上 下
13 / 36

第13話 富士山のように3776

しおりを挟む
 昼休み、学校の別館屋上。
 茶々と龍生は、いつものように二人並んでフェンスにもたれて座りながら昼食をとっていた。
 以前は、二人で話をしたいときにだけここに来ていた。
 ところが、最近は用もないのに昼休みになるとどちから誘うともなく足を運ぶようになった。
 同級生の間でも公然の秘密となっていて、誰も気にしない。
「ほら、食え」
 今日は、茶々が二人分のおにぎりを作って持ってきている。
 茶々がおにぎりを乱暴に龍生の口に突っ込んだ。
「ふごっ」
 龍生がくぐもった声を出した。
「ちゃーちゃんのおにぎり、おいしい」
「当たり前だろ、隠し味が利いてるからな」
「隠し味って何?」
「言わせんな。察しろよバカ野郎」
 茶々が笑った。
「ピアス安定した?」
 龍生が茶々の右胸の先端をつついた。
「はずれー。お前、乳首当てんの下手くそだな。当たったためしねえじゃん」
 茶々が龍生を見下したような態度で龍生を見上げた。
「ピアスはまだちょっとジクジクしてるな。乳首は、穴が安定するのに時間がかかる所なんだよ。もうちょっと時間かかるかも。ちなみに乳首はここな」
 茶々は、龍生の指を自分の乳首に当てた。
「あ、ここだったんだ」
「ブラジャーでどれくらい寄せるかにもよるけど、だいたい耳たぶからまっすぐ下におろしたあたりにあるんだよ、乳首は。よく覚えとけ」
「はい。ところでちゃーちゃん」
「ん、なんだ?」
「ちゃーちゃんドMなんだよね? なんか逆になってない?」
 龍生が苦笑した。
「そうだよ。お前がしっかりしたSになってくれねえと、あたしが困るんだよ」
「いや、そう言われても……」
 龍生が困った。
「ま、さっさと立派なSになって、あたしをいじめてくれよ」
 茶々がケラケラと笑った。
「絶対ちゃーちゃんの方がドSだよね」
「お前、こんなにおとなしくて従順な奴隷に向かってなんてこと言ってんだよ」
「本当におとなしくて従順な奴隷だったら、そんなことも言いません」
 龍生が笑った。
「ちゃーちゃん、ちょっとこっち向いて」
「ん?」
 茶々が龍生を見た。
「またお弁当」
 そう言いながら龍生は茶々の口角に着いたご飯粒を摘み上げた。
「これ、どうして欲しい?」
 龍生が訊いた。
「どうしてって、なに言ってんだよ。お前の好きにすりゃいいじゃねえか」
 茶々は赤面しながらそっぽを向いた。
「俺が食べちゃってもいい?」
「ごじゃっペ。いちいち訊くんじゃねえよ。恥ずいな」
 茶々が首まで赤く染めた。
 その首からは萌が顔を出して二人のやり取りを聞いている。
「じゃあ食べちゃうよ」
 龍生がニコニコしながらご飯粒を口に入れようとした。
「あー、待って、待って! やっばりダメ。私が食べるから」
 茶々が慌てて龍生を制した。
「そう? はい」
 龍生がご飯粒の着いた指を茶々の口に入れた。
「! ? |
 茶々の凶悪な目が丸く見開かれた。
 龍生の指が自分の口に入っている。
「え、これどうしたらいいの? ご飯粒食べようとすると龍生の指も舐めちゃうんだけど……」
 茶々は身動きが取れなくなった。
「どうしたの? 食べないの? 食べないなら俺が食べちゃうよ?」
 龍生が茶々を追い込んだ。
「うー……」
 茶々はどうしていいのか分からなくなった。
 自分が龍生の指を舐めない限り、龍生が自分の口に入っているご飯粒を食べることになってしまう。
 どっちにしても恥ずかしすぎる。
「時間切れだね」
 龍生が茶々の口から指を抜こうとした。
「待って!」
 茶々が龍生の手を押さえた。
 どうせ恥ずかしいなら一番恥ずかしい方がいい。
 茶々のドM心に火が着いた。
 茶々は、龍生の手を押さえたまま目を閉じた。
 口の中に入っている龍生の指に舌を絡ませる。
 龍生の指に着いていたご飯粒はすぐに舌で絡め取ることができた。
 ご飯粒が指から取れたあとも茶々は指を舐め続けた。
「幸せ……」
 茶々が小さな声でささやいた。
 茶々は、まだフェラチオをしたことがない。
