「バズ司令官。あの警戒対象は、どうされますか?」部下が歩み寄って来た。

「この賞金稼ぎを殺すには戦車がいる」バズは、映像に映る小さな賞金稼ぎを観ながら、淡々と返した。「……奴には、こちらの活動を妨害した償いはさせてもらいたいが、無理に探すことはしない。残念だが、我々は、妖界での資源回収を中止とする。……まずは、機材の購入をし、別の企画を立てる。開拓するべき惑星は、まだたくさんある」

「奴を、追わないのですか?」と部下。「仲間を殺され、戦闘機も破壊され……」

「偶然に会う機会があるなら、その時は殺す。だがな、そこらの賞金稼ぎのうちの一人で、金持ちでもなんでもない。執拗に追う価値はない」

 バズ率いる集団は、妖界から離脱することを決意するしかなかった。


※※※


 リップルはブーチと共に、ラルーと対面して、美しい森林地区の中央で立っていた。複数の妖精に囲まれ、彼女らと守護作戦終了後の会話をしているところだった。

「リップルさん。今回の守護作戦の計画、感謝する」ラルーは、人間と会話をする時には、人間と同じ大きさになって相手をしてくれた。「リップルさんの注意喚起と協力がなければ、我々の惑星は、資源を強奪されていたであろう。連中は、不時着を装ったうえ、知らぬ間に基地をつくって、我々の見えぬところで資源強奪とは。まったく不愉快な連中だ」

「どういたしまして」リップルは笑顔で返した。「でも、難しいことを言うかもしれないけど、こういうことがあっても、偏見は持たないように。反銀河連邦団も、連邦と同じく星団。反銀河連邦団にも良い奴はいるし、賞金稼ぎに悪い奴もいるかもしれないからさ。まずは、誰に対しても疑うことから始まるのが良いかもね」

「承知した。心して、外交には注意するとしよう」ラルーは、側近を歩かせ、こちらの前に小包を置かせた。「……これは、妖術石だ。連邦基準では、良い価値のものであろう」

 妖術石とは、妖精が強烈な妖術を扱うことによって、空気中の熱量粒子に急激な圧力がかかり、結晶化されて生成された石である。これは、発電石や準発電石に続いて、高価なものである。主に、雷刀のレーザー原や、簡易的な発電機などに使われている。近年では、大きな争いがないことから、妖界において強力な妖術が使われることはないため、現状では、この石を見つけることが困難とされている。

「やっべ」リップルは苦笑した。「そこまでは、いらないよ。っていうか、別のお礼が良いな」

「……変態」とブーチがこちらの肩に肘打ちをしてきた。「なにを求めてんのよ」

「違うよ」リップルは、苦笑した。「……あの、ちょっと突拍子もない頼みなんだけどさ」

 そのリップルの態度に、ラルーやほかの妖精も、首をかしげるような感じだった。

「優秀な妖精を一人、お借りしたい」

「……優秀な妖精、とは?」ラルーは、嫌な表情を一つもせず、聞き返してくれた。

「魔界にある物体察知系の、結界のような魔術から逃れられる、そんな妖術を習得している妖精さん。次の一仕事に必要でして」リップルは、申し訳なさそうにして言った。「妖術石は、ナシで良いので」

「光を曲げるうえ、魔術からも察知されない、迷彩妖術のことか。この惑星にいる外交権を持つ妖精の半数が扱える妖術だが、それはどうして?」ラルーは、理由を求めてきた。

「俺の友人が、惑星マシスに監禁されてて、助けに行きたいんだ。その惑星に侵入するためには、ブーチの船の迷彩技術に加えて、その迷彩妖術っていうのが必要なんだけど」リップルは、静かになる周囲に困惑した。「……危険だから、ダメかな?」

「アタシが行く!」ラルーの背後にいたミアが、元気良く挙手した。「命の恩人だもんね!」

 周囲がざわつき、ラルーもミアを見た。ミアは浮遊すると、リップルの肩に座った。

「いつのまに口説いたの?」ブーチが小声で言ってきた。

「なんだよそれ」リップルは頭をかいた。「手あたり次第で悪かったな」

「リップルさん。あなたの行動には、評価するべき点がもう一つありました」ラルーは微笑んだ。「ミアを、あの爆発から守る行動に出てくれました。その行動も誇りに思っている。ミア本人が良いとするなら、気が済むまで、ミアを旅に同行させて良いとする」

