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3話
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生い茂った草木に囲まれ湊は途方に暮れた。
かろうじて命は助かったとはいえつい先ほどまでただの高校生でしかなかった湊がこんな森に放り出されてどうやって生き延びろというのだろうか。
「はぁ…」
闇雲に歩くのも恐ろしくてその場に蹲る。
シーニア姫に渡された短剣の固く冷たい感触に少し安心する。
扱えるかは別として武器があるというだけで心強いものだ。
風で揺れる草木のざわめき、遠くから聞こえる何かの鳴き声。
あの部屋で殺されそうになりその奥にここへ通じる転移魔法陣があったということは湊を殺した後、死体をこの森に捨てるつもりだったのだろう。
シーニア姫がいなければ訳も分からないまま殺されて供養もされず獣の餌になる運命だったのだと悟る。
その事実に気づき今更身が震えて涙が出てくる。
「ふ…うぅ…っ…」
どうして自分がこんな目に合わなければいけないのか。
夢ならば早く覚めて欲しい。
けれど少し掠った首筋の傷がじくじくと痛んで現実であることを知らせてくる。
今頃湊を蔑んできたクラスメイトは柔らかいベッドで寛いでいるのだろうか。
湊を殺せなかったあの執事と逃がした姫は罰を受けることになるのだろうか。
そんな考えがぐるぐる巡って、いっそ一思いに殺されていた方が良かったのではないかと思ってしまう。
ふざけるなと憤って恨みに燃えるような強さを湊は持っていなかった。
(俺がいなくなって悲しむ人なんて…)
そこでふと少女の顔が浮かんだ。
今日初めて話した明朗快活な少女。
なんとなく、彼女は悲しんでくれるような気がした。
(そういえば、名前も知らないな…)
まともな自己紹介もしておらず、友人どころか知り合いを名乗れるかも微妙な関係性。
だというのに彼女なら悲しんでくれるかもと考えてしまう自分に自惚れたものだと自嘲する。
さっきは気を使ってもらったのに冷たい態度をとってしまった。
ちゃんと会って謝りたい。
湊は折れかけていた心をなんとか持ち直して立ち上がった。
ガサッ
「ギギッギィーーーーーッ!!!!」
ザシュッ
木の上から降ってきた鋭く長い三本の鉤爪の猿のような獣。
突然のことで咄嗟に反応できるはずもなく湊は腹を抉られた。
「え…?」
血が噴き出る。
獣は一度飛びのき湊から距離を置いた。
ギギギと鳴く声が嗤っているようにすら感じる。
「あ、う…あぁ…ぐ…」
反動で尻餅をついた湊は少しでも遠ざかるため必死に後退るが痛みと恐怖から思うように動けない。
(あつい、あつい、いたい、こわい…!)
涙で視界が歪む。
なんとか対抗しようと取り落してしまった短剣を手繰り寄せる。
が、手が震えて上手く引き抜けない。
「ギギィーー!!」
獣が襲い掛かってきた。
爪を振り上げ飛び掛かる獣。
迫りくる死に湊は引き抜けず鞘に納まったままの短剣を突き出す。
(いやだしにたくないしにたくないしにたくない!!!)
カッ
「グギッ!?」
短剣が強い光を放ち獣が弾き飛ばされた。
すぐさま体制を立て直した獣だったがどういうわけか目の前の湊を見失ったかのように不思議そうにあたりを見渡しやがて首を傾げながら森の奥へと消えていった。
「はぁっ、はぁっ…はぁ…」
(たすかっ…た?)
どういう効果か分からないが短剣の力で追い払うことができたようだ。
またしても姫のおかげで命拾いしたことになる。
しかし、止めを刺されなかったというだけで負った傷は深い。
(けっきょく…しぬのか…)
湊の意識は闇の底に沈んだ。
かろうじて命は助かったとはいえつい先ほどまでただの高校生でしかなかった湊がこんな森に放り出されてどうやって生き延びろというのだろうか。
「はぁ…」
闇雲に歩くのも恐ろしくてその場に蹲る。
シーニア姫に渡された短剣の固く冷たい感触に少し安心する。
扱えるかは別として武器があるというだけで心強いものだ。
風で揺れる草木のざわめき、遠くから聞こえる何かの鳴き声。
あの部屋で殺されそうになりその奥にここへ通じる転移魔法陣があったということは湊を殺した後、死体をこの森に捨てるつもりだったのだろう。
シーニア姫がいなければ訳も分からないまま殺されて供養もされず獣の餌になる運命だったのだと悟る。
その事実に気づき今更身が震えて涙が出てくる。
「ふ…うぅ…っ…」
どうして自分がこんな目に合わなければいけないのか。
夢ならば早く覚めて欲しい。
けれど少し掠った首筋の傷がじくじくと痛んで現実であることを知らせてくる。
今頃湊を蔑んできたクラスメイトは柔らかいベッドで寛いでいるのだろうか。
湊を殺せなかったあの執事と逃がした姫は罰を受けることになるのだろうか。
そんな考えがぐるぐる巡って、いっそ一思いに殺されていた方が良かったのではないかと思ってしまう。
ふざけるなと憤って恨みに燃えるような強さを湊は持っていなかった。
(俺がいなくなって悲しむ人なんて…)
そこでふと少女の顔が浮かんだ。
今日初めて話した明朗快活な少女。
なんとなく、彼女は悲しんでくれるような気がした。
(そういえば、名前も知らないな…)
まともな自己紹介もしておらず、友人どころか知り合いを名乗れるかも微妙な関係性。
だというのに彼女なら悲しんでくれるかもと考えてしまう自分に自惚れたものだと自嘲する。
さっきは気を使ってもらったのに冷たい態度をとってしまった。
ちゃんと会って謝りたい。
湊は折れかけていた心をなんとか持ち直して立ち上がった。
ガサッ
「ギギッギィーーーーーッ!!!!」
ザシュッ
木の上から降ってきた鋭く長い三本の鉤爪の猿のような獣。
突然のことで咄嗟に反応できるはずもなく湊は腹を抉られた。
「え…?」
血が噴き出る。
獣は一度飛びのき湊から距離を置いた。
ギギギと鳴く声が嗤っているようにすら感じる。
「あ、う…あぁ…ぐ…」
反動で尻餅をついた湊は少しでも遠ざかるため必死に後退るが痛みと恐怖から思うように動けない。
(あつい、あつい、いたい、こわい…!)
涙で視界が歪む。
なんとか対抗しようと取り落してしまった短剣を手繰り寄せる。
が、手が震えて上手く引き抜けない。
「ギギィーー!!」
獣が襲い掛かってきた。
爪を振り上げ飛び掛かる獣。
迫りくる死に湊は引き抜けず鞘に納まったままの短剣を突き出す。
(いやだしにたくないしにたくないしにたくない!!!)
カッ
「グギッ!?」
短剣が強い光を放ち獣が弾き飛ばされた。
すぐさま体制を立て直した獣だったがどういうわけか目の前の湊を見失ったかのように不思議そうにあたりを見渡しやがて首を傾げながら森の奥へと消えていった。
「はぁっ、はぁっ…はぁ…」
(たすかっ…た?)
どういう効果か分からないが短剣の力で追い払うことができたようだ。
またしても姫のおかげで命拾いしたことになる。
しかし、止めを刺されなかったというだけで負った傷は深い。
(けっきょく…しぬのか…)
湊の意識は闇の底に沈んだ。
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