 だから、本当に龍生のペニスを口に含んだ感覚も分からない。
 でも、口の中にある指が龍生のペニスのような気がした。
 龍生の指を舐め続けていると、口の中が睡液でいっぱいになった。
 茶々は、喉を鳴らして唾液を飲み込んだ。
〝あー、もったいない〟
 萌が声を上げた。
「あ、ごめんね。飲み込んじゃった。でも、飲み込まないと、私がよだれ垂れ流すことになっちやうから……」
 茶々が萌に謝った。
〝垂れ流しちゃえばいいじゃない」
「え?」
〝よだれを垂れ流している姿を龍生君に見てもらいなさいよ〟
「ちょっと、それは、さすがに……」
〝できない?〟
「う、うん」
〝できるでしよ?〟
「できません」
〝やるのよ〟
「どうしても?」
〝そうね〟
「ふえーん」
 龍生の指を乱め続けていると、また唾液があふれてきた。
 茶々の口角から唾液があふれ出た。
 睡液が顎を伝い糸を引いて滴り落ちる。
 龍生は無言で茶々の口元を見つめている。
 唾液は、とどまることなくあふれ続けた。
 龍生にとんでもない痴態を晒している恥ずかしさが茶々を興奮させた。
「ね、やっぱり私、ドMでしょ」
 龍生の指から口を離した茶々がとろけた表情で言った。
「そうだね。かわいすぎるドMだね」
 龍生が茶々の頭を撫でた。
 茶々の目がふにゃふにゃに垂れ下がった。
〝ね、私の言うことをきいてよかったでしょ〟
「はい。ありがとう」
〝いい子ね〟
「てへ」
 茶々が首から出て身体を伸ばした萌とキスをした。
「あ、いいな萌さんは。ちゃーちゃんとキスできて」
 龍生が萌を羨んだ。
「して、いいよ……」 。
 茶々がうつむきながらつぶやいた。
「え、いいの?」
「うん。何を今さらためらってるのよ。さっさと奪いなさいよ」
 茶々が龍生を見つめた。
 龍生が茶々の両肩を押さえた。
 茶々が顎を上げて目を閉じる。
 龍生の手の震えが茶々に伝わった。
 龍生の唇が茶々の唇に触れようというところまで迫った。
 そのとき、萌がすっと二人の唇の間に割って入った。
 茶々と龍生の唇が重なった。
 唇とともに、重なりそうで重ならなかった二人の歴史がようやく重なった。
 萌を挟んで。
「ちょっと、萌、なんてことしてくれるのよ」
 唇を離した茶々が苦笑した。
「龍生との初めてのキスが3人のキスになっちゃったじゃない」
〝あはは。私も仲間に入りたくて〟
「もー、しょうがないわねえ」
 茶々は嬉しかった。
「萌さんにキスを奪われちゃった」
 龍生が唇を押さえて驚いた振りをした。
「おい、私より萌の話が先かよ」
 茶々が笑った。
「あ、そろそろ教室に戻らなきゃ」
「そうね、萌、帰って」
〝はーい〟
 萌が首の穴に戻っていった。
「やっと龍生とキスできた」
 授業中、茶々は龍生とのキスを思い出していた。
 茶々にとって龍生とのキスは「しちゃった」ではなく「やっとできた」だった。
 小学生のときから憧れていた男子と、ようやくキスできたことが嬉しかった。
〝宿主殿、ご飯もらっていいかしら?〟
「あ、たぶんたくさん出てると思うから食べて」
〝じゃあ媚液は必要ないわね?〟
「全然いらないね」
〝きっぱり言い切ったわね〟
「だって事実だもん」
〝すっかり素直ないい子になったわね〟
「萌のせいでしょ」
 普段は、身体の前の方から子宮を通って膣に入ってくる萌が、今日は珍しく腰の方から膣に向かって動いているのが分かった。
 途中、S字結腸をかすめるとき、わざと揉むように刺激していったため、授業中に便意を催してしまった。
「ちょっと萌、やめてよ」
〝あらごめんなさい。コースを間違えたみたい〟
「白々しいんだから」
 茶々は他の人に気づかれないようにお尻をもじもじさせた。
 萌がぬるんと膣の中に現れた。
「んふ」
 茶々が小さく鼻から吐息を漏らした。
 その日、龍生と下校した茶々は、終始上機嫌だった。
 龍生に痴態を晒したことが恥ずかしくも嬉しかった。
 もっと恥ずかしい姿を見て欲しい。
 龍生は喜んでくれるだろうか。
 そんなことを思いながら龍生と並んで歩いた。
 帰宅後、茶々は県警のエージェントを呼び出した。

