セルリアン

吉谷新次

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チャプター05-02

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 とある男児が入院する病院では、その男児にまたしても異変が起きていた。

 ウィルスに抗体を持ち始めた身体ではあったが、先天性疾患の影響により、その抗体の生産に限界が訪れていた。またしても、血圧が下がり始め、その男児の気力は薄くなりつつあった。

「やっぱり、ダメなのかしら」身寄りもない男児を見守るのは、男児が収められている生命維持装置を見られる窓を通りかかった看護師だけだった。もはや、治療方法のない状態では、死を待つだけだった。


※※※


 惑星マシスの会議室。

 カッツィ団を代表するジャンは、男児のように見える特殊人間が映る立体映像写真を見て、苛立ちを募らせた。

 その立体映像写真を持ち込んできたのは、発電石制御装置も持ち込んでくれた、反銀河連邦団の第一開拓局司令官、バズ・ゾロンだった。

 バズの情報曰く、男児のような容姿のリップルという賞金稼ぎの特殊人間が武装して、この惑星に侵入してくるのだという。見おぼえのあるその人物には、屈辱を与えられたというのもあり、この場での苛立ちの根源だった。あの惑星シストンで、こちらの複数の部下を殺した張本人である。あの短時間の出来事だったとしても、彼の顔はおぼえていた。

「情報提供に感謝する、バズさん。きっと、俺を殺しにくるか、ランスという少女を誘拐しに来る」ジャンは、眉間にしわを寄せた。「しかしなぜ、チビの賞金稼ぎが、貧困惑星の一人の住民の為に活動ができる?」

「地元民が護衛を雇っていた、あるいは、ジャン様に懸賞金とかがあるのでは?」とバズ。

「確かに、懸賞金の可能性はあるな」ジャンは、無数にある恨みの内の一つだと考えた。「我々カッツィ団は、恐れられなければならない存在だ。すでに、私のことを恐怖するべき存在として知られていることから、懸賞金をかけられてもおかしくはないな」そして、話題を変えて、バズが持ち込んでくれた機材について感謝を表した。「……とにかく、君達が提供してくれた制御装置のおかげで、一つの企画が完成する」

「ぜひ、お役立てください」バズという人物は、良い役職についている男ではあるが、こちらに対しては低姿勢だった。彼は、反銀河連邦団の所属であるからか、同じように銀河連邦を敵視しているこちらとは友好的だった。「万が一、この賞金稼ぎが侵入したならば、お知らせいたします」

「知らせは無用だ。結界や探知機、罠を仕掛ける。魔界にも十分な警備環境はある」ジャンは、惑星シストンにおいて、リップルの念力によって吹き飛ばされた、その仕返しを考えていた。魔女の前で尻餅をつくなど、あってはならないことだからだ。

「実は私達も、このリップルという少年のような特殊人間に恨みがありまして」バズは、こちらに対して頼みごとをしてきた。「ここの重力場で、衛星のように待機させていただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ。好きなだけ、この惑星に滞在しても良いし、重力場で漂っていても良い」ジャンは、この時だけ、反銀河連邦団と連携することを決意した。

 そこへ、部下の魔術師がやってくると、耳打ちをしてきた。

「わかった」ジャンは、部下から良い情報を貰った。「バズさん。魔力を持つ人材の募集はしておりますか? 一人、余る予定の未成年魔術師がいる」

「ぜひ、いただきたい。魔術師と組めるなら、どんな人材でも良い」とバズ。

「今、発電担当をさせているその魔術師が、もうすぐで不要になる。少女ではあるが、魔界の魔女が認めている魔力の持ち主だ。今の企画が終了次第、紹介する」ジャンにとって、あのランスという少女は、反抗心がある分、カッツィ団には迷惑である、と考えていた。「では、バズさん。のちほど」ジャンは席を立ち、部下達と共に通路を歩いた。

