セルリアン

吉谷新次

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チャプター05-01

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 惑星クラウは、海と森が大半の割合を占めて構成された惑星で、恒星の光を青々と反射せて美しかった。また、大陸の中心部などには白く見える都市部があり、海沿いには観光地の繁華街が広がっている。

 そんな惑星を前にした、操縦席に座るリップルとブーチは、さらなる好奇心を持った。特に、ブーチにとっては初めて訪れる、人界と魔界が交流を持つ唯一の惑星だった。そこに、様々な人種が足を踏み入れても、魔術師から白い目で見られることもない。また、連邦技術もあり、ブーチの船など、修理は簡単に済ませそうだった。

「練習の時だね」と食堂から操縦席へと飛行してきたミア。「私は、船の中央で迷彩妖術を展開する。この船の光学迷彩の補助をして、相手から目視ができないようにするよ」

「了解」リップルは助手席から立ち上がり、ミアと一緒に食堂へと向かった。

 食堂では、エギーが床に座り、この船の情報発信機の電線や端子を改造して、自身の機体と直結させていた。しかし、その手の動きに、軽度の震えが見られた。

「その手、接触不良でもあるの?」リップルは、すぐに気づいて聞いた。

「ああ、これですか。すいません」エギーは自身の手を見て、焦りを見せた。「経年劣化による不良が度々起きておりまして。惑星クラウで、部材を購入します」

「了解。なにかあったら、俺も修理の手伝いをするから」と言った。

「ありがとうございます」エギーは、手先を気にしながらも、作業を続けてくれた。「僕は、惑星クラウの警備ネットワークに侵入して、この船だけが探知できないようにします」

「そういうこと。それと、ミアとエギーがこの船から離れても、相手の警備の弱体化一時的に継続できるように、プログラムしておいてね。ブーチは、今の速度を維持して」

 惑星クラウの周辺には、いくつかの入場用の衛星リングがあり、そこを通過して、入星の登録を行うのだ。その衛星リングに接近することと、通過することによって、探知されないかどうかの試験ができるのだ。もちろん、衛星リングだけでなくても、惑星クラウの探知機はあらゆるところで機能している。

「まず、船内の照明を消す」ブーチの合図で、操縦席や食堂の照明が消された。

 恒星や衛星から受ける光を除いて、できる限り光子の放出を避けるため、宇宙空間ではわずかな明かりである船内照明も消灯することにしていた。

「次に、旧式の光学迷彩を起動」ブーチは、手際良く機械を操作した。

「続けて、私だねー」とミア。暗い食堂の中央で、ミアの全身が黄色に光ると、運転席から見える景色も薄く黄色に染まっていった。

 ミアの妖術によって光壁膜が船体を包み、外から見る船体が徐々に透明へと変わっていく。

「妖術、完了」ミアは妖術を継続しながら、必要な言葉だけを発して合図してくれた。

「最後に、惑星クラウの警備プログラムの弱体化も完了」エギーからも合図を貰った。「情報網の侵入も無事に成功しています。探知機の精度を落としました」

「よし、このまま維持してて」リップルは、食堂から操縦席へと戻り、ブーチの隣にある助手席に座った。「……この船は消えた。たぶん、大丈夫」

「了解。あと数分でリングを通過するよ」ブーチは、渋滞のない衛星リングを見つけると、そこへ向かってくれた。

 衛星リングを前にして、沈黙の時間が続いたため、リップルは数時間前のことを話題にした。

「なあ、ブーチ」緊張の時間のなかで、彼女に問いかけた。「どうして、惑星ゼリアでは、俺達を置いて逃げなかったんだ?」

「え?」ブーチは、こちらを見た。

「送迎屋の掟なら、低空飛行での戦闘には参加せず、迷惑行為と判断したならば、客と見なさずに逃げても良いだろ? それに、すでに準発電石は手に入れてる。俺を置いていっても、契約上、なにも問題はない。俺も、置いていかれても仕方がない、っていう立場だし」過去の送迎屋との契約経験を踏まえたうえで、惑星ゼリアでの彼女の判断を聞いた。

「リップルを敵にまわしたら、怖いからね」ブーチは微笑んだ。けれど、こちらの沈黙に、もう一度口を開いた。「……久々に、楽しい、と感じた時間だったからかな」

「ミアと同じことを言うね」リップルは笑いながらも、少しずつ真剣な顔になった。「危険なことばかりする俺だぞ。いざとなったら、ミアとエギーだけを連れて、俺を見捨てて良いからな」