/dev/null: おっさーん
POLICE: どうした、語尾が伸びてるぞ
/dev/null: 今日は機嫌がいいんだ
POLICE: そうか。いいことでもあったか
/dev/null: まあな。機嫌がいいから新しい任務があれば受けるぜ
POLICE: それならお前にふさわしい任務がある。今度は潜入ではなく侵入だ。どうだ、血沸き肉踊るだろ
/dev/null: それは、あたしの専門だ。任せろ
POLICE: 心強いな。ランサムウエアを知ってるな
/dev/null: もちろん。ターゲットのファイルを暗号化して身代金を要求するやつだろ
POLICE: そうだ。最近、国内でランサムウエアによる被害が多発している。県警では、その放流者を特定するところまでたどり着いた。だが暗号化されたファイルを復号化する鍵が見つからない。おそらく放流者のパソコンに保管され ているはずだ。それを抜いて欲しい
 /dev/null: なんだ、ターゲットが分かってるのに抜けないのかよ、県警は。情けねえな。分かった、やってやるよ。いつまでだ?
POLICE: 期限は切らない。ただ、実際に被害が発生している。できるだけ早く頼む
/dev/null: ほいほい

 茶々は、さっそくエージェントから提供された放流者のIPアドレスに対するアタックを始めた。
 ウイルスを作成するくらいのスキルを持っている相手だ、それなりにガードも固いに違いない。
 そう思って念入りなリサーチをしてみたが、拍子抜けするほど穴だらけだった。
「なんだこりゃ。よくこれでウイルスなんか作ったな」
 茶々は呆れて気が抜けた。
「こりゃ楽勝だよ」
 臨戦態勢を解いて机の上に足を投げ出した。
 煙草に火を着けて煙を吸い込んだ。
「うまい」
 侵入が成功したあとの一服は特別うまい。
 Shellを呼び出すことに成功した茶々は、ターゲットの隠しファイルを検索した。
「.」
「..」
「...」
 名前がドットだけのファイルがいくつか見つかった。
「ど素人かよ、こいつ」
 茶々は、相手にするのもバカバカしくなってきた。
 ファイル名の先頭に「.」ドットを付けると隠しファイルとなって、通常の検索やエクスプローラーでは見えなくなる。
 クラッカーがターゲットや自分のパソコンでファイルを隠したいときにやる初歩の初歩だ。
 また、「.」はカレントディレクトリ、つまり今いるディレクトリを示すためにも 使われ、「..」はパレントディレクトリ、つまり一つ上のディレクトリを示すために使われるので、ファイル名をドットにするとこれと混同して見落としやすい。
 それを狙ってドットをファイル名に使うことがある。
「この中のどれかなんじゃねえの」
 茶々は、もう仕事が終わったような気分になった。
「あんまり長居すると見つかっちまうからこっちに落とすか」
 ターゲットに長時間居座るのは得策ではない。
 茶々は、怪しいファイルを一括して自分のパソコンに転送してターゲットから撤収した。
「念のためウイルスチェックしないとな」
 ターゲットからダウンロードしたファイルを最新のウイルス定義ファイルでチェックした。
 その結果、ウイルスは検出されなかった。
 どうやらウイルスではないらしい。
「じゃあ開いてみっか」
 茶々は、順番にファイルを開いて中を確認した。
 ほとんどが意味のないテキストや画像だった。
 「...」というファイルあらためたところ、テキストではないバイナリだった。
「ちょっと嫌な予感がするけど、ウイルスチェックしたから大丈夫だろ」
 茶々は、そのファイルを実行した。
「ん?」
 画面に何も表示されなかった。
 ただ、ディスクにアクセスしていることを示すインジケーターがずっと明滅している。
「やられた!」
 茶々は光通信の回線終端装置からイーサネットケーブルを引っこ抜いた。
 通信を根っこから遮断するためだ。
 次に自分が作っているローカルネットワークの接続を全部物理的に遮断した。
 これで自分のところから相手に情報が引っこ抜かれることと、目の前のパソコンから他のネットワークに繋がった機器にウイルスが感染することを防げる。
 目の前のパソコンは、マウスもキーボードも操作を受け付けない。
 ずっとディスクアクセスが続いている。
 電源ボタンを長押しして強制終了させる手はある。
 しかし、ディスクにアクセスが続いている状態で強制終了させた場合、ファイルシステムが破損する可能性がある。
「どうする」
 茶々は逡巡した。
 モニタがふっと暗転した。
 真っ暗になったモニタにテキストが浮かび上がった。
「侵入者君ようこそ」
「歓迎の印に君のディスクを暗号化してあげたよ」
「まだリリース前の暗号なので貴重品だからね」