「あ、ありがとうございます!」リップルは、お辞儀をした。
「少々、変わり者で、人間サイズへの変身妖術はまだ習得しておらず、外交権も習得していないが、迷彩妖術は習得している。リップルさんにとって十分な能力を発揮してくれるであろう」ラルーは、ミアを見た。

「それじゃあ、旅をしましょう!」ミアは、こちらの肩の上で拳を突き上げた。

「それで、次はどこにいこうか?」リップルは、ブーチに聞いた。

「そうねー。まだまだ、必要なものはありそうだから、次はあの惑星ね」とブーチは答える。


※※※


 ランスは、しばらくのあいだ、輸送艦のなかで過ごし、健康状態であることを証明するための消毒作業や身体検査を、毎日させられていた。今は、窓つきの個室で閉じ込められており、椅子に座って窓の外から見える星々を眺めることしかできなかった。

 これまで、魔界二次惑星に滞在する下級の魔術師が、中級や上級の魔術師によって拉致される話は、両親から聞いてきていた。今度は自分の番となると、怖い気持ちと、これがしきたりであり、当たり前なのか、と悲しい気持ちでいっぱいだった。

 よほどのことがない限り殺されない、とわかっていたとしても、発電技術に利用されることもわかっているため、そんな技術からなにかしらの兵器がつくられるのなら、二次被害が発生する前にこの場から抜け出したかった。

 よく耳にする噂としては、魔界は今、銀河連邦の科学技術を真似したうえで、魔力も組み込んで、特殊な殺人兵器をつくっているということ。それが、火器兵器なのか、人造人間なのか、まだはっきりとはしていなかった。

 しばらくすると、この部屋のハッチが開き、通路から赤髪の魔女が入って来た。

 ランスは、急な魔女の登場に、緊張して固まってしまった。本来であれば、下級魔術師のこちらは、六人魔女や四人賢者の地位にいる者に対して接近してはならないからだ。それは、幼少期から得た知識で、偉大な相手であり、恐れられている存在でもあった。

「調子はどうだ?」と赤髪の魔女。

「問題ありません。……私、どうなるのですか?」ランスは、魔女から声をかけてくれた、というのもあり、質問をすることができた。

「知らない。カッツィ団の頭首であるジャン次第だ」と他人事のように返してきた。

 確かにそうだ。魔界から独立した者は皆、無所属となり、銀河連邦の人間で例えるなら、人権のない人間を差すことになる。おかしい点をあげるなら、魔界は、そういった無所属の人間や団体を毛嫌いしており、契約をすることはしないはずだった。そこが、今回の不思議な点である。魔女が参加しているという時点で、魔界と空賊の公式な共同企画という証明になる。

「……私はスノー・エッファ。君に二つ質問がある」スノーと名乗る赤髪の魔女は、冷たい視線を常にこちらに向けていた。「一つ目。君には、強い魔気がある。将来は、高い地位の魔女になりたいか?」

「なりたくありません。普通に暮らしたいです」ランスは答えた。

「君をしっかりと鍛えたのなら、魔女の地位を得られるほどの魔力が供えられるぞ」スノーは、こちらの身体に秘めている魔力を察知していた。「君には、その才能がある。もし、魔女になることを希望するなら、私と共に行動ができる」

「どんな状況になろうと、魔女にはなりたくありません」ランスにとって、自分がどんな立場になるのか、ある程度は決めていた。そんな気持ちをこういったところで変えるつもりはなかった。はやく母のもとへと帰り、普段の生活に戻りたいだけだった。「……例え、良い才能があったとしても、上の方々が悪用をするなら、その才能は成長しません」

 一つ気になることと言えば、スノーからは、殺気のある魔気を感じないことだった。こちらに刺さる視線こそは鋭いものの、彼女から出る言葉には攻撃性がないのだ。

「二つ目だ。惑星シストンにいた部外者、あれは何者だ?」

「わかりません。戦闘艦や輸送艦から投棄された廃棄物のなかに紛れていました」リップルに関しては、あまり詳しくは答えるつもりはなかった。

「だが、君を守ろうとしていた」スノーは、顔を険しくした。「あの強力な念力と剣術は、銀河連邦軍の軍人技術の基準を上まわっている。魔界の上級魔術師に対抗してまで、君を守る目的に心当たりは?」