「確かに、サリーとは、危険なことばかりしてたみたいだからね」ブーチの心のなかには、まだサリーが残っていた。彼女がいたおかげで、今の明るいブーチがあるからかもしれない。

「俺は不器用だから、毎日が必死なんだよ」ぼそっとそんなことを言ってしまった。

「そう? そんなに不器用かな?」この緊張感のある時間でも、ブーチから微笑みが消えることはなかった。「……でも、リップルを見捨てるようなことはしない。サリーとかランスのために頑張るそのリップルの姿勢が、私は大好きだし。もし、私のためにそんなことしてくれるような人がいたら、本気で嬉しくなっちゃうから。そもそも、私の友達のことを大切にしてくれる人も大好き。もし、リップルが不器用なら、サポートするから」

「……ありがとう」リップルは、照れ隠しをするように背伸びをして、視線を横にずらした。

 やがて、ブーチの船は、衛星リングを前にした。

「通過したとたんに、惑星クラウの入星受付との簡易無線が繋がったら、失敗」とリップル。

「うまくいくと良いね」ブーチは深呼吸をした。

「通過まで、五、四」そこで、エギーの秒読みが始まった。

 この実験の成果が、ランスの救出作戦に繋がる。一時は、準備もせずに、強行突破も考えたものの、脱出時の危険性を考えたうえで、ブーチやランスの顔を思い浮かべると、念入りな準備をするほうが良いと判断できた。今回のこの練習で、これでうまくいくのであれば、一歩前進となる。

「二、一、……通過しました」エギーは、それからは沈黙をした。

「……通信の反応がない?」リップルは、何箇所かあるスピーカーに目を向けた。

「……反応は、ないようですね」エギーは答えた。「相手の警備システムの弱体化プログラムを継続中。ミア殿の妖術も、一時的な継続が可能だそうです」

「よし、次の段階だ」リップルは助手席から立ち上がった。「ブーチ、俺が脱出ハッチの開閉をする。開いたら、この船から惑星クラウの重力場や大気圏への移動を開始したその合図。閉まったら、この船を一度重力場から遠ざけて、ハッキングと妖術の効果がきれるのを待つ。それで、もう一度衛星リングをくぐって、正式な入星手続きをして」

「それで、どうやって、現地でリップル達と通信するの?」とブーチ。「ドックは、行政からの指示で決められる。好きな場所で合流できない」

「僕が、リップル殿とミア殿を、ブーチ殿の船まで飛行送迎します」とエギー。「ブーチ殿の船に、僕のオリジナルの位置情報発信機能を埋め込みました。僕だけが追跡可能です」彼は用意周到だった。

「それじゃ、始めようか」リップルは、ミアとエギーを連れて、この船の奥にある寝室へと向かった。「街中での飛行が禁止だったら、公共バスか徒歩でブーチのところに移動するよ」

 寝室の壁際には、小さな脱出用ハッチがあり、そこを開けると、狭い個室と宇宙服があった。ただ、ミアの妖術がしっかりと展開できれば、呼吸確保と有害放射線からの防御を可能としているため、宇宙服は不要である。

 リップル達が狭い部屋へと入り、寝室とのハッチを閉じ、船外へと繋がるハッチの安全装置を解除させた。

「ミア」初めに、ミアに声をかけて合図をした。「呼吸確保と有害放射線の防御」

「了解」ミアも返事をして、妖術を展開し、光の球体で包んでくれた。「光壁、完成したよ。迷彩妖術も問題ないよ」

「エギー」続いて、エギーに合図を送った。「宙域および空中での飛行準備」

「論理原動機、起動。各エリアでの飛行準備が完了しました」エギーも返してくれた。

 リップルは、エギーの背中に乗りながら、ハッチの開閉ボタンを押した。個室の空気が抜き取られると同時に、宇宙へと飛び出し、星空と惑星クラウを目の当たりにした。青々と広がる海面が視野に入り、リップルの心は、緊張から好奇心へと変わった。

 ブーチの船は、脱出用ハッチの閉鎖と同時に軌道を変えて離れるのだが、こちらからも肉眼では見えない存在であるため、無事に移動できていることだけを祈り、自分達のやるべきことをやることにした。

「大気圏に突入します」エギーは、巧みな飛行を続けて、位置調整をしながら、高度を下げた。

「着陸地点は、海辺の観光地だ」リップルは指示した。「観光客に紛れながら、中心街へと向かおう。座標的には、夕方になりそうな場所だろうな」

 リップル達は、作戦をうまく進行させて、海面へと向かった。
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