「復号化して欲しかったら名乗り出て自分がやった間抜けなことを世間にさらけ出すことだね」
「僕は鬼じゃないからヒントはあげます」
 テキストが流れて消えた。
 そのあとに一行だけテキストが表示され、そこで全ての動きが止まった。
「LATEX ORACLE NUMBER Mt. FUJI はアクレと遅くない」
 穴だらけのシステムは、侵入者を油断させて、未知のウイルスを実行させるために、ランサムウエア放流者が仕掛けたトラップだった。
 茶々は、一行だけテキストが表示されたモニタを見ながら放心した。
「くっそ」
 口にくわえていた煙草を灰皿に荒々しく突っ込んでもみ消した。
「あ?」
 一行だけ表示された意味不明なテキストの下にタイマーのような数字が表示された。
 その数字は、一秒ごとに減っている。
 今表示されているのは60だから、およそ1分で0になる計算だ。
 タイマーの下にテキストが表示された。
「僕は親切だからこのタイマーが0になったら自動的にシャットダウンしてあげます。ヒントをメモしないと二度と起動できないよ」
「ちょっと待てよ! まだヒントをメモしてねえって」
 茶々は、慌ててモニタに表示されているヒントをスマホで撮影した。
 タイマーがカウントダウンを続ける。
「3」
「2」
「1」
「0」
「ぶつん」
 パソコンの電源が切れた。
 モニタには、信号が入力されていないというメッセージが表示されている。
「あーあ、やられちまったな。こんなブービートラップに引っかかるとは、あたしもボケたな……」
 茶々は、頭の後ろに手を組んで天井を見上げた。
「それにしてもあのヒントは何なんだよ」
「LATEX ORACLE NUMBER Mt. FUJI はアクレと遅くない」
 まったく意味が分からない。
「ラテックス オラクル ナンバー マウントフジはアクレと遅くない……」
「ウイルスを作るような奴のこったから、LATEXていったらテキストベースの組版処理システムのことか」
「ORACLEはデータベースのことを言ってるのかも」
「わからん」
 茶々は途方にくれた。
「こういうパズルみたいなのは嫌いなんだよな」
「だいたい『富士山はアクレと遅くない』って意味不明だよ」
〝宿主殿〟
「あ、萌、助けてよ。やられちゃった」
〝そうみたいね。それにしても意味不明な日本語ね〟
「そうでしょ。暗号なのかな?」
〝分からないわ〟
「富士山は アクレと 遅くない でしょ。どういう意味なんだろう?」
〝あ、宿主殿! 文節よ〟
「文節?」
〝そう。文を最小の単位に切ってできたのが文節。文節区切りがいじれるわ、このテキスト〟
「どういうことか分からないよ」
〝富士山は、のところは一旦おいとくわよ。そのあとの「アクレと遅くない」っていうところだけど、つい「アクレと」「遅くない」に切りたくなっちゃうでしょ」
「なるわね」
〝でもね、これは「アクレと遅く」「ない」にも切れると思うの。「が」とか|は」
 っていう助詞が省略された形ね〟
「アクレと遅くがないっていう意味になるよね」
〝そう〟
「アクレ、遅く、アクレ、遅く……」
 茶々は、ぶつぶつ言いながらスマホに保存したヒントのテキストを睨み続けた。
 そして、スマホで何かを検索し始めた。
「あった! あったよ萌!」
〝何があったの?〟
「アクレと遅くだよ! ORACLEの中にACLEっていう文字列があるでしょ。これがアクレって読める。いま検索したらこれは実在の地名だから、ここがアクレでいいんじゃないかな。で、遅くだけど「遅い」を英語にすると LATEでしょ。LATEXの中にLATEがあるじゃない。で、こいつらが「ない」んだから、LATEX ORACLEからACLEとLATEを消すのよ」
〝そうするとどうなるの?〟
「XとOR」
〝XとOR〟
「そう。これはたぶんXOR、排他的論理和のことね」
〝排他的論理和?〟
「うん。比較する二つのどちらか一方だけが真であるとき結果が真になるっていう論理式よ」
〝なるほど。ていうことは、どっちも真かどっちも偽のときは、結果が偽になるのね〟
「そういうこと。さすが言語に強いだけあって論理も強いわね」
〝まあね、 だてに歳はとってないわよ〟
「それで、ナンバー富士山は、富士山の標高のことで3776だと思うの」
〝そうね〟
「それで、XORと3776だから、暗号化されたファイルシステムと3776を排他的論理和にかけろ、と。そうすれば元の値に復号化されるんじゃないかしら?」
〝うん。なんだかよく分からないけど、それでやってみたらどう〟
「やってみる」
 茶々は、暗号化されてしまったパソコンのハードディスクを取り出して、サブマシンにスレーブでマウントした。