「……知りません。ただ、彼は言っていました。縛られるのが嫌いだ、と」ランスは、リップルが本気で助けてくれようとしたことをすべて話そうとはせず、間接的に答えた。「拘束されている私を見たから、助けようとしてくれたのかもしれません。彼は、罪のない人を襲う悪人を嫌っているみたいです」

「……」スノーは、その返事に黙った。

 そこで、こちらが乗る輸送艦が惑星マシスに到着していた。窓から見える惑星マシスは、不気味な光景だった。塩で構成された惑星は、大半の地面が薄い白色の塩の膜で覆われ、強風や落下物の衝撃によって、赤色の塩が露わになる環境だった。また、それらが強風によって空に舞い、呼吸ができる空気と混ざると紫色に変色するのだ。それらのガスの素材によって、付近の恒星の光もやや紫色に変色されて、日中でも夜空のような暗さを表している。この場所には害虫が存在しないため、異物混入を恐れない発電所がいくつか建設されている。また、大きな地割れのような峡谷もいくつか見られ、崖を挟んだ発電所の隣には、仮設滞在地区なども設けられ、加えて監禁所などもあった。

 輸送艦の着陸を知ったスノーは、踵を返して通路へと出ていってしまった。

 ランスは、もう一度窓を覗き、全身に緊張を走らせた。窓から見える発電所は、綺麗な照明で照らされているものの、その周囲が荒れており、風が強く、塩埃の混じった風は、視界を悪くさせていた。また、植物などはほとんど存在しておらず、まれに、白い花が点在しているが、もはや地獄だった。

 再び個室のハッチが開くと、通路からカッツィ団の団員数人が入って来た。彼らも魔術師であり、魔力を備えているため、彼らに対して無理な抵抗はしないように心掛けた。

 また、彼らは下級を表すような外套の着方をしており、頭巾を深く被って顔を見えにくくしていることだった。ここにいる魔術師も、無所属であったとしても、魔界の掟を守るように、派手な衣装は着ず、顔を見せないことは徹底している。

 ランスは、ジャンの部下である下級魔術師達を目の当たりにして、彼らよりも強い人物がこの惑星に来て助けてくれないか、と希望を抱いていた。例えば、不当な兵器開発を乗り出したことに腹を立てた銀河連邦政府が、軍人を送り込んでくることなど。さらなる希望を抱くのであれば、リップルが助けにきてくれないか、と。

 ランスは、ジャンの部下である魔術師に誘導され、通路へと出た。しばらく移動して、出入口のハッチに来ては、生ぬるい風を浴びながら外へと出た。塩の香りが鼻を突き、ランスの顔をしかめさせた。

 外では、こちらが乗っていた輸送艦のほかに、小型の移動船があった。その移動船は、戦闘には特化してはいないために戦闘機とは呼ばれないが、長距離移動やワープ航法を可能とする優れた機体。上級魔術師が一人で搭乗し移動する時の、一つの移動手段で使用されることがある。その小型船に向けて、スノーが歩き始めた。

「では、私は一度抜ける。発電技術に進展があれば、私に直接連絡しろ」スノーは、ここにいるジャンやほかの魔術師とは違って、魔女と言う地位なだけあって、飛び抜けた存在だった。惑星スティーアンの女王の下に頭魔が一人、さらに下に魔女が六人と賢者が四人といる。そんな魔女の地位にいる女性らしい雰囲気は健在だった。黒を主とした外套に、赤い髪が常に目立っている。

「スノー様」ランスは、魔女の名前を口にした。

「……なんだ?」スノーは、こちらの声かけに返事をしてくれた。

「お願いです。これは、いけないことです」ランスは、こちらが子どもという立場であり、殺されない立場でもある、という要素をうまく利用し、スノーに対して控えめに物申した。「助けてください。スノー様でしたら、わかっていただけますよね?」

 スノーに対してここまで言えるのは、こちらから見えるスノーという魔女に、なにかしらの迷いがある気がしたからだ。先程の船内での質問の仕方などから、今のこの活動に疑問を抱いていそうだった。そのうえ、これまで噂で聞いてきたほかの魔女の印象よりも、畏怖感がない。

「ほざくな」傍にいたジャンが言った。そして、部下に指示をした。「連れていけ」

 ランスは、ジャンの部下に引っ張られながらも、スノーの視線を感じていた。
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