 バズという人物の情報提供は、有効だった。あらかじめ、リップルという人物の侵入作戦を知っておけば、好都合である。

「反連邦に、滞在の許可を出せ」ジャンは、通路を歩きながら、部下達に告げた。「特殊人間がここに来るのは好機だ。レッグスの戦闘試験の相手をさせる。屋外で警備している魔術師を全員、屋内に移せ」

「警備体制が弱くなりますが、よろしいでしょうか?」部下は、一瞬の不信感を抱いた。

「問題ない。宙域は、反連邦が見張る。屋外に取られるものはない。それに、警備が厳重ではないように見せかけて、リップルをランスの牢獄へ導く。その通路に、ほとんどの魔術師を配置させる。たかが賞金稼ぎだ。仲間がいても、多くて五人程度だ」

「リップルという賞金稼ぎは、強いのですか?」

「知らん。俺の目の前で、一瞬で複数の魔術師を雷刀で切った特殊人間だというのだけは知っている。ただ、ここにいる魔術師が束になって掛かれば殺せるだろうし、加勢が必要なら、レッグスを投入する。……仮に、リップルという賞金稼ぎが優秀でないなら、重力場で見張る反銀河連邦団に見つかって、この惑星に侵入する前に殺せる。実験体として生け捕りに出来たら、それはそれで喜ばしいことだ。人界の特殊人間にも関心はある」

 ただ、ジャンが優先したい計画は、レッグスの起用だった。この惑星に滞在している魔術師のほとんどを投入して、リップルにその魔術師を殺されたほうが、レッグスの戦闘能力が観察しやすいとしているからである。複数の魔術師を瞬殺できる特殊人間を相手に、人造人間のレッグスを戦わせたほうが、レッグスの強さを、魔界全体に証明することができる。ここにいる部下も、捨て駒のつもりで、警備体制の変更を考えていた。

 この発電所はほぼ自動で管理しているため、こちらとレッグスの二人だけの団体になったとしても、その団体の維持など簡単。そのうえ、こちらには、素人に魔力を与える力があり、部下は簡単に増やせる。

 ジャンは部下と共に警備室に入ると、中央にある立体映像出力機を起動し、停船所を確認した。

 やがて、離陸を開始する反銀河連邦団の戦闘艦を確認した。彼らは、無数の小型有人二足歩行兵器を積んだ三隻の戦闘艦で訪問していた。また、短距離の戦闘機もいくつか見られ、銀河連邦が嫌う理由もわからなくはなかった。

「兵器を見せびらかしに来たような団体ですね」警備の責任者である魔術師が言った。「いつでも戦争を起こせそうな戦闘艦三隻で訪問するような反連邦の者は、信用できるのですか?」

「私が信用しているのは、女王様だけだ」ジャンは答えた。「頭魔様含め、魔女と賢者も信用ならん。まして、連邦から外れたほかの団体など、あてにしていない」

 その言葉に、周囲の魔術師がこちらに視線を向けた。

「反銀河連邦団を評価しているのは、積極的な行動をする部分だ」ジャンは、悟った。「銀河連邦は、憲章という名の制限を最優先としている。自動学習型の完全機械人間と完全クローン技術を禁止にしている時点で、つまらん星団だ。魔力と念力を二つ兼ね揃えた成長型の人造人間が完成した時の、便利さを思い知らなくてはならない。魔女のなかには、この企画を嫌っている者もいる。スノー様もまた、この企画に情熱を感じられない。スノー様は、冷静な目をしているのではなく、失望の目をしている」

「では、反銀河連邦団の者に滞在権を与えるのは今だけ、ということでよろしいですか?」と警備責任者。

「もちろん。……奴らも、リップルという賞金稼ぎの死ぬことが希望なのは、初歩的なものだろう。奴らの将来的な目的は、魔術師が少しでも加勢してくれることだ。今のバズという男も、媚を売っているのが見えて、不快でしかない」ジャンは喋りすぎたと反省し、話を変えた。「……ランスの調子はどうだ?」

「疲労が蓄積しておりますが、順調に魔力を送り続けております」部下の一人が答えた。「あとは、ジャン様の魔力を加えて、終了となります」

 ジャンは、人造人間の完成間近に、にやりとした。
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