 もう一台、まっさらのハードディスをマウントした。
 そして、暗号化されたハードディスクのダンプを3776と排他的論理和にかけて、その結果を新品のハードディスクにコピーした。
 コピーしたハードディスクからウイルスに感染した時刻以降に作成されたファイルを削除して、変更が加えられているファイルは変更前の状態に戻した。
「頼む」
 コピーしてできた新品のハードディスクをメインのマシンに取り付けて電源を入れた。
 BIOSは正常に起動した。
 問題はその先だ。
「やった!」
 元通りのOSが起動して、それまでのデスクトップが表示された。
「助かったー」
 茶々が胸をなでおろした。
「萌のおかげよ。ありがとう」
〝私は自分が気がついたことを言っただけよ。そこから発展させた宿主殿の力よ〟
「へへへ、ありがとう」
 茶々が照れた。
〝宿主殿〟
「分かってます。好きなだけいじめてください」
 茶々は、これから始まる地獄を想像してワクワクした。
 萌が知的活動をすると体力を消耗する。
 その体力を回復するために茶々の体液を必要とする。
 そのために萌は茶々を発情させる。
 茶々にとっては、自分でコントロールできない快感地獄を味わうことになる。
〝いただきます〟
「どうぞ召し上がれ」
 茶々は、目を閉じて萌に身を任せた。
 ここから先は、萌が茶々の命までコントロールする。
 茶々がそう望んで萌にすべてを預ける約束をしたからだ。
「ひゃん!」
 茶々が変な声を出した。
 萌は、膣内にいることが分かっているが、快感が身体のどこにも感じない。
 なのに頭が快感を感じている。
「ねえ萌、これなに?」
 茶々が背中をのけ反らせながら萌に聞いた。
〝ふふ、こっちに来ると思ったでしょ〟
「うん、萌がいるまんこにがつんと来ると思ってたら、どこにも来ないのよ。でも、頭は気持ちいいの。すごい変な感じ」
〝脳内に置いてある私の分身が麻薬成分を出してるから〟
「え、麻薬? 中毒にならない?」
 茶々の興奮が一瞬冷めた。
〝大丈夫。普通に脳内で分泌される麻薬成分と同じだから〟
「じゃあ、これに任せちゃっていいのね」
〝快感に命を委ねなさい〟
「はい」
 茶々は、脳内だけで感じる快感に酔いしれた。
 今までとは違った不思議な陶酔感だった。
 転げまわるほどの激しさはないが、意識が浮遊しているような気持ちよさがある。
「これが麻薬なのね」
〝そうよ。中毒性のない都合のいい麻薬〟
 萌が笑った。
「ふふ、気持ちいい」
 茶々がよだれを垂らした。
 意識はしっかりあるが身体は完全に脱力していた。
 どこにも力が入らない。
 いつもならあっという間に絶頂に達して失神してしまう。
 そして、何度も引き戻されてはまた絶頂させられる。
 ところが、今回は絶頂感がない。
 絶頂のほんの少し手前でウロウロしている感じだ。
 かといって、いきたくてたまらないといった焦燥感もない。
 ただただ、絶頂の手前の気持ちよさが続いている。
「ねえ萌、これいつまで続くの? 私、頭がバカになりそうよ」
〝今でも十分バカよ〟
「あ、ひどーい」
〝あはは、ごめんなさい。そうね、1時間くらいは耐えてもらおうかしら〟
「これを1時間? ほんとに脳みそ焼けちゃうよ」
〝いいんじゃない? どうせ死にたいんでしょ?〟
「うん、まあね。じゃあお願いします」
〝はい〟
 意識の中で萌と会話はできる。
 だが、身体は完全に弛緩している。
 顔から表情が抜け落ち、よだれと鼻水、涙が垂れ流されている。
 茶々は、とうとう失禁した。
 茶々の周りにトパーズ色の水たまりが広がる。
 ときどき、茶々が締まらない笑いを浮かべるだけの時間が静かに過ぎた。
 約束の1時間が経過した。
〝いきなさい〟
「無理よ。私の意思じゃいけない。いきそうなのに向こう側に渡れないのよ」
〝そう、じゃあお手伝いしてあげましょうか?〟
「はい、お願いします」
〝強いの一発いくわよ〟
「楽しみ」
 茶々は、大きく息を吸った。
 つもりだったが、まったく身体が反応しなかった。
「んぎゃっ!」
 茶々が叫んで水たまりに倒れ込んだ。
 そして失神したまま深い眠りに落ちた。
 翌朝、目を覚ました茶々は、自分の惨状に涙が出た。
〝宿主殿、おはよう。朝からお掃除、精が出るわね〟
 泣きながら床の拭き掃除をする茶々に萌が声をかけた。
「出たのは精じゃなくておしっこじゃない! なんてことしてくれるのよ」
 茶々は苦笑した。
〝あら、好きかと思ったんだけど〟
「うぅぅ……」
 嫌いじゃなかった。
「とりあえず県警のおっさんに報告だけしとかなきゃ」
 拭き掃除とシャワーを終えた茶々は、復活させたパソコンでエージェントにメッセージを送った。

 /dev/null: あいつの暗号化は、単純なXORだ。ファイルシステムを3776とXORにかけただけだから、また3776でXORすれば複合化できる

 茶々の解析により、国内で流行していたランサムウエアは複合化が可能となり、被害が回復された。
 そして、間もなくして放流者が不正指令電磁的記録作成罪で県警に逮捕された。
「今回もちゃーちゃんと萌さんの力だったね。すごいね」
 ウイルス作成者逮捕のニュースを見た龍生が喜んだ。
「ああ、また萌に助けられたよ。助けられたけど、そのあとがちと大変だった」
 茶々が遠くを見ながら淡々と言った。
「なんとなく想像できるけど、なにかあったの?」
 龍生が首をかしげた。
「いや、まあ、朝方、部屋の掃除をしただけだよ」
「そうなんだ。お疲れさま」
 龍生はニコニコと茶々の顔を見た。
「こいつ、分かってやがんな」
 茶々が赤面しながら膨れっ面をした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生幼女の愛され公爵令嬢

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,159pt お気に入り:2,415

この声が届くまで

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:59

逃げて、恋して、捕まえた

恋愛 / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:54

【完結】神様はそれを無視できない

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:63

異世界転生したら両腕を前に上げてノロノロ歩くゾンビだった

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:79

公爵令嬢は逃げ出した!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:49

会社の女上司と一緒に異世界転生して幼馴染になった

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:215

BL 生徒会長が怖い

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,044

処理中です...